36/38
虚界
気がつくと、
茉莉歌は、何もない場所に立っていた。
見る目、聞く耳、嗅ぐ鼻からは、いかなる情報も入力されなかった。
手足を動かしてみても、風も、冷たさも、熱さも、何も感じない。
目をこらしても、そこには闇すらなかった。上も、下も、右も、左も、ここには無かった。
ここは、茉莉歌の心が認識できない場所なのだ。
「…………! これは……?」
●
やがて、茉莉歌は気付いた。
虚しいこの場に一つだけ、茉莉歌が感じられるものがあったのだ。
それは、小さな、黒い球体として茉莉歌には認識された。
茉莉歌にはわかった。これまで、茉莉歌の居た『世界』だった。
今は固く冷たく、閉ざされている。死んでしまった『世界』だ。
「みんな、『ここ』にいたのに……もう、何もかも……」
耐えがたい悲痛が茉莉歌の心を刺した。
「…………!」
急に、『世界』の他に、別の『何か』が感じられた。
それは、茉莉歌を観察する、幾つもの『視線』だった。




