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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第3章 初めてのクエスト編
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第126話 コロネ、竜の牙と出会う

「コロネさん、これで、あと一回ですね?」


「うん、いよいよって感じだね」


 アイスの二回目の混ぜ混ぜ作業も終わって、パンナもちょっと余裕が出てきたみたいだね。いい傾向だ。この調子で、お菓子作りに馴染んでくれるといいなあ。

 後は、そろそろプリンが冷えた感じかな。

 ちなみに、プリンはアイスと違って、調理場の大型冷蔵庫で冷やしている。

 さすがに量が量だけに、冷蔵庫のかなりの部分を占めてしまっているけどね。

 ちょっと作り過ぎたかなあ、という感じだ。


「それじゃあ、ちょっといいかな? ……っと、あ、ごめん、ちょっと待って。誰かお客さんが来たみたい」


 プリンについての話をしようとしたら、また呼び鈴が鳴った。

 やっぱり、昼間は色々な人がやってくるんだね。

 大体はオサムが対応しているので、そのあたりはあんまり知らなかったよ。


「はい、いらっしゃいませ。あ、ミストさん」


 やってきたのは、陶芸家のアストラルの妹、ミストラルだった。

 そして、彼女と一緒に初めましての人も何人かいるね。

 ミストはギルド『竜の牙』の一員だから、おそらく、そっち関係の人かな。


「コロネさん、すみません。大勢で押しかけてしまって。ほら、スライムの村に持っていくプリンの件です。私だけで受け取りに行こうと思ったら、他のみんなもついてくるって聞かないので、こんな感じになっちゃいましたが」


「そうでしたか。本当、ちょうどいいタイミングでしたよ。今、プリンがそろそろ冷えるかな、というところでしたから」


 ミストの言葉に、にっこり笑って対応しているが、内心冷や冷やだよ。

 もうちょっと早く来られていたら、渡せなかったもの。

 ふぅ、危ない危ない。


「ほんとですか!? それじゃできたてってことですよね? いいですねー!」


「そいつはめでたい。が、なあ、ミスト、そろそろ俺たちのことも紹介してくれないか? やっぱり、話に加わりにくいんでな」


 ミストに話を振って来たのは、眼鏡をかけた長身の男性だ。

 軽装ながらも、金属製の鎧を身にまとっている、いわゆる正統派な冒険者だね。

 グレイの髪をオールバックにしているせいか、どこかぴっちりとしたイメージがある。年の頃は三十代くらいかな。まあ、こっちの世界だと第一印象で年齢を当てるのは至難の業なんだけど。


「あっ、ごめんね、アラン。じゃあ、先にうちのメンバーの紹介と行きますね。まず、こっちの眼鏡のお堅そうなのが、アランです。種族は人間種、冒険者ランクは一応、Aですね。こう見えて、『竜の牙』のギルマスですよ」


「まったく……ミストが俺をどう見ているかよくわかるな。さて、コロネさん、初めまして。紹介に預かったアランだ。一応、オサムとも長い付き合いになる。その縁で、と言うか、塔の店の常連でもある。機会があったら、そちらでもよろしく頼む」


「はい。こちらこそよろしくお願いします。ギルマスさんってことは『竜の牙』で一番偉いってことですか?」


「それは違うな。『竜の牙』で一番、雑用を任されるってことだ。と言うか、ミストはまだマシな方だが、他の連中は生きるための基本的なことがなっとらんからな。仕方なく、俺が、という感じだな……まったく、本当は俺はモンスターに接していれば幸せなんだがな。でっかい子供を五人抱えたお父さんみたいな生活を強いられているんだ」


