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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第3章 初めてのクエスト編
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第142話 コロネ、クエストの終わりを見届ける

「お、コロネの姉ちゃん。みんなでプリンをごちそうになってるぞ」


 ブランと倉庫の中へと引き上げると、そこに残っていたのは、今日、クエストではなく、ブランの仕事の方を手伝ってくれていた子供たちの姿だった。

 ちなみに、それ以外の人はもうすでに帰っているか、冒険者ギルドの方でクエスト終了の手続きをしに行ったはずだ。まあ、それほど難しい作業じゃないしね。少人数でやると時間がかかりすぎるだけの話だから、人海戦術ならけっこうスムーズに終わるものだよね。

 で、ラビがプリンを食べながら、手を振ってくれているわけだ。

 プリンについては、本日は諦めてもらう予定だっただけに、誰も彼もちょっと嬉しそうだね。これも、引換券を受け取ってくれた人が多かったおかげだ。感謝感謝。

 あ、バーニーさんとか、何人か家族の人もいるね。

 親というか、家族同伴のアルバイトのケースもけっこうあるみたい。

 まあ、いざという時、そういう方が安心なのかもね。


 それにしても、だ。

 さっきのブリッツたちの話を思い出して、ラビとバーニーを見る。

 うん、やっぱりちょっと驚きだね。ふたりが別の国の王族関係者っていうのは。


『あ、コロネさん。そのことはラビには内緒でお願いね』


 えっ!?

 今の何? バーニーさんの声が頭の中に響いたような気がしたんだけど。


『ええ。これは私のスキルなの。うさぎの獣人やモンスター特有の、心話スキル。テレパシーのことね。本当は、同族間でしか使えないんだけど、私の場合、月系の属性が強いから、限定すれば、こういうことも可能なの。コロネさんも口に出さないで、心の中で、言葉を発してみて。そうすれば、心話可能な状態になってるから』


 へえ、そうなんだ。

 あ、これも会話になっているんだものね。口調を切り替えないと。

 そうなんですか、バーニーさん。

 それにしても、びっくりしましたよ。元王女様なんですって?


『まったく……内緒にしてって言ってるのに、ブリッツにも困ったものよね。そういう性格は精霊らしいんだから』


 そう言って、バーニーが苦笑を浮かべている。

 まあ、当然のことながら、口は一切開いていない。

 傍から見れば、何をしているのかわからないだろうね。

 バーニーはブリッツに呆れているけど、確か口火を切ったのは、ギムネムだったような気がするけどね。

 と、ふとそこで不思議に思う。

 ラビ君は、バーニーさんのことは知らないんですか?


『ええ。この子は、この町で生まれた子だもの。あえて、そういうことは教えていないの。まあ、ブリッツのことだから、どこかでぽろっと口にして、薄々知ってしまっているかもしれないけど。基本はロンさんのことをちょっとだけ説明しているって感じかしら。今のところは、その姿に憧れてるだけって感じよね』


 まだ反抗期になっていないし、とバーニーが笑う。

 もう王位継承とは無縁だし、この町での生活の方が充実しているから、万が一の事態にもならない限りは、デザートデザートには戻るつもりはないとのこと。

 どちらにせよ、ゲルドニアが国家として顕在である限りは、ロンの国外追放も取り下げられることもないだろうと、そう考えているらしい。


『まあ、そもそも、私、女の身だし。兄さんたちがいるから、継承権とか、関係なかったけどね。今の父様の基盤は盤石だし、今のところは継承権争いとか、そういう揉め事はなさそうかしら。馬鹿なことした人ももういないしね』


 やはり、バーニーの父親も王として、側室とかいっぱいいて子供もそれなりなのだそうだ。幸いというべきか、一番目のお兄さんが有能なため、今のところは、順当に継承が進めそうということらしい。

 まあ、その辺は、コロネが聞いても遠いところのお話って感じだけどね。

 小説とかではよく聞く話だけど。


 そういえば、デザートデザートの王族ってうさぎの獣人さんなんですか?

