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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第430話 コロネ、魔法実験中にびっくりする

「やっぱり、このチョコレートって、普通のチョコとはちょっと違うのかな?」


 改めて、魔法で出したチョコを見つめる。

 いや、そもそも、『魔法で出した』チョコレートなんだから、普通なわけがないんだろうけど、さすがに、そういうものかなって思っていたんだもの。

 一応、オサムさんとかにも味見してもらってたし、その時も別に変なことは言われなかったんだけどね。


「ね、ね、コロネ。そのチョコ魔法って、そもそもどういうものなの?」


「え? いや、だから、わたしもよくわからないって」


「そうじゃなくて、ステータスの簡易説明とかに関してだよ。スキルとか魔法の一種なんだから、何か一言二言は書かれてるんじゃないの?」


 あっ、そう言えば、そんなものもあったよね。

 ドロシーに言われて、改めて、もう一度、『チョコ魔法』についての説明を見る。


「ええとね……『魔力を消費することでチョコレートを生み出すことができる魔法。レベルが上がるにつれて、チョコレートの種類と量も増えてくる』だって」


「あー、なるほどねー。やっぱり、通り一遍のことしかわからないんだね。でも、それって、今のコロネが少し成長したからってことは考えられないのかな?」


「えっ? つまり、今まで出してたチョコとは、ちょっと違うってこと?」


 あー、そっかそっか。

 でも、確かにドロシーの言うことも一理あるかも。

 見た目は一口大のチョコレートにしか見えないんだけど、もしかして、これって、ひとつひとつでちょっとずつ違う性質のチョコレートを生み出してたりするのかな?

 説明文を信じるなら、レベルが上がれば、色々なチョコレートが出せるようになるみたいだし。


 うん。

 少なくとも、量に関しては増えている実感があるから、ちょっとは『チョコ魔法』もレベルアップしてるのかもしれないね。

 実際、毎日めいっぱいまで使ってるわけだし。


「となると、最初の頃に出したチョコレートとかでも検証した方がいいのかな?」


 でも、手持ちのチョコレートって、ひとつひとつに日付を書いてるわけじゃないから、今見てもどれがどれだかわからないや。

 あー、ちょっと失敗だったかな。

 みんなおんなじチョコレートだと思ってたから、そういうのはあんまり意識してなかったしね。

 一応、古い方から食べたり提供してきたつもりではあるし、たぶん、最初の頃のチョコレートはもう、手元には残っていないだろう。

 ほとんど、オサムさんに頼んで換金してもらってるし。


 あ、ちょっと待って。

 もしかして、塔の保管庫なら、まだ残ってるかな?

 オサムさんが、料理とか何かに使ってなければ、だけど、もしかすると、まだあるかもしれないねえ。

 もう食べちゃったかもしれないけど、後で聞いてみよう。


「うん、検証するのはいいかもね。というか、コロネ、せっかく、芽が出たんだし、もうちょっとチョコ魔法を使ってみてよ。まだチョコレートには余裕があるんでしょ? ムーンワートって、ここから先が育てるのが難しくなるんだし」


 そういえば、前にも、実をつけるのが難しいって言ってたものね。

 うん。

 やっぱり、コロネとしても、今の植物の成長促進がどこまで効果があるのか、ちょっと興味があるからねえ。

 ドロシーの言う通り、引き続き、この芽に魔法を使って見ることにする。


 ではでは、いくつかチョコレートを用意して、と。


「じゃあ、もうちょっと試してみるね」


「ほいほーい」


 芽の状態のムーンワートに、さっきと同じようにチョコ魔法をかける。


 すると、一回目では芽がちょっと大きくなって、にょきにょきと上の方へと葉っぱを増やしながら、育ったところで止まった。

 二回目で、さらに大きくなって、三十センチくらいの大きさになって。

 三回目で、五十センチくらいまで育ってきた。


 というか、すごい成長なんだけど。

 なぜか、その茎と葉っぱがそれぞれ、白い光に包まれてるし。


「ドロシー、ムーンワートって、こういう植物なの?」


「うーん、いや、確かに、白く光ってるのは、そういうのだから、別に問題じゃないんだけどさ。いやあ、すごいね、コロネの魔法って。こんなに早く育つのって、レーゼさんが自らやってくれてる時くらいしか見たことないもの。たぶん、ラズリーとかでも、ムーンワートを一瞬で育てるのって無理だと思うし」


 ほんと、呆れたもんだね、とドロシーが苦笑する。

 いや、ドロシーがやれって言ったんじゃないの。

 まあ、確かに、さっきからやってる本人が驚きっぱなしなんだけど。

 レーゼさんの成長促進もこんな感じなのかな?

 前に、その手の話は農家連の人たちからも聞いてはいたけど、それをコロネ自身がやるとなると、ちょっとびっくりとしか言いようがないよ。

 何これ、『チョコ魔法』って。

 もしかして、単にチョコレートを出す以上に汎用性が高い能力なのかもしれない。

 それは、カミュさんとかからも警告されるわけだよ。

 まだよくわからないけど。


 ともあれ、もうちょっとだけ続ける。


 四回目、ついに、白い花のつぼみのようなものができた。

 でも、水も光もないのに、何で育つのかな?