 そう言って、遠い目をしてため息をつくアラン。

 何だか、よくわからないけど、色々と大変みたいだね。


「ちょっとちょっと、聞き捨てならないよ? なんで、ぼくまででっかい子供扱いなのかな? 色々とお仕事やってるもん。アイやヨルとは違うもんね」


「おい、ピエロ、お前はどの面下げて、そういうこと言ってるんだ。顔、衣装、口調、性格、どこを取っても、お前子供っぽいぞ? と言うか、お前の場合、きっちりとできるんだから、もう少しふざけるのをやめてくれ。そうすれば、大人扱いしてやるよ」


「だが、断る! これがぼくのアイデンティティーだもん」


「あ、やっぱり。あなたがピエロさんですか」


 アランに食って掛かっているのが、噂に聞いていたピエロだね。

 まあ、一目見たときから何となくはわかっていたけど。

 本当に、道化師という感じの容姿をしているのだ。顔は白塗りにメイクを施しているし、服装は服装で、サーカスとかで見かけるような感じだしね。

 コロネとは同じくらいの年だろうか。けっこう、背は高いのだ。案外、すっぴんはかっこいい系の男の人なんじゃないかと思う。


「うん? ぼくのこと知ってるの? あれ、けっこう有名?」


「はい、コノミさんから聞きました。サモンワーカーさんですよね?」


「おっと、嬉しいね! では改めまして自己紹介をば。ぼくはピエロ。サモンワーカーと猛獣使いと、ネゴシエーターがごちゃ混ぜになった感じかな。種族やその他は内緒。ピエロは秘密を持っているってね。その方がミステリアスなんだもん」


「まあ、ピエロはピエロです。それ以上でも以下でもないですよ、コロネさん。私たちもそういうことで通してます。謎多い方がいいんですって」


 ミストがそう補足してくれた。

 『竜の牙』の変わり者その一だそうだ。


「アランについても補足しますと、こう見えて、モンスター図鑑の制作者のひとりという側面を持っています。たぶん、世の中のモンスター好きの中でも、ちょっと常軌を逸しているレベルになっているのがアランです。残念ながら、『竜の牙』にはまともな人はほとんどいないんですよ」


「へえ、モンスター図鑑ですか?」


 ちょっと意外だ。そういうイメージはさすがにあまりなかったもの。

 要するに動物好きってことなのかな。


「そうだな。その点については、俺とピエロの利害は一致しているってところだ。常軌を逸しているとは聞き捨てならないが、否定はしない。俺にとって、モンスターはどんなやつであれ、友達だ。必ず、分かり合える可能性があるからな!」


「いや、たまにどうしても分かり合えない子もいるよ。いい加減、手当たり次第にはぐれモンスターを手なずけようとするのはやめようよ。そんなの向こうも望んでないんだもん」


「いや、それは違うぞ、ピエロ! 愛があれば、大丈夫だ。そう、モンスター愛だ。俺は決して諦めんぞ!」


「そういうことは、ロープで縛り付けてから説教するような真似をやめてから言ってくれないかな。あのね、捕縛しておいて、愛も何もないでしょ?」


「あれも含めて、俺の愛だ。わかってくれるモンスターはわかってくれるぞ」


「……それが驚きなんだよね。ぼくの交渉よりうまくいくときがあるもん」


 あれれ、アランの印象が大分変わっていく気がするよ。

 ミストによれば、モンスター以外のことは、まともで常識人なのだが、ことモンスターが関わってくると、途端にこの有り様なのだそうだ。

 とにかく、モンスターが好きで好きでたまらない。

 それが、『竜の牙』のアランなのだとか。


 ちなみに、モンスター図鑑は、アランと他数名の人で編纂されていて、毎年、新しい本ができあがるのだそうだ。

 コロネも一度見てみたいものだよ。


「そもそも、『竜の牙』の名前の由来も、アランの願望から付けられていますしね」


「そうなんですか?」


「ああ、ここで言う竜とは、『原初の竜』のことだ。この世界に竜族が生まれた時、最初に現れた竜たちのことだな。今も世界のどこかで生きていたり、眠っていたりするらしい。俺はその竜に会って、仲良くなって、認められたいんだ。それが『竜の牙』の由来だな」


