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まりか、りじぇねれいと!  作者: めらめら
第4章 妖都疾走
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彼方より

「如月君、七日前に始まった『あれ』はな、『祭り』なのだ。世界を管理していた何者かが、今『ここ』を終わらせようとしている」

 教授が、何か、おかしくてたまらないといった様子で話し始めた。

「だがその前に、なげやりに最後の『実験』をしているのだ」


「『ここ』って……この世界が終る……そんな馬鹿な!」

 リュウジは愕然とした。


「本当だ如月君。私は世界の『外側』を垣間見たのだ。そして知った……『彼ら』にとって『ここ』は、実験場に過ぎなかったのだよ」

 大月教授がヘラヘラと嗤いながら続けた。

「何らかのデータ収集のためのね、『彼ら』は目的を果たした、遠からず『ここ』は闇に沈む」


 リュウジは、全身から力が抜けて崩れ落ちそうになるのを、必死で制していた。

 世界が消える。大月教授の出まかせだ。出まかせだ。出まかせだ。

 リュウジは必死に反芻した。だが彼の直感が告げていた。


 教授は、自分の見知った事実を告げている。


「そこでね如月君、私は考えたんだ……世界と一緒に消え去るなんざ、まっぴら御免。幸いにして私はこの脳内に膨大な情報を得ている」

 教授の顔が得意満面。

「これだけ巨大な『実験場』だ、必ず世界の『外側』に至る『セキュリティホール』が在るはずだ、その間隙をくぐって、『彼ら』の『階梯』まで移動するのだ。全人類を代表してね!」


 ……狂っている。リュウジは戦慄した。

 膨大な情報がその脳内にインストールされるうちに、大月教授本来の人間性が消去されてしまったのだ。


 今や教授は、得られた情報をもとに自己保存のためだけに行動を規定するおぞましい『何か』だった。

 三人は大月教授の狂気に圧倒され愕然と立ちつくしていた。


 大月教授はあいかわらず傲慢な笑みを顔に浮かべて言った。

「私の『計画』には一つ課題があった。流れ込んできた膨大な情報を、私の脳だけで全て処理するのは不可能だった。そこでここにいた研究員や職員の『協力』を仰いだんだ、だがそれでも足りなくてね。ここに避難してきた人達にも『協力』してもらった!」


「『協力』とは?」

 いやな汗をかきながら、おぞ気をふるってリュウジが尋ねた。


「彼等の脳髄を摘出して私に『接続』した。処理速度の向上を図ってね。得られた『知識』を用いれば容易な事だったよ。」


 ブルン!


 闇の奥の巨大な『何か』が大きく蠕動した。


「『避難してきた人達』って、まさか!姉貴も……!?」


「君のお姉さんか。さてどうかな(検索中……検索中……)ああ、『結衣』君もここにいるよ、その連れ合いもね」


「そんな……!お父さんとお母さんを……!許さない!」

 茉莉歌が悲鳴にも似た声をあげた。


「先生……!」

 激昂する茉莉歌を制して、リュウジが大月教授に質問を続けた。口の中はカラカラだ。


「それで……上手く行ったんですか?『計画』は?『間隙』が見つかれば、例えば、俺なんかでも『外側』に出られるんですか?」


「そうだな……『願い事』を用いればそれも可能だろう。君自身が『世界』と一体化すればいい、世界の全てを認識出来れば『間隙』の発見自体は容易だろう」

 大月教授が嘲笑うように言った。


「だが、お勧めはしかねるよ!それだけ巨大なものを『認識』したら、君の自我などあっという間に溶けて消えてしまうだろう、私は『私』のまま、上の『階梯』に進みたいんだ」


 一瞬、教授のおぞましい笑顔が消えた。

「そのために『協力者』の情報端末を使って君達を呼んだんだ。まだまだリソースが足りないからな!君達にも『協力』してもらう!」


 大月教授が『立ちあがった』。


 ブルン!ブルン!


 闇の中の『何か』がその姿を現した。


「まさか……こんな!」

 リュウジは我が目を疑った。


「ぉぅああ!!」

 茉莉歌が嘔吐した。


「ぐ……」

 コータの体が恐怖で硬直した。


 大月教授の腰から下は、ヌラヌラしたけがらわしい緑灰色の粘液に覆われた、細かく蠢動する何千本ものミミズ状の、のたくる触手の集合体だった。

触手は闇に隠されていた何百人分もの脳髄を寄せ集めた、団子状の塊に接続されていた。

 巨大な脳髄団子の塊からはさらに何本もの図太い蛸足状の触手が生え、床を這いまわっていた。


「ぁ'`はあぁあぁああああ!! みたか! ひとりぐろーばるぶるるるるれいぃぃぃぃぃぃぃぃぃん!!」

 教授が嗤う。


「さあ、君達も加わるんだ人類代表の列に! 一緒に天国の階段をのぼろおおおぉぁあ'`あ'`あ'`あ'`」


 名状し難い怪物と化した大月教授が、三人の眼前に迫ってきた。


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