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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第4章 パンとサーカス編
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第169話 コロネ、天候についての話を聞く

「雨ですか? 雨でしたら、アイの『氷結結界』を頭の上の方に薄く展開させれば、防ぐことができますよ。雨具いらずですね」


「……やっぱり、ほめてないよね?」


「そんなことない、アイは良い子なの」


 何となく、気になったので、雨の日に外でモンスターに襲われた時の話を聞いてみた。

 ミスト曰く、『竜の牙』の場合は、常に広範囲で、アイが結界を展開してくれるので、雨が降って来ても、そこで、凍らせて防いでしまうのだそうだ。

 普通は、結界から外れた氷は、そのまま地面に落ちるのだが、いざ戦闘とかになれば、その氷も攻撃手段として活用できるので、無駄がないとのこと。

 使い手が少ないけれど、氷魔法は応用が利くので、ものすごく重宝するらしい。

 一家に一台、アイちゃんという感じだ。

 何となく、ミストに便利グッズ扱いされてふてくされて、ヨルにフォローされているってところだけど。


「まあ、なんだかんだ言って、アイの場合、能力的には、ギルドの中でも上に来るからな。普通は、それだけの魔法を展開し続けるのは難しいと思うんだが、アイの場合、顔色ひとつ変えずに使っていられるからな。相当に、魔力の蓄積量は多いと思うぞ」


「たぶん、お腹が空きやすいのも、そのせいだろうねえ。四六時中、何か食べてるけど、お腹いっぱいになったアイなんて見たことないもん」


 なるほどね。

 その辺りは、リディアとかに近いのかな。

 実は、大食いとか、よく食べる人って、燃費が悪いとか、そういう理由があるのかも知れないね。

 そう考えると、ドロシーもけっこう食べるような気がするし。

 メルは……何となく、ポーションで誤魔化している気がするけど。

 それにしても、雨対策は人それぞれ、色々な方法があるんだね。


「まあ、普通はあんまり天気が悪い時は、移動しないのが基本ですけどね。こういう手段でもない限りは、降雨時の戦闘はおすすめできませんし。ほら、水魔法で、水を刃化する魔法もあるんですけど、それを使ってくるモンスターとかが現れたら、シャレになりませんよ? 本気で命に関わりますもの」


「うわ!? そんなモンスターもいるんですか?」


 降ってきた雨が、全部刃物になるの?

 それは、ちょっと想像しただけで嫌だなあ。

 どうやって防げばいいのか、全然わからないよ。

 ミストも、アランも、さすがに渋い顔をしているし。


「ああ、あれは嫌だったな。アイがいなかったら危なかったぞ。意外と、この辺りのレベルのモンスターになると、天候の要素が侮れなくなってくるんだ。まず、雨が降ってくると分かれば、即撤退が基本だな。今日も、そういう気配がしたから、早々に切り上げたって感じだな」


「うん、そうそう。『最果てのダンジョン』の場合、ちょっと特殊だから、しばらくの間は地上エリアが続くんだよ。だから、天候は直で影響が出ちゃうからね。雷雨とかになったら、強くなるモンスターとかもいるもんね」


 そういう時は、相手もテンションが上がっているから、話を聞いてくれないことが多いんだよね、とピエロが付け足す。

 はあ、なるほどね。

 当然と言えば、当然だけど、雨が好きだったり、雷が好きだったりするモンスターもいるのか。あ、ブリッツも雷なんだっけ。


「ですから、移動の際は天候読みをするのが基本ですね、そろそろ天気が崩れそうとかそういう程度ですけど、けっこう重要なんですよ。まあ、幸いなことに、この辺りは雨があまり降らない方ですけどね。ちなみに、一応、当たりはずれはありますが、天気予報は、この町でもやっています。そのために、天候調査の部署も設置されてますから」


「あ、そうなんですか?」


 それは知らなかった。

 初めて聞いたよ。

 あ、でも、確かにパン工房とかの入り口とかにも、日付と曜日の横に、天気とか、予想温度の欄もあったかな。

 向こうではありがちの光景だから流していたけど、よくよく考えると、こっちで天気予報ってすごいことのような気がする。

 その辺は魔法とか、スキルとかで補っているのかな。

 と、横で話を聞いていたアノンも話に加わってきた。


「さすがに、予知レベルでの天気予報は、一部の者にしかできないだろうけどね。有名なのは、って言うか、コロネに近しい人がらみだったら、ドロシーのお母さんとかかな。『予知の魔女』シプトン。世界レベルでも、予知に関してはトップクラスの実力を持つ人だよ。ま、関係者以外には、彼女が今、『幻獣島』にいることは知られてないから、名前だけが有名な謎の人物って感じだけどね」


「へえ、ドロシーのお母さんってすごいんですね」


 前に名前は聞いたことがあったけど、そんなにすごい人だったんだ。

 いや、本当に、身の回りにすごい人って、いっぱいいるよね。

 特にこの町だと。


「ちなみに、直接お会いしたことはあるんですか?」


「まあね。ていうか、普通のおばちゃん……ごほん、いやいや、お姉さんだよ。たぶん、仮にこの町にやってきたとしても、町の中に溶け込んじゃってわからないんじゃないかな。ドロシーもそうだけど、基本、魔女って身分を明かさないし、ボクほどじゃないけど、外見をいじるのも得意だから、どういう人って言われると困っちゃうかな」


 アノン曰く、仕草とかはおばさんっぽいけど、子持ちとは思えないほどに若々しい姿なのだそうだ。まあ、それが素なのかどうかまではわからないとのこと。

 もとい、知っていても答えられないって感じらしい。

 下手なことを言うと、お仕置きがこわい人みたいだし。

 なるほどね。


「この町のお天気情報は、『はれのちくもり』の人たちが調べている感じですかね。確か、周辺の雲の情報とかは、サウスさんとかも調べてくれているはずですよ」


 ミストによると、天候調査部の名前が『はれのちくもり』なのだそうだ。

 何だろう、このほのぼのした響きは。

 まあ、部署と言っても、その仕事に専従しているってわけではなく、町のみんなでそれぞれが情報を持ち合って、それを元に予報を出しているって感じらしい。

 情報をまとめる担当者はいるみたいだけど。

 あ、向こうの世界でいうところのお天気情報を一般から集めている会社みたいな感じなんだね。

 それもそうか。

 さすがに気象衛星とかは、ありそうにないものね。

 ……ないよね?

