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21.真実

 私は固い決意を持って呼び出されるのを待っていた。


 部屋に幽閉されて十日が経ち、やっと父との面会が行われるかと思ったら、なんといきなり私と婚約者との対面式が開かれると知らされたのだ。

 それに備えて準備を施された私は、自室にてその時を待つ。


 トントン


 その時、再び私の部屋の扉がノックされた。


 ……迎えが来た。

 私は、これから会う人物を騙さなくてはならない。

 一生。

 いるかもしれない子供の為に。

 そして、国の為に。

 ……男は上手く騙されてくれるだろうか。

 失敗は絶対に許されない。


 私は緊張からか、返事も出来ずにその場に座り込んだままでいた。

 こんな所で足踏みをしていては実際に婚約者と対峙する時はどうなるのだと、私は自分を奮い立たせる。


 その時、痺れをきたしたのか、扉の向こうの人物が声を出した。


「入りますよ――。」


 と勝手に許可を取り付けようとする呑気な声に、私はハッとする。


 ……え?


 その聞きなれた声に私は動揺した。

 いつもとは違い敬語ではあるが、この声は……。


 ガチャ


 ドアのノブが回された。

 そろそろと開かれる扉から、そっと顔を出したのはやはりルイで。


「ルイっっっ!!」


 思わず叫んだ私は、彼の元に駆け出していた。

 ルイはそんな私の態度を受け、急いで部屋の中に入って後ろ手に扉を閉める。

 私は彼に勢いよく飛びついた。


「オリアーヌ王女、この度は……。」


 そんな私にルイはぎこちなく挨拶を述べる。

 彼は気まずそうに体を固くし、私がしているように抱き返してはくれなかった。


「ルイ? ……あ……そうだな。お前はもう、あの国の王女のもの……。」


 彼のよそよそしい態度に、私の胸がズキズキと痛みだす。

 私は彼に回していた腕をそっと解いた。


 グイっ


 だが次の瞬間、私の手首はルイに絡め取られる。


「やっぱりな。」


 そう言うと彼は私の腕を再び自分の身体に巻くよう促したのだ。

 そして、今度はルイも私を大きく抱きしめる。


「ルイ!?」


 彼の胸に押し潰れそうになりながらも、私は混乱していた。


「リアが俺を騙す訳ないって分かってた。なのに、試すような真似してすまない。」


 ……何が起きているのだ!? 


「うう……重いよ、ルイ。」


 でもその重みが嬉しいと、私は自然と彼をきつく抱き返した。


「リア。」

「ん? なんだ?」

「結婚するんだって?」


 彼の言葉に、私の身体が一瞬にして凍りつく。


「……。」


 ドク ドク ドク


 心臓が早く打ち出し、私は息がしづらくなった。


 ……もしかしてルイ、隣国の代表として賛辞を言いに来たのか?


「……その様子だと、リアは誰が自分の結婚相手か知らないんだな?」


 ルイがなおも楽しそうに言ってくる事に、私の張り詰めた心の糸がとうとう切れてしまった。


「何が嬉しいのだ? ルイ。」


 そう言って私は彼の身体を突き放す。

 そうされるとは思っていなかったのか、ルイの身体は簡単に私から剥がれ落ちてしまっていた。


 ……どうして……どうしてもっと強く私を抱きしめててくれないのだ!?


 矛盾する態度と想いに、私の頭の中は混乱する。


「リア。」

「帰れっっっ!!」

「違うん……。」

「早く帰れってばっっっっ!!」


 私はルイの言葉に被せるようにして泣き叫んだ。

 彼から……ルイから弾んだ声で私の結婚相手の名前なんか報告されたくなかったのだ。


「愛してるっ。」

「ル……。」


 今度は彼の言葉をかき消すことは出来なかった。

 むしろ私の方が最後まで言えず……。


 ……え……。


「君の結婚相手は俺だよ、リア。」


 そう言ってルイは私の手を包み込んだ。


「え……だって、婚約者は王女だって……。」

「君も実は王女だったんだろう? 村の薬屋さん。」


 彼が眉を歪ませ、困ったように笑う。


「そ……けど、なん……。」


 涙で視界が滲む私は、嗚咽がこみあげて来て上手く喋れなかった。


「なんでだろうね? 君のお父さんん聞いてみようか。」


 そう言って、ルイが私の部屋の扉を開ける。

 そこには呆れ果てた様子の父が居て。


「落ち着いたかい? この親不孝娘。」


 なんて言って優しく笑ってきた。



「やっと起きれたわ。」


 どこから現れたのか、先程までいなかった母が父の隣に現れる。


「……。全部話して下さい。」


 私は両親をキッと睨んで答えを催促した。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 父の書斎に連れられた私は、ルイと両親の四人で机を囲んだ。


