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05.大切な仲間

 コン コン


 書き物をしていると、部屋の扉が叩かれた。

 自分が居るのは国から宛てがわれた執務室。

 外は雲ひとつなく晴々しているのに、なんだか嫌な予感がするなあと僕の胸はざわつく。


「どうぞ。」


 そんな中、顔を出したのはレオンで。


「やあ、モイーズ。」


 そう言って彼は陽気な笑顔を浮かべた。

 僕は握っていたペンを机にそっと置く。


 なにかあったのだろう。

 まあ大概、こうやって彼がいきなり訪ねてくるのはルイに関することなのだが。

 でも、あいつはお姫様のご機嫌取りで今はいないはず。

 はてさてどうしたことやら。


 僕は重たい腰を上げて彼の元に向かった。


「やあ、多忙なレオンくん。君がわざわざ訪れるとは、またまた厄介な事でも起きたのかい?」


 大袈裟に身振りを加えながら僕は問いかける。

 だが彼に座るように促すことはなかった。

 本当にレオンはいつも忙しいのだ。

 きっと急ぎの用事だろうと彼の都合を考える。


「ルイが帰って来たぞ。」

「はっ!?」


 そんな一転したレオンの神妙な発言に、僕は思わず驚きの声を上げてしまった。


「嘘じゃない。すでに城にいるぞ。」

「いや、疑っている訳ではない。ただ信じられないだけだ。だって数日前に出発したばかりだろ? あいつ一体、何をやらかしたんだ!?」


 僕は顎に手を当てて黙り混む。


「何だろうなあ。まあ、この日取りからして相手の国からとんぼ返りって所だろうな。」

「ルイは今何処に?」

「まだ謁見の間で国王と対話中だ。あいつの部屋で待ち伏せしとこうぜ。」

「待ち伏せって……。」


 彼の提案に僕は躊躇してしまう。

 だって言いたい事があるなら、話せるならあいつの方から声を掛けて来そうなものだから。


「おかしいと思っていたんだ。」


 そんな僕の態度なんかお構いなしに、レオンが顔をしかめて話を進めた。 


「レオン……。でも“おかしい”って何かあったのか?」

「ああ。いや、実際に見た訳ではないのだ。あいつがここを発つ数日ぐらい前からだろうか、“元勇者が書簡が届く控室の前でずっとウロウロしてる”って噂が耳に入ってな。」

「“元”って酷いなあ。でもそれって……。」

「ああ、ルイの言っていた“両想いの相手”からの手紙を待っていたのかもしれない。」

「じゃあ、ルイはジョリヴェ国の縁談を断ったと?」

「それはないだろう。あいつの事だ。だが、何かが起きている事は確かだ。」

「……部屋で待つか。」


 僕は彼の意見に同意した。


 あいつが一人で何か重大なことを抱え込んでいるのかもしれない。


 そう思ったのだ。




 バンっ


 ルイの執務室で、僕とレオンは息を呑んで彼の帰りを待っていた。

 そこに勢いよく開かれた入口の扉。

 僕らがここを訪れてから数分もしないうち、待ち人が現れる。


 僕は顔を勢いよく上げた。

 そこには“軽快に”スキップをするルイがいて、


「え。」


 呆れるあまり、僕の開いた口は塞がらない。


 しかも鼻歌まで歌ってるし。


 僕は口元を引き攣らせた。


「フっフフ~ン。ってあれ!?」


 僕らの存在に気付いたのか、ルイが肩をピクリとさせて後ろを振り返る。


「「……。」」


 心配して損した。


 そんな思いが僕の中に充満する。

 きっとレオンもそう思っているのだろう、僕の隣から大きな溜息が聞こえてきた。


「ど、どうしたんだ?」


 そんな中、ルイが心配そうに顔を歪めながら駆け寄って来る。

 突如現れた僕らに戸惑っているのか、すこし焦っているようにも思えた。


