宴のあと
陽の落ちた聖痕十文字大学。
刻々闇を深めていくキャンパスの片隅に独り、血に濡れた少女が虚空を見つめて立ちつくしていた。
少女の周囲は、見る者全てが己が正気を疑うに違いない、悪夢のような異境と化していた。
彼女が切り刻み、すり潰し、燃やし尽くした異形達の残骸が、グズグズと血や粘液をこぼしながら、うず高く積み上がっているのだ。
襲い来る怪獣達を、その異能の赴くままに誅戮し尽くしたエナ。
浅黄のワンピースはどす黒く闇色に染まり、しなやかな手足には、蒼白の顔には、甲虫や大長虫の緑灰色の体液が滴っていた。
「ふぅぅうぅぅうぅうう」
唇に垂れてきた漿液を紅い舌で舐めとりながら、彼女は甘く昏い歓喜の余韻に浸っていた。
キャンパスのそこかしこに、ザリガニ、宇宙ナメクジ、不定形生物たちの残り滓が撒き散らされて、まるで腐った果実の様なふしだらな匂いを放っている。
「…………ぁあ!!」
少女が息を飲む音。
エナの瞳に光が戻った、今、我に返ったのだ。
エナは周りを見渡すと、地面に膝をつき、両手で顔を覆った。
またやってしまった!
エナは恐怖した。
いったいいつの頃からだろう。
死の淵から還る度か、願いを全うする度か?
彼女の魂に巣食ったカオスは、殺戮への衝動は日毎に膨れ上がり、今や彼女の制御の域を超えつつあった。
だが……!!
エナは顔を上げた。
今ここで悔んでいる時間はない。
三人を追いかけなければ。エナはコータのことを思った。
あの時、捨て鉢になって父を討とうとしたエナを、身を呈して止めてくれたコータ。
エナを救おうと、自身の願い事を躊躇なく使ってくれたコータ。
「コータさん!」
エナは研究棟を見上げた。
ぴぴぴ!
彼女の赤い髪留めが、最上階から放たれる強烈な毒電波を受信した。
……コータさん達が危ない。助けないと!!
エナは我が身に鞭打ち、震える足で立ちあがった
「コータさんコータさんコータさんコータさんコータさん……」
秩序と混沌の狭間を漂うエナにとって、今やコータは正気の岸に辿り着くための唯一のアイコンとなっていた。
彼女は戦いで疲弊しきった体を引きずって、研究棟に向かった。




