鬼畜博士対魔少女
一人研究棟に残ったエナは、教授と対峙した。
教授が、エナに唾を吐いた。
「小娘が! あんな萌え豚を庇って命を捨てるか!!」
教授が侮蔑の笑みを浮かべてエナに言う。
「いいだろう、本当ならちゅぅがくせぇを(ピー)て(キューンズキューン)たかったが、JKでも、一向に構わん!」
許さない……コータさんは萌え豚じゃない……
……燃 え 豚 だ !
エナが顔を上げた。
逆巻くその髪は深海の闇黒。夜の波濤。
その肌は氷の蒼白。死色の雪。
そして、その瞳は紅蓮の赤。あらゆる事物を溶かし尽くさんとする、混沌の炎だった。
闇が質量を持ち、血を孕む風が吹いた。
風に乗り歩む者が滅びの詩を詠った。
ふんぐるい~むぐるうなふ~くとぅるう~るるいえ~うがふなぐる~ふたぐん
ぴたり。エナは真白の掌底を教授に向けた。
「燃えろ!」
玲瓏と冷たいエナの声。
ぼおお!教授の体から火柱が噴き上がった。
だが教授、涼しい顔でエナに這ってくる。
「腐れ!」
朱唇を怒りに歪めてエナが言い放つ。
エナに迫る教授の触手が腐臭を放ちながらドロドロに溶け崩れて行く。
だが床に散らばった腐肉は教授の体に吸い取られると、再び何本もの触手になってその体から生えてくるのだ。
「狂え!」
嗜虐の焔を瞳に灯してエナが命じる。
教授の体から何本もの棘が飛び出して、彼を雁字搦めにしてその刺で皮膚を裂いた。
教授の頭に、赤や黄のチューリップが咲いた。
だが教授がその身をうねらせると、棘もチューリップもすぐに、干からびて崩れた。
「ふん、面白い手品だが、私には通じないぞ!」
傲然とエナに迫る教授。
「さっきは『補助脳』の管制に気を取られて遅れをとったが、こんどはそうはいかん!」
教授が、蛸足を弾ませて、跳んだ。
ずずん。ひと跳びでエナの目の前に着地した教授。先程とは比較にならないスピードだ。
「つかまえたあ!」
エナの体に巻きつく蛸足。だが、間一髪で、
ぱちん。エナのフィンガースナップ。指ぱっちんで発生した真空波が再び蛸足を切り払う。
たん。エナもまた、跳んだ。しなやかな脚で床を蹴り、教授の頭上を飛び越えて、その背後に着地する。
「滅べ!」
……と、教授の背中に向かってエナが言いかけた、その時だ。
どかん!突如、エナの足元の床が、音を立てて崩れ落ちた。
「ああっ!」
陥没していく床に足を取られて倒れるエナ。
なんと、床を崩して現われたのは教授の触手。触手はエナの足首を掴んで、今度こそ彼女の体を捕えて縛った。
教授は自分の足元に穴を穿ち、階下に蛸足をのばして床下からエナを狙っていたのだ!
「楽しい鬼ごっこだったな! もう逃さん!」
ずどん! メスを生やした触手が、エナの右肩を貫いて、彼女を串刺しにして壁に縫いつけた。
「うぁぁぁぁあああああ!!」
エナが端正な貌を歪ませて、苦悶に叫んだ。




