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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第3章 初めてのクエスト編
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第132話 コロネ、プリン配りを手伝う

「それで、結局、今ってどういう状況なのかな?」


 プリンを味わって食べているリディアを横に、ブランへと尋ねる。

 クエストを初めてどのくらい経っているのか、それと、子供たちの多くが小麦粉の作業ではなく、ブランのように人の波の整理を手伝っている点とか。

 当初の予定だと、ブランの家族でって話だったよね?


「人が集まって来たのは三十分くらい前からですが、クエストとして始めたのは、ほんの今さっきという感じですよ。手順の説明とか、実演のようなことを軽くやってみて、皆さんに、というところです。その際、ほら、セモリナにも土魔法を使ったやり方をやってもらったら、他の皆さんも、色々と自分なりのやり方を試し始めて、収拾がつかなくなってきたという感じですかね」


 要は、白い小麦粉が分離できればいいわけですから、とブランが続ける。


「ほら、今のリディアさんみたいなことを、別の方法でもできないかってわけです。土魔法が使える方々はセモリナが教えてます。後はまあ、とりあえず、道具の数も足りませんし、他の方が終わるのを待っているのも何ですから、新しい手法の開発にチャレンジしてくれたり、というところですね」


「それじゃあ、ブラン君を他の子たちが手伝っているのは?」


「ええとですね、話せば長くなるので簡潔に説明しますと、朝、今日の準備をしているところにオサムさんがやってきまして、僕に権限を追加してくれたという感じです」


「権限?」


「はい。オサムさんも今日のクエストについては気にかけてくださっていたようで、冒険者ギルドにどのくらいの希望者が来ていたのか、数を確認しに行ってくれたらしいんです。結論としては、僕と僕の家族だけだと限界があるので、僕の方でも、そのために必要な人員をアルバイトとして雇っても構わない、というものでした」


 ああ、なるほどね。

 どうやら、オサムが町の外に行く前に、色々と手を打っていってくれたらしい。

 まだクエストの内容については、詳細に説明されていなかったので、ブランと親しい中でも、希望者としてクエスト用紙を受け取った子供たちを雇ってみてはどうか、という提案がなされたのだそうだ。

 アルバイトの報酬についても、オサムが持つとのこと。


「子供がやる場合、ふるい分け作業よりもそっちが向いているだろう、という話です。確かに今の状況を見ていると、魔法やスキルを使える方が作業してくださった方が効率が良さそうですしね。身体強化だけの場合も、大人の人がやった方が良さそうです」


「そっか、それじゃあ、子供たちには後日手伝ってくれたお礼をするよ。プリンを期待してくれた子も多いだろうしね。ちなみに、道具の数が増えているのも、オサムさんが?」


「はい、塔の予備のものを持ってきてくださいました。その後で、ちょっと予定があるからって行ってしまいましたけど」


 何だかんだで、オサムもそれとなく心配してくれていたらしい。

 本来、コロネが気付かないといけないところだっただけに、本当に申し訳ないというか、ありがたいと思う。

 やっぱり、適当なようで、見るところはしっかり見ているよね。

 他人事みたいに笑っているようで、こういうところはさり気なく手伝ってくれる辺りに、人柄がでている気がする。

 基本、照れ屋な感じなのが、オサムテイストだ。


「そのおかげでどうにか、回っている感じですね。まあ、小麦の方は、数日分を考慮して、準備してましたし、そちらについては問題なさそうです。さすがに、リディアさんが一瞬で一袋終わらせてしまったのは予想外でしたけど」