 同族統制とか言っていたから、ロンさんもうさぎだよね。

 そういう国なのかな。


『ふふ、生憎だけど、私の父様は獅子、ライオンの獣人よ』


 あれ? そうなんですか?


『ええ。コロネさんは獣人種の婚姻とか、子供の話とか知らないわよね? 獣人種って、それぞれの種類によって、別々の特徴を持っているのは知っているわよね。一応、まとめて獣人って呼んでいるけど、言うなれば、異種族がいっぱい集まったのが獣人種なの。だから、私の場合、父様が獅子で母様がうさぎね。で、私はうさぎとして生まれたって感じかしら。獣人同士の結婚の場合、他の種族とのハーフとは違って、どちらかの性質を引き継ぐ感じになるってわけ。ただ、それがどちらになるかは、生まれてくるまではわからないけどね。ラビの場合は、どっちもうさぎだからわかりやすいけど』


 なるほど、そういう感じなんですね。

 バーニーが更に補足すると、両親だけでなく、その前などから性質を引き継いだりもするらしい。だから、家族の中で種類が違うというのも、獣人にとってはめずらしいことではないそうだ。

 とは言え、さすがに二親等以内にまったく関係ない子供が生まれてくることはめったにないので、そういう意味で、獣人は浮気とか厳禁なのだそうだ。

 まあ、それはそうだよね。

 一発でわかっちゃうもの。


『いい機会だから、獣人について、もうひとつ教えてあげる。今の、私たちの姿は、人化した状態だから。獣人種の基本体は、便宜上、半獣化と呼ばれる状態のことを指すの。今の姿より、もうちょっと獣っぽくなっている感じかしら。人化、半獣化、獣化。その三種類が獣人のとれる姿見って感じね』


 えっ! そうなんですか!?

 確かに、今のバーニーたちの姿って、耳が生えているだけって感じだものね。

 あ、そう言えば、ミーアはもっと猫猫してるもの。

 てっきり、猫の獣人だけの特徴かと思っていたけど。


『そうね、ミーアは半獣の姿でいるわね。まあ、ミーアの場合、人化するとスキルの能力が弱まるから、だったと思うけど。実際、半獣化の状態の方が、種族スキルとかは使いやすくなるの。身体能力とか考えると、半獣化の方が効率がいいのは確かよね』


 それじゃあ、どうして、皆さん、人化しているんですか。

 いや、これは、獣人種の人だけの話じゃないよね。

 ちょっと不思議には思っていたんだけど、人間種以外の種族で『人化』スキルを使える人が随分多いとは思っていたのだ。

 少なくとも、コロネが出会った町の人のほとんどは覚えているよね。

 何なんだろう、このスキル。


『まあ、人間種の姿が、この世界における共通の姿見ってことかしら。だから、人化に関するスキルは比較的覚えやすいのね。それについては、共通言語に関するスキルとおんなじだったと思うわ。私も定期講習会で聞いただけだから、詳しくはよくわからないけど』


 つまり、世界としての共通の何かがあるってことかな。

 え、さらりと何かすごいことを聞いているような。

 というか、言葉もそうなの?


『コロネさんも迷い人ってことは、元々は別の言葉を使っていたってことよね?』


 はい。わたしのはスキルのおかげですね。

 あ、そうなのか。

 このスキルって、涼風さんとかがどうこうしたわけじゃないのか。

 『自動翻訳』のスキルがあってラッキーという感じだったけど、別の意味があるってことなのかな。


『ええ。どうも、この世界ってひとつになりたがっているらしいのね。教会の教義でも、そんなことを触れているけど、人化と言葉に関するスキルが、その証明みたいになっているの。誰かがはっきり確かめたわけじゃないと思うけど、世界として、そういう傾向にあるのは間違いないみたい』