 まあ、そもそも、この『夜の森』の場合、ずっと夜みたいだから、そもそも光が弱いような気がするんだけどね。

 そう、ドロシーに尋ねると。


「あ、それは大丈夫だよん。ここ、月明かりしかないように見えて、それで、普通のところの日の光と同じくらいのことができるようになってる・・・・から。ふふ、その辺がルナルの異界のすごいところだねー」


 はー、やっぱりすごいんだね。

 もう、幻獣種のすることには、いちいち突っ込まないけどね。

 能力的に凄すぎるもの。


「何言ってるのさ、コロネ。その、ルナルだって、今のコロネみたいなことはできないんだよ? 普通の植物ならいざ知らず、このムーンワートって、育てるのは難しいんだからね。ほら、つぼみができたでしょ? ここまで持って来れるのって、『夜の森』の環境でも、ラズリーくらいなんだから」


「いや、あの、全然ピンと来ないんだけど」


 すごいことなんだよ! とちょっと興奮してるドロシーとは逆に、チョコ魔法の謎さ加減にどんどん不安になってくるんだけど。

 いや、というか、だ。

 今ので、計五回目だけど、たったそれだけのつもりが、身体がかなり重いんだよ。

 これって、そろそろ、魔力が切れるような感じがするよ。


「ごめん、ドロシー。そろそろ魔力切れっぽいよ。枯渇酔いの一歩手前みたいな感じがするし」


「あ、そうなの? へえ、やっぱり、普通じゃない使い方だからかな? それとも、他の属性魔法と併用だと、単にチョコレートを出すのよりも消耗が激しいの?」


「うん。チョコレートを出すだけなら、魔力切れになったことがないね」


 どっちかと言えば、いつも、チョコレートの個数というか、チョコ魔法の使用限界に引っかかる感じだものね。

 それでも、チョコ魔法と火魔法とかそっちを組み合わせた使い方よりも、今の植物を育てる使い方の方が消耗がひどい気がする。

 前にアキュレスさんが言っていたように、持っていかれる感がすごいもの。

 いや、そっちは、単にコロネの魔力が少ないだけだろうけど。


「なるほどねー。あ、そういうことなら、私が持ってるマジックポーションを使ってみる? コロネが嫌じゃなければ、だけどねー」


 限界いっぱいまで酷使することになるから、ってドロシー。

 うん、でも、せっかくだから最後まで育つのかは検証したいよね。

 チョコレートをいくつか消費して、でも、植物を育てることができるってわかれば、やっぱりそれってすごいことだものね。

 そもそも、チャノキを育てられないか、って話だし。

 うまく行けば、そっちの可能性も広がるしね。


 なので、ありがたく、マジックポーションを頂く。

 これは、ドロシーのおごりってことらしい。

 というか、ドロシーはドロシーで、普段使いしてるのは、例のメルさんの『ちょっと毒入りポーション』なのだそうだ。

 その辺は、先輩後輩の間柄ってことからかな?


「いや、だって、普通の、しかも性能の良いマジックポーションって、馬鹿高いんだもの。その点、メルさんのこれだったら、ほとんどただ同然だしねー。まあ、ちょっとした人体実験に付き合ってる感じだけどさー」


「あー、やっぱり人体実験なんだ?」


 だろうと思ったけど。


 で、飲んでみて気付いたこと。

 これ、ドロシーの耐毒に合わせて作られたポーションだった、ってことだ。


 うわ、やばいやばい。

 飲んだ瞬間、魔力の方の疲労感はすっきりしたけど、視界がぐにゃぐにゃになって立っていられなくなる。


「ぷるるっ!?」


「うわっ!? コロネっ!?」


 倒れる直前で、ショコラが身体の下の方へと回り込んで、受け止めてくれた、というか、支えてくれたので、そっちは助かったけど。

 うわ、動悸が激しくなってるし、頭の中ぐにゃぐにゃで、うまく思考が回らないという感じになって。

 世界が遠くなって来たなあ、とか、どこか他人事みたいに思っていると、ドロシーに何かを口の中へと突っ込まれて。


「…………あれ?」


 しばらくしたら、動悸が収まって、気持ち悪いのがなくなったよ。

 あー、ようやく、焦点が合ってきた。

 なるほど、今のがメルさんの強めの毒ポーションの威力か。

 本当に、他人事みたいにそんなことを考えていると、ドロシーに抱き付かれた。


「ごめんね、コロネ!? あー、良かった……解毒ポーションが間に合ったよ。さすがに今のはびっくりしたもの。おっかしいなあ、でも、なんで、こんなに……?」


 そう言って、コロネが飲んだ残りのポーションを一口飲むドロシー。

 その直後に顔をしかめて。


「うわっ!? 何これ!? これ、微毒系のやつだって、メルさん言ってたのに!?」


 慌てて、ドロシーも、その解毒ポーションってやつを口にして。


「あー、もう! また、悪い癖だよ、メルさん! 私にも内緒で、こっそり、強めのやつを混ぜてたんだ!?」


 そう言って、ぷりぷりと怒るドロシー。

 どうやら、メルさんのネタ振りってやつらしい。

 最近はそういうのなくなったから安心してたのに、とドロシーがぶつぶつと愚痴って。


「本当に、ごめん、コロネ。意識は大丈夫?」


「うん、そっちのポーションのおかげか、今はすっきりしてるよ」


「あー、良かった。ほんと、気軽にメルさんのポーションを横流しするもんじゃないね。これ、『耐毒』持ちじゃないと、致死毒一歩手前か、それクラスなんだもの。今の私でも一気に具合が悪くなったし」


 本当、無事でよかったよ。

 そう言って、コロネに抱き付いてくるドロシーに身体を委ねつつ。

 改めて、マッドドクターとしてのメルの恐ろしさを再認識するコロネなのだった。

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