「そうだよね。この小麦粉、地道にふるい分けるのより、きれいに分離されてるものね」


 袋に入っている小麦粉に触れてみると、非常に純度の高いものができあがっているのだ。これ、コロネたちが時間をかけてやっていたのより、質がいいよね。

 本当に困った時は、リディアと直接交渉とかも選択肢に入れた方がいいかもしれない。

 あ、でも、こう見えて、リディアも冒険者だし、外へ食材を採りに行ったりするのも仕事みたいなものだよね。とりあえず、時間に余裕がある時にでも相談してみようか。


「コロネ、頭の上のものは何?」


 一つ目のプリンを食べ終わったところで、リディアが聞いてきた。

 ショコラに興味津々という感じだ。


「そう言えば、僕もびっくりしましたけど、コロネさん。その頭に乗せているのって、スライムさんですよね? 初めて見ましたけど、どうしたんですか」


「ええとね、説明すると長くなるんだけど、色々あって、わたしの新しい家族になった子なの。名前はショコラ。一応は粘性種みたいだね。細かい種類については、よく分からないけど。ほら、ショコラ、あいさつして」


「ぷるるーん!」


 頭から、コロネの両手に降り立つと、そこで直立不動から頭を下げる仕草を見せた。

 どうも、ショコラって、真似をするのがうまいみたい。

 コロネたちがした仕草は、すぐに同じようなことができるようになっているし。

 生まれたばかりのはずだけど、頭がいいんだよね。


「ん、ショコラ、よろしく。冒険者のリディア」


「あ、僕もよろしくお願いします。コロネさんのお仕事を手伝っているブランです」


「ぷるるらっ! ぷるん!」


「かわいいですね。コロネさん、ショコラさんは喋ることはできないんですか?」


「まだ、生まれたばかりみたいだしねえ。一応、こっちが話していることは何となく理解しているみたいだけど、わたしもよくわからないんだよ……って、そうだそうだ。まったりしている場合じゃないよね。ブラン君、わたしも何か手伝うよ。あと、どのくらいの人が集まったのかわからないけど、持ってきたプリンだけで数は足りる? 一応、見てもらいたいんだけど」


 ゆっくりと自己紹介とかしてる場合じゃないよね。

 とりあえず、プリンをブランに見せて、確認してもらう。


「ええと……ちょっと足りないかもしれませんね」


「それなら、報酬を渡す時に、今食べたいか、後でお店で食べたいか選んでもらおう。ピーニャに言われて引換券を持ってきたから、明日以降のパン工房で交換ができるようにしておくよ」


 そう言って、引換券の束を見せる。

 まあ、明日は太陽の日の変則営業だから、塔の二階で、って感じになるのかな。

 正直、今後は全部引換券でもいいくらいだ。

 クエストの場合、報酬をすぐ渡さなくちゃって、勝手に勘違いしていたけど、その方がしっかりと冷えたプリンを提供できるし、何と言っても、食器などの問題が解決するのだ。

 次からは気を付けよう。


「ああ、それなら心配ありませんね。それ以外の方はここで召し上がってもらった方がいいんですよね?」


「うん、お持ち帰りされても、味の保証ができないし。食器の回収の問題もあるからね。リディアさんみたいに、ここで食べてもらう感じかな」


「でしたら、コロネさんとリリックさんには、報酬を渡す係をお願いできますか。皆さん、あちこちで作業してますので、呼ばれましたら、作業の終了を確認して、プリンを渡していく感じです」


「わかった。それで行くね。リリックも大丈夫かな?」


「はい、コロネ先生。問題ないですよ」


 よし。それじゃあ、頑張ってお手伝いしようか。

 ブランはブランで責任者として、あちこちに指示を出さないといけないから、忙しいだろうしね。


「それじゃ、まずは初日のクエスト頑張って終わらせちゃおう!」


「「はい!」」「ぷるるーん!」


 そんなこんなで、作業に取り掛かるコロネたちなのだった。





「ねえ、ちょっとコロネ。こっちは終わったから確認してもらえないかい?」


「コロネのお姉ちゃん、わたしも終わったから、お願いね」


 早速、声をかけてきたのは、魔法屋のフィナとその娘のサーファだ。

 ふたりとも、土魔法の分離法を使ったみたいだね。

 さすがはエルフ。魔法のスペシャリストという感じだね。

 あれ? でも、確かフィナは教会へ行っていたんじゃなかったっけ。


「フィナさん、サーファちゃん、どうもありがとうございます。はい……ばっちり小麦が分けられてますね。作業終了を確認しました。こちらは報酬のプリンです。一応、後からパン工房で引き換えることもできますが、どうしますか?」


