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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第4章 パンとサーカス編
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第157話 コロネ、召喚獣の無事に安堵する

「ぷるるーーーーーーーーーーーーーーん!?」


 突き飛ばされたショコラは、そのまま、向こうの壁まで飛ばされて、ぼよよんとバウンドして、さらに斜め上の方へと飛んで行く。

 そして、もう一度、天井にぼよんと弾き返されて、床の方へと落ちてきて。

 その後、何度か、ぼよんぼよんとバウンドした後で、コロネが立っている少し横まで落ちてきて、止まった。

 あまりのことに、呆気に取られていたが、ようやく我に返って、ショコラのところへと駆け寄る。

 何だか、もう、さっきまでの殺気とか、そういうものは吹っ飛んでしまっている。


「ショコラ!? 大丈夫!?」


「ぷるるー……ん? ぷる……ぷる……」


 あれ、身体というか、スライム状のところはまったく問題ないみたいだ。

 どちらかと言えば、頭がクラクラしているというか、散々バウンドしたおかげで、目が回ってしまったらしく。いつものぷるぷるした動きが、よりいっそう前後にひどくなっている。

 ともあれ、意外と大丈夫そうだ。

 ほっと、安堵の息を吐く。


『おい、無事か? ふん、見た感じは大丈夫そうだな。まったく……あんまり無茶するな、ちびすけ。貴様が下手に動かなければ、寸止めで済んだんだぞ、まったく』


「うーさん、動きが読めない可能性があるから、不意に次の段階に移るのはやめてって言ったよ、ね?」


 ショコラを上から覗き込みながら、ウーヴも安心したように頷く。

 一方のメイデンはというと、少しウーヴに対して、怒っているようにも見える。

 ええと、コロネはよくわからなかったんだけど。

 要するに、ウーヴの突進というか、さっきの攻撃は、あくまでも脅しの延長線上ってことなのかな。

 ショコラが向かっていったのは、想定外だったみたいだけど。


『いや、そのちびすけが向かってくるとは、まさか思わんからな。ふむ、思っていたよりも気概があるな、ちびすけ。一応、制動はかけ始めていたが、あれはあれで、俺の全力に近いからな。それで無傷とは、なかなかやるな』


「うーさん、反省してないよ、ね? 本当……ショコラが無事で良かった、よ。あのね、精神的な部分でのリスクは、わたしも責任を持つけど、直接攻撃で衝突したら、メルでも難しいんだから、ね。うーさんの本気なんて、人間種なら、ただでは済まないんだから」


『おい、そういう可能性も含めての、リスクではないのか?』


「その辺は、うーさんへの信頼だ、よ。そういうことはしないと信じてたってだけ。もちろん、イレギュラーはあるだろうから、そういう意味で、勝手に次に進まないで、って言った、の。今のタイミングだと、わたしもフォローに入れなかったんだ、よ」


『ふむ、それについては素直に謝ろう。だがな、メイデンよ。コロネのやつ、最初から、死についてはそれほど恐れてはいなかったぞ。一応、俺にも闇狼としての誇りがあるからな、もう少し試してみたくなるのも仕方ないことだ』


「……まあ、結果として、コロネの現在の状態もわかったから、いいけど、ね。コロネ、大丈夫? 今は落ち着いて話せるか、な?」


 そう言って、メイデンがコロネとショコラを心配そうに見つめる。

 何でも、まず、殺気そのものや、それを載せた咆哮を試してから、その後で、次の段階というか、ウーヴの攻撃動作へと移る予定だったのだそうだ。

 結局、ウーヴの行動で前倒しになってしまったけど。


「はい、わたしは大丈夫です。ショコラも、思いっきり飛びましたけど、どうやら、それほど問題ないみたいですし」


「ぷるるーん! ぷるぷるっ!」


 ほら、もう元気にぷるぷるしてる。

 また、コロネの肩の上に乗っかって、踊っている。

 そう考えると、ショコラってすごいね。想像以上に打たれ強いっていうか。


『ふむ、物理防御は大したものだな。フードモンスターというより、粘性種どもの性質だろうがな。まあ、俺の攻撃を受けて、その程度というのは誇ってもいいぞ。ふふん、面白いな。おい、ちびすけ、貴様、俺の子分になれ。俺のガキどもと一緒に鍛えてやる』


