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まりか、りじぇねれいと!  作者: めらめら
第4章 妖都疾走
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悪夢の再会

 日が沈んだ。

 地上の全ての人間の脳裏にあの『声』が響いてから、七回目の夜が訪れようとしていた。

 研究棟に足を踏み入れた三人は、眼前に広がる異様な光景に息を飲んだ。


 棟内に人の気配はなかった。

 だが、その床には、何百着と思しい数の、血まみれの衣服が、男女年齢の別を問わず、無造作にまき散らされていたのだ。

 衣服の間には、革靴、パンプス、スニーカー等が散らばっている。 靴下や下着と一緒に。


 リュウジはゾッとした。

 まるで、人間が凄惨な暴行を受けた後に、その着衣を残して肉体だけを消失させたかのようだ。

「ううぁ!こんなことって……!」

 両手で口を押さえる茉莉歌。

「見るな、茉莉歌!」

 茉莉歌を背中で遮るリュウジ。

「リュウジ!あれ……。」

 コータが天井を指差した。

 吹き抜けの暗い研究棟の中に、唯一の灯があった。

 最上階の十三階だけには、煌々と明かりが灯っているのだ。


「まるで誘蛾灯だ……」

 リュウジのうなじの毛がぞおおと逆立った。

 この一帯で唯一破壊を免れているガラス張りの高層建築は、夜には煌々たる灯を放ったはずだ。

 災害から焼きだされて行く場のない人々にとって、それは身を寄せる希望の砦に見えただろう。

 だがその実態はどうだったのか?


「絶対におかしい……何かの罠だ。試されてる……!!」


 リュウジの本能が、今すぐに、全力でこの場から離れるよう、彼に告げていた。だが……

 リュウジは振り返り、背中の茉莉歌を見た。

 茉莉歌は震えながら、その目で訴えていた。


 いきましょう、全て見届けるまで…………。


 使命感と好奇心が、本能を凌いだ。

「コータ、一緒に来てくれるか?」

「ああ、ここまで来て後に退けるか!」


 三人は十三階を目指し、吹き抜けの階段を上って行った。


 #


 カツーン、カツーン、


 暗い棟内に三人の足音が響きわたる。


 最上階に辿りついた三人。

「如月君、君かね? こっちだ……こっち……」

 廊下の奥から、リュウジに聞き覚えのある声が響いてきた。

 彼の学生時代の恩師、大月教授の声だ。


「先生、やはりここに……」

 廊下の突き当たりに扉があった。表札が掲示されている。


『聖痕十文字大学宇宙物理学研究室』


「……いくぞ」

 リュウジが扉を開けた。

 茉莉歌とコータが続く。


「…………!」

 リュウジは絶句した。

 ここは……水族館? いや、そんな馬鹿な。


 暗い研究室の空中を、魚が泳いでいる。いや、よく見ればそれは魚ではなかった。

 半透明の深海魚のような、クラゲのような、異様な生物達が、その体からぼんやりとした燐光を放ちながら何匹も宙を泳いでいるのだ。


 そして、めちゃめちゃに壊された機器や、積みあがった本の山の奥に、大月教授が座っていた。

 闇の中で、リュウジには、スタンドライトに照らされた教授の顔が、まるでそれだけで浮んでいるかのように見えた


 その頭部は数倍に膨れ上がり、周囲にはパチパチと火花が散っている。

教授の背後を覆う闇の中では、何かは判らないが、巨大な影が蠢いている。

「先生……なんて姿だ、苦しくないんですか?」

 数年ぶりに出会った恩師に思わずそう尋ねた


「苦しい?とんでもない。君にもすぐにわかるだろうが、しごく気持ちのいいものだよ。」

 大月教授がニヤリと嗤った。

 温厚篤実で知られたかつての教授の面影は今は無い。


「先生、教えてください」

 リュウジは吐き気を堪えながら教授に質問した。

「あの朝、先生は『世界』の『秘密』を求めたはずです」

 リュウジは言った。『あれ』が起きた日の朝の記憶が生々しく蘇る。

「いったい、何故こんな事が始まったんです? それと……階下に散らばっていた服、あれは何なんですか!?」


「いいだろう如月君、せっかくここまで来たんだ……君にまだ『自我』があるうちに、話してやろう」

 教授が、話し始めた。


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