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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第441話 コロネ、定期講習会を見学する

「今日はもう、市場はおしまいなんですか?」


 カミュさんが走り去った後で、ヤータさんから色々と素材を見せてもらっていたんだけど、ふと辺りを見ると、周りのお店が後片付けを始めているのに気付く。


 あれ?

 もしかして、けっこう時間が経ってる?

 いや、確かに、さっきの『原初の竜』の牙とかの他にも、面白いものを見せてもらっていて楽しかったんだけど。

 琥珀色に輝く骨が、実は海神さまの骨だって説があるらしいとか、一見すると、ただの大きな羽根にしか見えない銀色の羽根が、ブリリアントコッコっていうモンスターの羽根で、それを持っていないと『魔王領』にあるコッコ種の集落には入れてもらえないとか。


 精霊銀でできた食器セットなんてものもあった。

 いくつかのスプーンが箱に入っていて、いかにも高級そうな輝きなんだけど、誰が何のために作ったのかは謎だったりとか。

 『ドリファンランド』由来の人形種の瞳、ってアイテムもあったしね。

 さっき、工場でスピカさんの周りを飛び回っていた目に近い感じで、これ自体が魔法アイテムのような効果があるのだそうだ。

 とある事情でヤータさんが譲り受けたものらしくて、詳しい効果とかに関しては秘密だったけど、まるで生きているかのような感触がちょっとこわかったかな。


 何となく、ヤータさんって、そういった来歴とかが曰くつきなものを集めるのが好きなのかな?

 アイテムや素材自体もめずらしいけど、それがどういうもので、どういう経緯で手に入れたかとかの話の方が実は面白かったし。


 おかげでいつの間にか時間が経っていたらしい。

 もしかして、そろそろ、メルさんとリディアさんの対決の時間なのかな?

 本当は、その前に、酒蔵にも顔を出したかったんだけど。

 一応、果物は手に入ったから、キルシュの件で交渉したかったんだけどね。


「ああ、そうだぞ。ある程度、広場内に舞台を整えないといけないからなあ。青空市は早々にお開きだ。もうすでに、おじさんの部下たちが動いているからな。ヤータもそういうわけだから、そろそろ頼むぞ」


 さすがに貴重な品が壊れたりするとまずいからなあ、とボーマンさんが苦笑する。


「何せ、メルの方から一定範囲内には観客を入れないように指示が出ているんだ。おそらく、かなり大掛かりな魔法を使うんだろうなあ。念のため、見ている人たちにもポーションを配るって話だぞ」


「わかりました。早々に店じまいをします」


 そう言って、先程並べたばかりの素材を、また自分のアイテム袋へとしまっていくヤータさん。

 結局、お昼ごはんの後でお店を開いても、コロネとボーマンさんの相手だけで終わっちゃったようだ。

 何だか、申し訳ない気がするよ。

 いつもだったら、もう少し遅くまで青空市が開いているから、今日に関してはちょっと間が悪かっただけなんだろうけど。


「それとコロネもこれから、定期講習会の見学をするんだろう?」


「はい、やっぱり、興味がありますし」


 メルさんもリディアさんもどっちも知っている人だしね。

 そもそも、それでなくても、模擬戦とはいえ、誰かが戦っている姿って、この町にやってきてから、ほとんど見かけたことがないし。

 一応、サーカスの時のポン太くんとフェンちゃんのぶつかり合いくらいかな。

 後は、戦闘訓練でも誰かが戦っているのを外から見たことなんてないものね。


「だったら、前もって伝えておくが、見学はこの広場の外側から頼むぞ。広場の中……今、青空市が広がっている全域は立入禁止区域になるからなあ」


「随分と広いんですね?」


 ちょっとびっくりした。

 何せ、この青空市をやってる広場って、けっこう広いから。

 端から端までだと、ちょっと見えないんだけど、そういうところで実演するの?


「ああ。一応、ドロシーが魔女の遠見用のアイテムを持ってきてくれるから、それで近くで見ることができるぞ。ただ、今回の模擬戦はかなり危険なことの実験らしいとだけは、おじさんも聞いているからなあ。あのメルがわざわざ危険っていうからには、念のため、余裕を見た方がいいだろうなあ」


 何せ、致死量の毒でも、そういうことは言わないから、とボーマンさんが苦笑いする。

 えーと……。

 それって、かなりシャレになってないんじゃないのかな?

 一応、ボーマンさんたちの判断で、立入禁止区域を当初よりも広げたのだそうだ。

 メルさん的には、広さにして、あっちで言うところの半径百メートルから二百メートルくらいらしいけど、そこから大分広げて、広場全域ってことにしたそうだ。


「万が一に備えて、メル自身も色々と声をかけていたらしいから、メルも今回は本気なんじゃないかってところだなあ。めずらしく張り切っているようだぞ」


 あー、そう言えば、この間、『ベネの酒』で作ったアイスを持って行った時に、かなりやる気スイッチが押されちゃった感じだったものね、メルさん。

 そう言えば、あの時に食べ残した分のアイスはどうしたのかな?