「ぷるるーん!」


「あれ、ショコラ、乗り気なの?」


「ぷるるっ!」


『ふふん、ならば、それで決まりだな。さすがにコロネの場合、俺が戦闘訓練をするわけにもいかんからな。代わりに、貴様の召喚獣を鍛えてやろう』


 何だか、よくわからないうちに、話が進んでいるね。

 まあ、それはそれでありがたいかな。

 ふたりで一緒に強くなっていく必要があるわけだし。


「それじゃあ、話を戻そうか、コロネ。今の訓練というか、今日やったのは、そのためのチェックに近いけど、ね。それを見る限りだと、コロネはある程度は、死に対する免疫がついているか、な」


「そうなんですか?」


 そう言われても、自分ではあんまり実感がないんだよね。

 それでも、感覚的に、ちょっと俯瞰して見られている感じはあるけど。

 ただ、あれも現実逃避の一種の気がするけど。


「うん。完全にフリーズしたのって、うーさんが突進した時だけだもの、ね。それにしたところで、ショコラが危険だと気付いた直後には、少し動きを見せたから。直近に迫った恐怖による硬直は、簡単には無くせないから、いきなりだとそんなものだ、よ」


『そうだ。コロネよ、貴様は最初の殺気のことを軽く考えているようだが、普通の人間種の場合、俺の殺気を浴びて、恐慌に陥らないというのはなかなかだぞ。冒険者ですら、それだけで動けなくなる者が多いからな』


「でも、それは訓練だからってことで、危機感が足りなかった可能性もないですか?」


 そういう感覚がどこか残っていなかっただろうか。

 たぶん、死に対する感覚って、平和ボケとかでも麻痺しているだろうし。


「まあ、そういう可能性も否定しないけど、ね。うーさんの殺気って、そんな生易しいものじゃない、の。死線を越えているか、あるいは、一度死にかけたか、死んでしまったか、そういう感じでもないと、そもそも、生物としての感覚が死を感じるようなものだから。スキルって言ってしまうと、途端に安っぽくなるけど、威圧のスキル、それも死を伴った最上級のものだから、下手をすると、それだけで、精神的な死に至る場合もある、の」


「え!? サラッと言ってますけど、それってすごいことですよね?」


 いや、メイデンの訓練怖い。

 一歩間違うと、精神的に死って、シャレになってないよね。

 今、とりあえず、無事だから笑っていられるけど。

 スパルタ、怖い。


「まあ、コロネの場合は、何とかなると思ってた、よ。まず、うーさんと初めて会った時もそうだったみたいだし、迷い人の場合、特に、オサムさんとかコロネとかのケースか、な。そういう時は、死線を越えていることが多いから、他の人よりも免疫があるというか、そんな感じだ、よ」


 そうなんだ。

 迷い人の場合、全員が全員というわけではないけど、大抵は、死ぬような経験をしていると見て、いいのだそうだ。

 この町でも、シモーヌとかも一度死にかけていたことがあるらしい。

 迷い人になるってのは、そういうものなのだとか。


「だから、コロネは、次のステップとしては、うーさんの攻撃の直近で起こった思考停止状態、それを克服するのを目指すって感じか、な。今回みたいに、ショコラとか、誰かを助けるとか、そういうのじゃなくて、自分の力で死の恐怖から逃れるように行動する方へと、反射的に動けるように、ね」