「私が何処にいたか知っていたのですか?」

「私は知らなかった。」


 私の問いに、父が厳かに答える。


「“私は”ってことは、母さんは知ってたの!?」

「当たり前でしょう? 私を出し抜こうなんて百年早い。」


 母が気だるそうに私をあしらった。


「じゃあ、ルイとのことも……。」

「そうよ。すぐに報告は受けたわよ。だから急いで婚約を取り付けたの。いくらやりたいようにさせてるからって、結婚前に王族が妊娠するのはちょっと……不味いでしょう?」


 そんな母の非難じみた答えに私の顔はさっと赤くなる。

 顔向けも出来ないと、私はそっと母親から視線を反らした。


 すると、両親の喧嘩声が部屋に響き渡りだす。


「だから私は初めから反対だったんだ。」

「反対って、あなたがこの話を私に勧めたんでしょう? 縛りから抜けさせて自由にさせてやりたいって。まあ、私も精神的に強くなってもらいたかったから協力はしたけど。」

「そ……それは……まさかこんなに長い期間だとは思わなかったんだ。」

「長いってたった一年よ?」

「一年と二カ月だ。」

「……細かいわねえ。でもあと、二年は自由にさせるつもりだったし。」

「に……ニ年!? おまえ……。」


 ルイがいるのにと、恥ずかしさから慌てた私はさっと立って両親の間に入る。


「――はい。喧嘩は後にしてください。で、何でギリギリまで私の結婚を教えてくれなかったのですか?」


 私は話題をそらそうとした。


「それは母さんが……。」


 父がちらりと母を盗み見る。


 ……やっぱり母さんか……。


 私は目を細めて母を見つめた。


「……だって、リアずるいっっ! 私だって旅行したいのに出来ないのですよ!? それなのに……。」


 驚いた私は目を丸くした。

 だって、普段は何事にも興味を示さない母が、子供のように駄々を捏ねているのだ。


 ……はて。こんな母だったか?


 私はまじまじと母親の動向を観察する。


「王妃様は遠出はされないのですか?」


 と、ルイが唐突に家族の会話に入り込む。


 ……いや、ルイももうすぐ家族になるけどさあ。

 って……家族って……。


 思わず口元を押さえた私は、緩みだす顔を隠した。


「それがねえ、この人が許してくれないの。視察にも同行させてくれないのよ!? あり得ないわよね。しかも、この人が居ないときは私、部屋に軟禁状態。リアにも会えないのよ。信じられないでしょう?」


 母はそんな私にお構いなしにルイの質問に答えていく。

 それを受けた父が、自分の行動を擁護した。


「それは、箱入り娘のリアと違ってお前は間諜の教育をしっかり受けてるから。その技術をどこぞの男に使われては困るからなあ。」

「……使う体力が残ってないのはあなたが良く知ってるでしょう?」


 そんな父を、母は恨みがましそうに見つめる。


「もちろん。」


 してやったりの父はホクホク顔で母を見つめ返していた。


 ……なんだこのイチャイチャ。


「……すまないルイ、こんな親で。……ルイ!?」


 申し訳ないと彼に目を向ければ、そこには目を輝かせたルイがいて……。


「なるほど。やはり、やり倒すのが秘訣ですか。」


 とほざきだした。


「はあ!?」


 だが彼に言葉で反撃しようとするも、父に押しやられてそれは叶わない。

 私は絨毯に体ごと倒れ込んだ。


「君とは意見が合いそうだ。」

「お父様、ぜひ素晴らしい知恵をもっとご教授願います。」


 と、床にへばりついてる私の視界には、頼もしそうに握手を交わす男共がいて……。

 母と同じ運命を辿ることが決まったのだと、私は思い溜息を吐いた。


 ポン


「……。」


 そんな私の肩を、母が優しく叩くのが分かった。

拙い文章を最後まで読んで頂き、ありがとうございました。


また小話やその後のお話など、載せれれたらいいなと思っています。

その時はまた読んで頂けたら嬉しいです。

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