「“どうした”かなんて、こちらが聞きたいのだが?」


 横を見れば、眉間に皺をよせながらルイに詰め寄るレオンの姿が映る。


「え?」

「追い出されたのだろう? いくらなんでも帰るのが早い。晴れて向こうから婚約破棄でもされたのか?」

「いやいや、破棄なんてさせるものか。だって彼女は俺の運命の相手だっっっ!」


 レオンの脅しをものともせず、そう言って目を輝かせながら天を仰ぐルイ。

 そんなあいつに、驚くかな、イライラが募る自分が居た。


「ねえルイ。此処を発つ前に言っていた両想いの相手はどうなったの?」


 自分でもこめかみに怒りマークが出来ている事は分かる。

 ルイが見た事もないぐらい真っ青に顔を染めているのだ。

 これでもできるだけ冷静を保っているつもりなのになあと、ちょっと心外に感じている自分が居た。


「え……だから……それは……。」

「そうだ。まあ、あんな別嬪さんに言い寄られれば靡いてしまうのも仕方がないのは分かる。だがなあ、数日前までお前は他の女と運命を誓い合っていたのではないのか? それなのに全くこうもコロっと態度を変えてしまうとは、男の風上にも置けんな。」


 レオンが侮蔑の眼差しをルイに向ける。


「いや、違うんだっ! その両想いの相手と言うのが王女であったのだ。」


 そんな意味不明ないい訳に、僕達は呆れ返っていた。


「じゃあなんだ? お隣の王女様と勇者のお前が偶然にもそこらへんでばったり会ったと言うのか? 会える訳ないだろう。それこそ運命だ。あ、それとあれか? 王女の姿絵を買って“これ俺の嫁”発言してたとか。なんて痛々しい……。」


 レオンが憐みのポーズをとってルイを励ます。


「実はそうなんだ。」

「「え……。」」

「あ、いや、“俺の嫁”の方じゃないぞ?」

「それは分かってるよ。」


 僕は改めてルイを見返した。


「ルイ、王女様とどこかで会ってたの?」

「おいおいモイーズ、冗談はよしてくれ。あんなか弱そうなお姫様が城から出てみろ。すぐ賊に攫われてしまってお終いだ。うちの王女様ならまだしも。」

「いや、それが本当に……。」


 トン トン


 その時、部屋の扉がノックされた。


「どうした。」


 ルイが声を出す。


「申し訳ありません。ジョリヴェ国からルイ様宛に急ぎの書簡が届きまして……。」

「入れ。」


 ルイが書簡を受け取り、それに目を通す様子をじっと観察していた。

 するとみるみるルイの表情が曇る。


「ルイ、どうしたの?」

「リアが……。」


 そういってルイが手紙を手からポロリと零した。


「リア?」

「王女の名前だろ。」

「ああ。」


 僕はレオンとこそこそ喋る。


「あああああ……。」


 その場に崩れ落ちるルイ。


「ど、どうかしたのか?」

「ルイ、気をしっかりっっっ!」


 僕達はルイに駆け寄り、床にくるまる彼の傍に腰を下ろした。

 手を掛けていいのか分からずその場でオロオロしていると、こうなった元凶の手紙が落ちているのが目に入る。

 だが、ちょうど伏せていて手紙の内容までもは掴めない。

 僕はチラリとレオンに目を向けた。

 それに合わせてゆっくりと頷くレオン。


 ルイの為だ。


 そう思って、ソロソロとそれに手を伸ばし、静かに裏返す。

 僕とレオンはこくんと唾を飲み込み、手紙の内容を確認した。


娘は妊娠していませんでした。

by王妃


「「……。」」

「既成事実が消えた――っ!」


 と頭を抱え込むルイがなんだか見苦しい。


 この変態が――っっっ!


 そう言ってレオンが床に丸まるルイをボールの様に転がすのを、僕は笑顔で眺めていた。

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