神様、まってやがれ!
「茉莉歌、君は『願い事』を使って、学園に戻るんだ、君の事は、理事長に頼んである」
リュウジは、そう茉莉歌に告げて、彼女にしみじみ言った。
「姉貴と、お父さんの事、つらかったな……でも、あれで良かったんだ……」
「おじさんは……どうするの?」
茉莉歌が顔を上げて、いぶかしげに彼に尋ねた。
「俺は……行くところがある、コータとの約束を守らないと」
リュウジは答えた。
「本当なら、俺の『願い事』で君を帰さなきゃいけないのに……」
彼はすまなそうに茉莉歌に言った。
「おじさん、『あれ』をやるつもりなんだ……」
茉莉歌が、リュウジを見て言った。
何かが分かったという風に。
「……え?」
「あのキモい先生の言った通り、『世界』と一つになって、『隙間』を見つける、そのつもりなのね?」
「……そうだ」
リュウジは言った。もう彼に、迷いはなかった。
「だったら……私も行く」
茉莉歌が、ポツリと言った。
「……それはだめだ!」
リュウジは慌てた。
何の勝算も無い賭けに、姪を巻き込むわけにはいかない。
仮に目論見どおりに事が運んだとして、『外側』に何が待っているか、想像もつかないのだ。
姉と約束した。茉莉歌だけは絶対に守り通すと。
「ま……」
「聞いて、おじさん!」
茉莉歌がリュウジを制した。
「『隙間』を見つけたって、そこでおじさんがへたってしまったり、どうかしてしまっていたら、意味ないの」
茉莉歌の声は冷然。
「目的は、世界の外側に行って……そう……『神様』と話し合うことでしょ?」
彼女は続けた。
「だから、私も行く。私も『隙間』まで連れて行って! おじさんと私のどっちかが『外側』に出られればいいの、確率は倍になるでしょ?」
茉莉歌が、リュウジをまっすぐ見つめて、そう言った。
「おじさん」
彼女は静かに言った。
「……こんなの、絶対おかしいよ。もし、『神様』がこんなことをしたんだったら、それは『神様』の方が間違ってる」
静かな口調の中に、決意と、怒りがあった。
「……そう、私達が、『とっちめて』やらないと!!」
茉莉歌は親指で自分を指して、笑った。
その笑顔は悲壮だった。
「………………」
リュウジはしばし考え、つぶやいた。
「『願い事』は組織化されるほど有効に機能する……か……」
リュウジは茉莉歌を見た。
「茉莉歌! 覚悟はいいか!」
「うん、行こう、おじさん!」
茉莉歌が頷く。
リュウジは夜空を仰いだ。
暗い空には星とも月とも異なる、オレンジ色のぼんやりとした光点がいくつも散らばっていた。
光点は彼らを嘲笑う目のように思えた。
リュウジは、黙って茉莉歌の手をとった。そして空に向かって叫んだ。
「よく聞け!願い事を言うぞ!」
「世界の全てを見せろ!俺を世界につなげ!そして俺とこいつを『外』に連れて行け!」
ぐ ぐ ぐ ぐ ぐ ぐ ぐ ぐ ぐ
リュウジの目の前に、空が落ちてきた。