 何でも、竜族は認めた相手に対して、自分の牙の欠片をくれることがあるのだそうだ。つまり、竜の牙とは、竜の同盟者という意味でもあるらしい。

 なるほどね。

 そういう話を聞くと、ちょっとかっこいいかなって思う。


「ちなみに『原初の竜』って、普通の竜とは違うんですか?」


 一応、聞くだけ聞いてみた。

 そもそも、竜に関しては、コロネも会ったことがない。

 話だけなら、ルーザやマギーから聞いているけどね。

 確かサウス君とか言っていたっけ。この町にも竜族はいるみたいだし。


「ああ、コロネさんが言っているのは、サウスとかのことだろ? あいつは竜族ではあるが、世代が少し後なんだ。後から生まれた竜ってところだ。俺も残念ながら『原初の竜』とは会ったことがなくてな。だから、違うかどうかもわからない。それも含めて、いつか、というわけだ」


 始まりの竜。

 今はどこにいて、どのくらい残っているのかもわからないのだそうだ。

 そのため、夢追い人がロマンを求めて、という感じでもあるとのこと。


「あるいは、『最果てのダンジョン』なら。そう思ってはいる。このダンジョンは奥が深いんだ。まだ歴史は浅いが、浅めの階層ですら、めずらしいモンスターに出会えることがある。本当に興味が尽きないダンジョンだな」


「まあ、できて百年経ってないダンジョンに竜族が住んでいるかは別にして、ぼくも面白いと思うよ。思いのほか、交渉が成立しやすいんだもん。不思議な感じだよ」


 へえ、そういう話を聞くと、興味深いかな。

 まだまだ不思議がいっぱいのダンジョンみたいだね。


「それじゃあ、他のメンバーも紹介しますね。アランとピエロがちょっと暴走しがちですので、なかなか話が進まなくて困ります」


「いや、それ俺のせいか?」「ぼくは関係ないもんね」


「さておき、そっちの小さい女の子がアイです。『竜の牙』のマスコット的存在ですかね。食べることが大好きで、いつもごはんを食べています」


「よろしくね、コロネのおねえさん」


「こちらこそ、よろしくね、アイちゃん」


 アイとは、前にすれ違ってはいるよね。

 確か、プルートの屋台で焼きりんごを買っていた子だ。

 一応、その時に名前は聞いていたけど、『竜の牙』の一員だったとは知らなかったよ。

 ということは強いってことなのかな。

 イメージとしては、防寒具を身にまとった雪ん子って感じがする。

 でも、見た目はラビたちよりも小さいよね。小学校低学年って感じかな。

 藍色の髪に、蒼い目。

 ちょっとだけ、神秘的な印象を受ける。


「ただ、アイの場合、とあるダンジョンで倒れていたところを助けた縁で、という感じでメンバーに加わっています。彼女自身もあまり思い出したくない経験でもしたのか、自分の生い立ちなどは思い出せないそうです」


 そうなんだ。

 結局、行くところがないから、とアランたちが面倒を見ているのだそうだ。

 でも、こんな小さい子がダンジョンに一緒に行くのって、危なくないのかな。


「こう見えて、アイは氷魔法の使い手です。ですから、もしかすると、妖怪種なのかも知れないという感じですね」


「だが、コズエやコノミでも、種族がわからなかったんだ。妖怪種の場合、真名が分からないと、どうしようもないらしい。まあ、何だかんだ言っても、アイはアイで自分の身は守れるから、一緒に行動しているわけだ。アイ自身の意思でもある」


「うん、アイついてく。アランと一緒がいい」


 なるほどね。

 妖怪種ということになると、見た目と年齢が一致しないだろうしね。

 それにしても、氷魔法か。何というか、タイムリーな話だね。


「では、あとふたりの紹介もしちゃいますね」


 そう、楽しそうに話を続けるミスト。

 そんなこんなで、『竜の牙』の紹介は続く。

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