番外3 神の忘年会 後編
最初からクライマックス
強制的に始まってしまったからには、どうしようもない。こんなものは、さっさと終わらせてしまうに限る。俺は意を決して、この茶番を始めてやった。
「び………B男君……じ、実は今日は、話したい事がある、の……」
俺の第一声で、会場はクスクスと笑に包まれた。少しは女装の俺の姿に慣れて笑いが収まって来たところだったのだが。中には指を刺して爆笑している奴も居る。
くっそおおおおおおっ!!!!!!
畜生!!!!ぜってぇこいつら全員ただじゃおかねぇ!!!!!
俺は怒りに全身を震わせながら、アドリブのセリフを進める。
「ろうしたんだい?A子!?」
両手を大きく広げて、先輩はいつもじゃ考えられないオーバーリアクションで返事をした。最早この場にいる全ての人間の一挙一動が腹立たしい。
「実はね、私、B男君の事がずっと前から好きだったのぉっ!!!!」
怒りで語尾が強くなってしまったが、俺は全力の作れていない作り笑顔で先輩の顔を睨みつけた。
「それは、ほんろうかい!?……A子!!僕も君が大好きらったんら!!!愛しへる!!!!!」
先輩は両手をまたガバッと広げると、そのままの形で俺を抱きしめてきた。
男同士の熱い抱擁なんて何も嬉しくない。むしろ地獄である。先輩の力強い腕に抱きしめられながら、俺は役に徹した。
「う……うわあい。………えぇ子、嬉しいっ!!!び……男君、だっ、大好きっ!!」
死ね!!とりあえず皆死ね!!!
そんな言葉しか出てこない俺の心情を、この場の誰が汲んでくれるのだろうか。
俺たちの周りでは、爆笑と囃し立てる声や指笛が鳴っている。しね。
完全に酔っている先輩が、物語をさっさと進めるなんて難しい。グダグダ続くくらいなら、率先して話を進めて早く終わらせたい。
「そ、それでね……A子、お願いがあるの!」
先輩に抱きしめられた状態で俺は言った。いいから早く離してくれ。
「僕にお願いってなんらい!?A子の頼みならなんらって聞くさぁ!!」
先輩は俺の二の腕辺りを掴み、少し体を離して向き合った。完全にノリノリである。この阿呆は。何やってるのか分かってんのか?
「A子……B男君とでぇとがしたいなあっ。ダメかなあ?」
断れ。と言わんばかりの口調で先輩に言ったが、先輩は全く気にしない。
「何言ってるんらい!もひろん一緒にひこう!!!!どこに行きたいんらい?」
先輩は満面の笑顔でOKと言った。くたばれ。
「うーんとお……き、綺麗な夜景が見たいかなあ?」
「らゃぁ、上空エリアにひこう!定番らが、ひじょうも、うしゅう空間も両方見れるかな!低軌とうと中軌とうのどちらがいいらろうか……地上を見たいらら低軌とうらし……ひかし、夜景ならほひしょらか?」
上空エリアとは、人工衛星なんかが軌道として飛んでいる辺りだ。手軽な学生デートスポットのド定番である。一般人には宿泊、レジャー施設が主だっているが、研究施設だとか公的な機関などもある。地球付近の低軌道は地球が良く見えるし、その上にあたる中軌道は宇宙空間に漂っている気分になれる。何言ってるかよく分からないけど、多分これだと思う。
「そ、そうね!上空エリアの中軌道に行きたいなあ……」
もうなんでも良いよ。夜景が綺麗な所がラストシーンだが、宇宙空間に朝とか夜とかねぇし。
「れは、明日の休みは朝からいっひょに行ほう!A子の家まれ迎へにいふよ!!」
「ありがとう!!とっても楽しみ!!」
そう言って俺達は少し距離を取り、すぐさま翌日のシーンに入った。なんだこの茶番は。
「A子!早く行ほう!迎へにきらぞ〜!!」
「わぁ!B男君ありがとう!じゃあ、早速行こうねっ!!」
俺は先輩の方に駆け寄った。すると先輩は俺の手を握り、ブンブン振り回しだす。
全然嬉しくねぇ………。
先輩は暑っ苦しい熱血漢ではあるが、見た目はごっついタイプでは無い。しかし男の手らしくデカイし硬いし骨ばってるし、恋人つなぎなぞしても、お互いの節のある指がぶつかり痛いだけだ。
俺がウンザリしているのなんて全く見ていない先輩は、楽しそうに上空デートを再現している。多分、実際にやった事あるんだろうな。ていうか、酔った先輩はその思い出再現中なんだろうな。
「いやぁ。やっはり、ここからの景色はいふみへもいいな!!地球が青くへ綺麗らろ、A子もこっひ来てみろろ!」
先輩にグイグイ引っ張られ、上司や同僚達の方を向きながら演技を続けた。目の前の奴らは相変わらず爆笑の渦だ。普段は控えめそうな人も笑いを堪え切れずに肩を震わせ続けている。