 宇宙と言うか、上空でも生きていられるモンスターとかもいるのかな?

 さすがにそっちはよくわからないし。


「ちなみに、空を飛べる種族の人って、どこまで上空まで行けるんですか? ほら、今、名前の挙がったサウスさんとかみたいな竜種とか」


「あー、そっちは試した人間に聞かないと何ともって感じかな。西大陸とか、『竜の郷』の関係者なら知っているだろうけど、確か、種族ごとに、これ以上は飛んではいけませんっていう限界高度はあると思うけどね。そもそも、並みの竜とかじゃ、その限界高度までも届かないだろうし。サウスもそこまでは行ったことがないようだね」


「そうなんですか。ちなみに西大陸って?」


「うん、そうだね。コロネは、この大陸が中央大陸って言われているのは知ってる?」


「いえ、それは初耳ですが」


 中央大陸っていう呼び名は聞いたことがないかな。

 ということは、この大陸の他にも、別の大陸はあるんだ。

 まあ、それも当然のような気もするけど。


「まあ、普通は、他の大陸まで、足を伸ばしたりはしないからねえ。ボクも、その更に外側がどんな風になっているかまでは知らないし。ま、とにかく、ざっくりと説明すると、この町がある大陸が、中央大陸って言われてて、大分西に行ったところにも大陸があるんだよ。西大陸。いわゆる、神族系が多く住んでいる大陸だね。ま、もっとも、そのほとんどは大陸自体には住んでいないけど」


「神族、ですか?」


「そう。こっちの大陸ではほとんど見かけないよね。純粋な神族って、身体があんまり強くないから、こっちの環境になじめないっていうか。魔力はすごいんだけどね。だから、西大陸の辺りから、出てくることはあんまりないかな。大体が、パワースポットっていうか、魔素の安定した場所にしか住めない種族だから。その分、そこでの力は強いけどね」


 へえ、そういう話は初めて聞いたかな。

 さすがはアノン。色々と世界のことも知っているんだね。


「そうだな。基本、俺たちも旅をしていて、神族に会ったことはなかったな。噂には耳にすることがあるが。魔族の場合、襲撃事件とかがあったから、実在が確定しているが、神族に関しては、中央大陸にいる限り、その存在と遭遇することはほとんどないのではないか? 冒険者仲間でもそういう話はほとんど聞いたことがないしな」


 そう言えば、『竜の牙』の中でもアランは、ランクAの冒険者なんだよね。

 そのアランでも会ったことがないってことは、本当にめったに会えないってことか。


「まあ、そもそも、神族の場合、中央大陸では身分を隠しているだろうしねえ。それに判断基準が光系統の魔法とかしかないし。姿見だけなら、ぶっちゃけ、白鳥の鳥人とかと並べたら、どっちが神族とかわからないよ? あ、コロネに注意しておくけど、神族って言っても、オサムやコロネの世界みたいな、神の御使いって感じじゃないからね。あくまでも天使系統の種族ってこと。ボクやコロネとおんなじ、モンスターの中に分類されるからね。そんなに特別視する必要はないよ」


 なるほどね。

 あくまでも、モンスターのひとつってわけか。

 そういう意味では人間種と変わらないんだ。


「ところで、そのコロネさんの妹さんみたいな方はどなたなんですか? 私も初めてお会いするような気がするんですけど」


「ああ、俺も気にはなっていたんだ。ただ、雰囲気がコロネっぽいしな。何となく、妹っていう風に考えていたんだが」


「え!? あ、妹って、アノンさんですか!?」


 あれ? 『竜の牙』の人たちってアノンさんのこと知らないのかな。


「何!? お前、アノンかよ!? 何だ、しばらくぶりだな、おい、元気してたか?」


「まあね。アランこそ元気そうじゃない。というか、こっちが挨拶しようと思ったら、むちゃくちゃ興奮してて、話しかけづらかっただけだって。まあ、アランの場合、モンスター熱が少し落ち着くまでは、放っておくに限るからね」


 そう言って、アノンも苦笑する。

 実は、アランのモンスター愛はアノンに対しても向けられているらしく、まあ、細かいことはさておき、あんまり得意じゃない相手なのだそうだ。

 まあ、出会ってすぐに友達にはなってくれたらしいけど、その辺は色々とあるらしい。


「ご無沙汰してます、アノンさん。いつかは、お兄の一件ではありがとうございました。おかげさまで、お兄もうまく、陶芸家としてやっていけてます」


「いやいや。ていうか、ミスト。あの時は、ほとんどオサムが片づけたでしょ? ボクはあくまでもフォローしただけだもの」


 へえ、アノンって『竜の牙』の人たちとも関係があるんだね。

 アランやミストの他にも、改めて挨拶されているし。

 そういう意味では、ただものではないうちのひとりって感じだね。


 笑顔でにぎやかになった空間に、ほのぼのしながら。

 改めて、ひとりひとりの表情に目をやるコロネなのだった。

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