 案外、実験とかに使っちゃったのかもしれない。

 ただ、あの時のメルさんの目を見る限り、とっても真剣なのは間違いないだろう。


「まあ、もう少しで夕方に差し掛かるからなあ。それまでには準備を終わらせるから、コロネたちももう少し待ってるといいぞ」


「はい、わかりました」


 そんなこんなで、ショコラを抱えたまま、広場の周辺をうろうろするコロネなのだった。





「うわあ、何だかすごく人が集まって来たねえ」


 青空市が片付いて、元の公園というか広場の状態が姿を現した頃、どこからともなく、模擬戦の見物客と思しき、お客さんたちがいっぱい集まって来た。

 コロネが知っている顔もいれば、知らない人もいる。

 どうやら、お仕事を切り上げたりしたりして、わざわざここまで足を運んでいるようだ。

 広場自体が大きくて、その周囲に散らばっているから、ぎっしりとすし詰めって感じではないけど、それでも、この町にこんなに人がいたんだ、ってことを驚かされるくらいは集まってきているね。

 やっぱり、定期講習会って、この町のコンテンツとしては、人気のものらしい。

 年齢層も、子供からお年寄りまで幅広いし、そもそもが種族的にもちょっと違う感じの人たちも多いし。


 さっき職人街を案内してくれたエドガーさんたちも来ているし、ガーナさんとかツバサさんたちみたいに果樹園の人たちも来ているようだ。

 反対側の方には、トライさんたち『三羽烏』の姿も見えるし、何だか、本当にお祭りって感じになってるよね。

 何となく、サーカスがやって来た時を思い出すよ。

 さすがに、町の外からはお客さんは来ていないのかな?

 それとも、コロネがわかってないだけなのかもしれないけど。


 そして、少し離れた場所で、子供たちがミルクアイスを売っている姿も見えた。

 さすが、カミュさん、動くのが早いねえ。

 どうにか、このイベントには間に合ったみたいだし。

 何だかんだで、遠目に見ても、アイスも売れているみたいだし、良かった良かった。


「あっ! コズエさんも見に来られたんですか? ポン太さんと、ミケ長老も」


 温泉でお世話になってるコズエさんたちだ。

 へえ、やっぱり、妖怪さんたちも興味があるんだ。

 メルさんたちの実演ってすごいなあ、と感心していると、コズエさんが首を横に振って。


「普通の模擬戦だけだったら来なかったんだけどねえ。ほんとは温泉も閉めたくなかったんだけど、さすがに今日のは内容が内容だから、仕方なく、だねえ」


「そういうことじゃ、コロネの嬢ちゃんや。興味があるのはわかるが、あんまり近づかんようにな。何かあった時に備えて、わしらのおるところから前には出んようにの」


「コロネ、コロネ。こっちのふたりは護りの要みたいなお役目なんだよ。ぼくはただの見学だよっ」


「そうなんですか?」


 いや、コズエさんとミケ長老の言っていることが物騒だよ?

 横のポン太くんは、のほほんとしてるけど。

 というか、護りの要って何さ?

 確かに、コズエさんって、凄腕の式神遣いだってことは聞いてるけどさ。

 普段は、もののけ湯で番頭をしてるお婆ちゃんなんだもの。

 ミケ長老はミケ長老で、塔の地下で油を作ってる猫又さんでしょ?

 わざわざ、ふたりが出てこないといけないような事態も想定してるってことだよね。


 ……メルさん、何をやらかす気なんだろ?


「ふぅ……詳しい内容に関してはまだ始まっていないから言えないけどねえ。確かにうまく行ったら、かなり色々と助かるだろうけど、それだけに失敗した時の被害を考えると楽観視はできないからねえ」


「コズエさんは、今日、メルさんが何をするか、聞いているんですか?」


「模擬戦はあくまでもついでってことと、新しいポーションに関することを実験する、とは聞いているよ。ただ、どういう形になるかまではわからないねえ」


 なるほど。

 模擬戦と新型ポーションのお披露目がセットになってるって感じらしい。

 ただ、コズエさんの表情から見るに、それだけじゃなさそうだけど。

 そんなことを考えていると、後ろから声をかけられた。


「コロネさん、ピーニャたちも見に来たのですよ」


「うん、さっきオサムさんも向こうの方へと呼ばれてた、よ。たぶん、今日の模擬戦の見届け人としてだ、ね」


 あ、ピーニャやメイデンさんたち、パン工房の普通番さんも来たんだね。

 ナズナちゃんやまだ名前も聞いてないけど、新しく入ってくれた人たちも何人かいるし。

 あれ? でも、ドロシーの姿がないよね?

 さっき、パン工房で別れたはずなんだけど。


「ねえ、ピーニャ。ドロシーはどうしたの?」


「ドロシーさんでしたら、向こうで、商業ギルドの皆さんと会場設営をしているのですよ。今日はちょっと実演のための場所まで遠いので、魔道具を使うのだそうです」


「あ、そう言えば、ボーマンさんも言ってたね」


「でも、今日はどういう実験をやるのか、な? ここまで広く空間を確保するのって、滅多にないよ、ね?」


 そう言って、首を傾げるメイデンさん。

 どうやら、ほとんどの人は、コロネ同様に模擬戦をする以外に、詳しい情報は聞かされていないようだ。

 例外は、さっきのコズエさんとかみたいに、定期講習会の関係者というか、見届け人というか、そういう感じの人たちだけらしい。

 ということは、オサムさんも知ってるのかな?

 コロネたちがいる場所からは遠く離れてるから、確認すらできないけど。


「そういうのは見てのお楽しみなのですよ。今日は、メルさんが本気になってるみたいなので、ドキドキするのです」


「だからこそ、こっちは気が抜けないんだけどねえ」


 わくわくしているピーニャの言葉に、ちょっと前に立っているコズエさんが苦笑して。

 そんなこんなで、皆と話しながら、催しの始まりを待つコロネなのだった。

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