『まあ、そこからが大変だがな。基本は、ありとあらゆる事態を想定しておく。それに尽きる。不意を突かれれば、硬直は起こる。その状態をできるだけ短くするのと同時に、そうならないために、想定を広げておくのが大事だ。ふん、俺も偉そうに言っているが、俺の場合、地力があるからな。そっちの方はあまり必要ないので、あまり気にしたこともないがな』


「そんなだから、さっきのショコラみたいなことになるんだ、よ」


『ああ。それについては気を付けよう』


 なるほど。

 想定外による硬直を抑えるのと、そうならないように、思考を広げるって感じか。

 まあ、口で言うほど簡単なことじゃないと思うけど、これも、水玉の訓練と同様に、経験を積んでいくしかないか。

 思考が止まりました。

 攻撃されました。

 死にました。

 うん、そのパターンはけっこう多そうだ。注意すべきだろうね。


「後は、今までやってきた訓練に加えて、魔法攻撃を防ぐ手段を確立したら、町の外へ出てもいいところまで行けるか、な。それでも無茶はいけないし、最初はわたしとかもついていく感じになりそうだけど、ね」


『ふん、メイデンでなくても、俺でも構わんがな。今のコロネでも、俺がいれば、外に行くことは可能だろう。が、そういう意味ではメイデンも頭が固くてな』


「ダメ。うーさんの感覚は、その環境に慣れているものの判断だし、ね。わたしも初めて、この町の周辺に来た時は、その圧迫感に押しつぶされそうだったもの。これでも、結構な場数を踏んでいるつもりだったんだ、よ?」


 メイデンが、ウーヴの案を一蹴する。

 最低限でも、コロネがそこそこ強くならないと、リスクは冒せない、とのこと。


『いや、メイデンよ。貴様の場合、俺と遭遇したからではないのか? ふん、こちらも殺すつもりはないと言ったのに、いきなり、背後から攻撃してきやがって。貴様もそうだが、ドーマもな。奴がいなければ、反射的に殺してしまったかもしれん。思いのほか、どちらも骨があって驚いた記憶があるぞ』


「まあ、あの時は、こっちも必死だったし、ね。それに、うーさんと会うまでにも色々なモンスターがいた、よ? それだけでも、『魔王領』から離れて暮らしていた人間種にとっては、かなり厳しかったんだ、よ」


「ええと、お二人とも戦ったことがあるんですか?」


 反射的に殺しそうになったって。

 随分と、物騒な話ではある。

 だが、ふたりとも、そんなことは当たり前のように頷く。


「コロネ、町の外っていうのはそういうものだ、よ。うーさんも話がわかるけど、話がわかるからと言って、人間に優しいとは限らないから、ね。特に、当時はわたしも魔王直下のモンスターについては、あまり詳しくは知らなかったし、ね。イメージとしては、魔族の襲撃と変わらない、よ」


『基本、弱肉強食だ。たとえ、殺し合いをした仲であっても、状況が変われば、以前のことは水に流すのが、当たり前だぞ。強き者は、恨みを引きずらないものだ』


 そういう意味では、しっかりと割り切っているよね。

 ということは、この町なかで笑い合っている人たちも、以前は仲が悪かったケースとかもけっこうあるのかな。

 踏み込んでは行きづらいところだけど。


『昔の話だ。そんなことより、訓練を続けろ、メイデンよ。貴様がコロネに教えている間、俺もちびすけに攻撃手段を教えてやろう』


「そうだ、ね。あんまり、ゆっくりしていると、夕食の時間になっちゃうし、ね。それじゃあ、コロネ、ここからは昨日と同じで、魔力強化の訓練だ、よ。ふふ、うーさんのが終わったから、また、水玉の仕掛けも戻しておくから、ね。それを避けながら、頑張ろう、か」


「はい、わかりました」


 うわあ、また水玉かあ。

 いや、メイデンがちょっとだけ楽しそうに笑ってるんだけど。

 仕方ない、魔力のためだ。しっかりと頑張ろう。

 そんなこんなで、もうちょっと訓練は続く。

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