「いや、今食べさせてもらうよ。ちょっと新しい食べ物に興味があったからね。ほら、この間、お店で出したアイス。それをサーファが美味しいって言うからね」


「うんうん、わたしもあの時にお菓子ってものを初めて食べたけど、想像していたのよりずっと美味しかったんだよ。お姉ちゃんの料理って、もしかすると、エルフ向けの味なのかもしれないって、そう思ったの」


 だから、フィナもクエストにやってきたのだそうだ。

 今後も新しいお菓子ができたら、食べに来てくれるのだそうだ。

 少しでも、楽しめる味が増えるのを期待している、とのこと。


「ところで、フィナさんは今日の午前中、教会の子供たちに魔法を教えていたって聞いていたのですが、そっちはもう終わったんですか?」


 カウベルたちが戻ったのって今さっきだよね。

 だから、ここでフィナの姿を見かけたのは、少し驚いてしまったのだ。


「ああ、そうだよ。終わって早々にサーファとこっちに来たって寸法だねえ。まあ、魔法教室については時間が決まっているからね。それに、子供たちはカミュひとりでも大丈夫だから、後のことは任せて、こっちに来たって感じだよ」


 ま、たまにはカミュもしっかり仕事をした方がいいさ、とフィナが笑う。

 どうやら、わざと抜けてきたらしい。


「あ、そうそう、魔法と聞いて思い出したよ。メイデンから聞いたよ、コロネ。基礎四種を覚えていたそうじゃないかい。良かったねえ、これであたしも喉のつかえが取れたって感じかねえ。あの時のコロネの悲しそうな顔は残っていたからね。ほっと一安心って感じだね」


「ほんと、良かったね、お姉ちゃん」


 ふたりが笑顔で祝福してくれた。

 何となく、こういうのってうれしいね。

 何でも、あの訓練の後、すぐにメイデンがフィナのところまで、伝えに行ってくれたのだそうだ。その時に、人間種のユニーク魔法に関することも教わったとのこと。

 この町で魔法を教える時は、ほとんどが初心者のため、ユニークスキルを覚えている人がほとんど来なかったのが原因らしい。

 おかげで、研究することが増えた、とフィナが喜んでいる。


「ありがとうございます。あ、そうだ。結局、魔法は覚えていたわけですから、まけてもらった分をお支払いしますよ。申し訳ないですし」


「いいよいいよ。それはご祝儀ってことで。それよりも、今のプリンの方をもらえるかい? あたしもお菓子ってやつを食べてみたいからねえ」


「わかりました。はい、どうぞ、こちらがプリンです。あちらのテーブルでお召し上がりください」


 リディアはその場で食べ始めたけど、一応、ブランが食べるためのスペースを確保してくれていたんだよね。まあ、その場で食べても一向に構わないけど。


「ふふ、ありがとう、コロネ。食べ終わったら、器を返せばいいんだね?」


「はい、それでお願いします。ごゆっくりどうぞ」


「お姉ちゃん。わたしも食べ終わったら、何か手伝うよ。ブランとかも忙しそうだし」


 同世代ということもあり、サーファもブランとは仲がいいのだとか。

 困った時はお互い様、という感じらしい。


「あ、それなら、責任者がブラン君だから、行ってみて。臨時のアルバイトとして雇ってくれるから。ありがとうね、サーファちゃん」


「うん、それじゃ、先にプリンを頂くね」


 そんなこんなで、フィナとサーファを見送りながら。

 次の呼び声がする方へと向かうコロネたちなのだった。

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