「わあ!私、ここからの景色、凄く好きなの!」
だいぶ女言葉も慣れてきた。いや、こんなもん慣れたくもないんだが。この状況にも勿論慣れたくはないし。
俺は茶番を終わらせるために、なるべく心を無にしようと努め出した。
こんなもの、棒読みでいいのだ。俺の怒りが伝われば、それはそれで奴らにとっては良い肴となってしまいかねない。爆笑しているこいつらの顔を見てると、怒りに歯を食いしばってギリギリと音を立てそうになる。
俺はその後も先輩とのデート演技を続けた。ラストは夜が条件なので、朝から待ち合わせして、夜まで再現するのはかなり工程が多い。本当に辛い。何すればいいんだ。さっさと夜にして欲しいのに、この阿呆は馬鹿丁寧にデートコースの再現をしてくる。
「ふぁい、あーん」
「あ、……あーん……」
「お!口のまはりについれるろ」
先輩の指が俺の頬と口元をなぞる。頭の天辺から足の先まで硬直しながら、俺は色々なものを押さえ込んだ。
女子にすらした事がない、バカップルぶりを先輩とする…………俺の心は無である。無である。
…………なんでだろう、涙が出そうな気持ちになる。心なしか、目頭が熱くなる様な錯覚を起こす。
「なんら?泣きそうらないか」
どうやら、本当に俺は泣きそうな顔をしているらしい。長引く茶番劇に冒頭の怒りのテンションは影を潜め、疲れの色が濃くなる。 本当辛い。
「び、B男君と一緒に居れるのが嬉しくて……つい………」
「僕もA子ろ一緒れ嬉ひいぞ!!」
ガバッと抱きしめられ、そして肩をがっしり掴んだ先輩は俺を見つめた。死ね。
だ、だが!これは……ラストシーンに入れる!!!!
よっしゃ!さっさと終わらせ……終わら……せ…………せ、先輩は俺に「らい好きら!愛ひてる!!!!」と言い、目を瞑ってキスを迫ってくる。
(先輩……!フリっすよ!フリ!寸止めで!!手で顔隠して、十センチくらい手前で寸止め!!!!)
俺が必死に小声で繰り返しているのに、先輩の耳には全く聞こえていない。
どんどん、自分の顔が引きつっていく事を実感する。俺は百七十五センチ程度。先輩は身長、百八十はある。先輩の方が背は高い。なので三十センチくらいの距離だった先輩の顔が、徐々に降りる様に近づいてくる。むちゅーって唇を押し出してるとか、以外とまつ毛長いとかそんな描写なんていらねぇから、何とかしろおい!こら!!!!
俺は神なんて居ないと考える無神論者だが、この仕組まれ感を出す何処かの誰かに叫んだ。ささやかな現実逃避だ。
そんな事をしている間に、先輩の唇は近づいてくる。あと……十センチをきった………五……三……二…
「そおぉいっ!!!!!!」
俺は先輩の腰に当てていた手に力を入れて下手投げみたいな、軸足で回るような形で先輩を全力で投げ飛ばした。
先輩は全く警戒していなかったので、抵抗する間も無く投げる事が出来た。床と壁に顔面を強打して、ぐったりのびて動かなくなっている。
大拍手と歓声の中、俺はツインテールのカツラを床に投げつけ、ミニスカートから伸びた足で踏みつけたのだった。
主人公、元気にたくましく馬鹿に育って良かったな。
7神の世界観、存在子の説明ですが、「どんなもんかイメージ湧かない!」
というご意見が多かったら、図解を作ってありますので、載せようかと思います。個人的、図解載せるのはどっちでもいいかなと思ってます。
欲しい。と思う方は、彼岸のユーザーページからのメッセージやTwitterにて「図解見てみたい!」と一言ください。
とりあえず、今回の話での解説を図解しました。他にも設定はありますが、それは続編で語れたら、と。
次回、最終更新となります。
最後は4話続けての更新です。
更新終わったら、Twitterにて
「完結したぜー!!!」
って叫んでる事確実なので、良かったら絡んでください。
最後まで読んで頂いた後。
読者様からの感想とか評価とかお待ちしております。熱望しております。
評価感想!って普段は激しく主張してないけど、凄い欲しいんだよ。うるさいかなと、我慢してるだけなんだよ。ずっと我慢したから、最後に言っとく。
7神応援して頂ける優しい方よろしくお願いしますm(_ _)m
あと、完結記念にプレゼントを用意しています。需要は分からないけど、ささやかなお礼です。
ラストの後書きにありますので、良ければどうぞ。
最終更新は
5月23日(土)深夜0時頃
4話続けての更新となります。
ラスト1日、お付き合いください。