 要するに、色々なところから寄せ集めたものを、ひとつにまとめようとするのが、この世界の意志のようなものらしい。

 なるほど、以前、カウベルがそれとなく言っていた、神様がいるかもしれない片鱗っていうのは、これらのことを指していたのかもしれないね。

 向こうの世界では、バベルの塔とかの話でまったく逆のことになっているから、世界そのものが言葉や姿の壁をなくしていこうとしているってのは、ちょっと面白い話のような気がする。

 まあ、あっちのは単なる俗話なんだろうけどね。

 言葉は自然発生するものだろうし。


『ふふ、ちょっと話が逸れちゃったけど、そういう感じね。一時、人間種が増長して、差別だなんだって、勘違いしたのはその辺に理由があるの。今となっては、少しは落ち着いているけどね。それも、教会のおかげかしら。人間種と獣人種の結婚とかのケースも増えてきているしね』


 そのうち、色々な種族が混ざり合って、暮らしていけるようになるかも知れない、とバーニーが笑う。


『まあ、この町にいると特にそう思うわ。不可能に挑戦している町。世界中から異端視されてはいるけど、肯定する人も多いの。良い町よね』


 そして、怖い町でもある、と。

 それだけのことが進んでいる背景には色々とあるのだそうだ。


「なあ、コロネの姉ちゃん。さっきから無言で表情がころころ変わってるけど、大丈夫か? 変なものでも食べたのか?」


「え!? 別にそういうわけじゃ……って、あ、もうみんな食べ終わったんだね?」


「うん、だから、これでアルバイトは終わりにしようよ、お姉ちゃん。後の粉にする作業は、ブランの家で自動でできるって言ってるし」


 ラビとサーファに言われて、ようやく我に返る。

 ふと、バーニーを見ると、何事もなかったかのように笑っている。

 さすがだ。実はかなりポーカーフェイスがうまい人だよね。

 とりあえず、話はここまで、ということだろう。


 ちなみに、子供たちはと言えば、プリンを食べてご満悦という感じだ。

 ちゃっかり、もうひとつ食べている辺り、サーファも強かな感じだけど。

 まあ、いいや。

 アルバイトを手伝ってくれた子にあげる約束だったしね。

 周りが気付いていないなら、何も言わないでおこう。

 と、今日の締めをブランの方からするとのこと。


「はい、皆さん、本日はご協力ありがとうございました。僕も初めてのクエスト担当ということで、一時はどうなるかと思いましたが、おかげさまで何とか、ここまで来ることができました。ありがとうございます」


「気にすんなよ。同じバイトをしてた仲じゃん」


「困った時はお互いさまってね。それにしても、ブランが小麦粉の責任者かあ、すごい出世だよね」


「これで、明日以降も白いパンが作れるのかな?」


「そうだね。塔に帰ったら、ピーニャに今日の工房の状態を聞いてみるよ」


 まだ、喧騒が続いているのかな。

 まあ、逆に生産量が増えたら、騒ぎは収まる気もするけどね。

 今日のは、いきなりでサプライズっぽく試食をしたからだろうし。


「まあ、そのためにも、もう少し人手が欲しいって、ピーニャが言ってたよ。この中でも、まだパン工房でアルバイトをしたことがない子は、そっちのアルバイトにも参加してもらえるとありがたいかな。ピーニャが喜ぶと思うし」


 まだ、紹介をしたことがない子もけっこういるしね。

 誰かの家族か、教会からアルバイトに来てくれたのかはわからないけど、こういうところでちょっとずつ勧誘をしておこう。

 ふふ、目指せ、パン工房の新体制、だ。


「はい、パン工房の方もそうですが、小麦粉の方もよろしくお願いします。今後は週二回を予定してます。月の日と木の日ですね。そもそも、小麦粉が確保できないと、パンも作れませんので、こちらの短時間バイトもよろしくお願いします」


 騒ぎにならないなら、普通通り、クエストに参加してもらう、とブラン。


「それでは皆さん、これで本日のクエストは終了とさせていただきます。本当にお疲れ様でした」


「「「「ありがとうございました」」」」


 そんなこんなで、ブランやコロネたちの初めてのクエストは終了したのだった。

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