血闘、そして茉莉歌の決意
「脳みそ~~~! 脳みそをよこせ~~~!!」
机やロッカーを押し倒し、蛸足の様な触手をのたくらせながら、大月教授が三人に襲いかかってきた。
「どうかしてる! 逃げろ!」
研究室から飛び出す三人。だが教授の触手が、茉莉歌の足首に絡みついた。
「きゃあああ!!」
スカートを押さえながら逆さで宙吊りになる茉莉歌。
教授の卑猥な頭部が茉莉歌に迫る。
「あははあ! ちゅぅがくせぇの脳髄にアクセスするのは初めてだぞ! どんな味かな~~ぁあ'`あ'`あ'`あ'`あ」
興奮した教授が頭部を膨れ上がらせた。
そして、蛸足の先端に埋め込まれていた鋭い医療用メスを生やすと、茉莉歌の喉元に突きつけた。
「いやぁあああ!リュウジおじさん!」
絶叫する茉莉歌。
「茉莉歌ぁあ!」
しゅらん。
リュウジが、背中におった日本刀を抜き打った。
旅の道中で魔王衆『琉詩葉』から賜った妖刀『関ノ孫六兼元』。
万が一に備えて携えてきた刀だが、今こそ抜く時。彼は教授に走り寄った。
ばさり、ばさり、リュウジは次々と教授の触手を両断していく。
だが、切った端から、すぐに新しい触手が生えてきて、リュウジの行く手を阻むのだ。
「馬鹿め! そんなもので私は倒せん! 肉体のセキュリティとバックアップにも気を使ってるのだ!」
シュバッ!リュウジの脛に、鋭い痛み。
あ!リュウジは足元を見た。
なんということ、切り落とした教授の蛸足が彼の足元に這い寄ると、先端のメスで彼の脛を切り裂いたのだ。
「うあああああ!」
痛みで転げまわるリュウジ。
教授は鼻を鳴らして触手でリュウジの体をなぎ払った。
ごっ!:*:・。,☆゜'
ロッカーに頭を強打し、リュウジは昏倒した。
「リュウジ~!」
彼に駆け寄ろうとするコータの足に、床にのたくる蛸足が絡みつく。
「うおお!」
転倒するコータ。
「ふん、愚鈍なブタめ!」
教授が舐めきった様子でコータを見下ろした。
「貴様は後でゆっくり料理してやる! まずは、ちゅぅがくせぇの処置だ、だがその前に……!」
教授のメスが茉莉歌のスカートを切り裂いた。
茉莉歌の脚を、ヌラヌラとした汚らわしい触手がゆっくりとまさぐっていく。
「あっ…………! あっ…………!」
恐怖とおぞましさに茉莉歌は涙を流して硬直する。
「あはははははぁあ!たぁまぁらぁんなぁぁぁ!!」
卑猥に笑う教授。
茉莉歌の全身に彼の触手が迫る。あぶない茉莉歌! だがその時だ。
唐突に、教授の触手が痙攣して、その動きを止めた。
「な、何だ?体がっ!言うことを!」
教授は戸惑っていた。
教授の肉体を構成する数百の『補助脳』の一部が、彼の管制を拒んでいるのだ。
「そんな馬鹿な!『補助脳』の自我が、私の動きを阻むだと!?」
愕然の教授、補助脳の制御は完璧だ。『叛乱』など、ありえないはずだ。
「お父さん! お母さん!」
茉莉歌は直感した。彼女の両親が、教授の内側から彼を制して、茉莉歌を助けようとしている!
「あ痛つ……、こ、コータ! 用意はいいな!」
目を覚ましたリュウジが叫ぶ。
「ああ!」
ようやく触手を振り払ったコータは、メタルマンスーツの掌底を教授に向けて構えた。
「茉莉歌! これを使え!」
リュウジは、足をひきずりながら教授に近づいた。
そして、腰に下げた手榴弾を手に取ると、茉莉歌に向けて放った。
学園での最後の戦いで、理事長から渡された爆弾だ。
「わかった!」
教授に宙吊りにされながら、必死で爆弾をキャッチする茉莉歌。
「うう、でも……!」
彼女は躊躇っていた。教授の体を破壊するということは、教授の中にいる彼女の両親も……。
泣きそうな顔の茉莉歌。
「ぐううう! 待っていろ、小娘ぇ!」
教授が茉莉歌を睨んで呻った。必死で補助脳を管制し、肉体の自由を取り戻しつつあるのだ。
「茉莉歌、いいんだ……」
懐かしい声が、茉莉歌に語りかけてきた。
お父さん……! 彼女は目を見開いた。教授の内側から、茉莉歌にだけ聞こえる父親の声。
「よくここまで来てくれた、すまない茉莉歌、さあ早く……」
父は、懇願するように茉莉歌に言った。
……わかった。
茉莉歌は、眦を決した。
「お父さん……お母さん……! さ よ な ら !」
茉莉歌は手榴弾のピンを抜くと、アングリ開いた教授の口中に突っ込んだ。




