モンスターカーニバル
「コータ! 大丈夫か!?」
「もう限界だ! 弾切れだよ!」
「行き止まりだよ! リュウジおじさん!」
旧甲州街道を経て新宿に到着した一同を見舞ったのは、想像を絶する苦難とカオスだった。
銀河の向こうからやってきた巨大昆虫、アラクニドウォリアーが何百匹もの軍団を成して『てば九郎』を追いかけてきたのだ。
中には、人間に擬態した巨大ゴキブリや、蟻の様な大顎の完全生物、シリコンを主食にする宇宙大群獣も混じっていた。
ピュン! ピュン!
『てば九郎』の後部から両手のパルスレイで昆虫たちを狙い撃つコータ。だが、数が多すぎる。
「このっ!このっ!」
茉莉歌は『てば九郎』をよじ登ってくる巨大フナムシを、銃剣でこづきまわしていた。
リュウジは必死の形相で運転席でアクセルを踏んでいる。
ドーン!
突如、頭上から轟音。
ビルを掠めて街灯をへし折り、巨大な『高崎観音』の首が、明治通りを疾走する彼らの前に落下してきたのだ。
「うわー!」
ハンドルを取られるリュウジ。
路上には濛々たる黒煙が立ち込めた。
どしーん、轟く地響き。
煙の向こうから、巨大な何かが立ち現われた。
「今度はなんなんだよ……」
危機また危機に、半ば現実感の麻痺したリュウジが力なく呟いた。
崩れたビルの谷間から姿を現したのは、節くれだった長い手足に巨大な鉤爪を生やした灰褐色の巨大魚人。右手には鋭い槍を携えている。
東京湾から上陸してきた深海怪獣、『クローバー』だった。
ガリガリ!
邪悪な一族の末裔は巨大な鉤爪を振り回し、周囲のビルを引っ掻いた。
落下する瓦礫と硝子の破片が『てば九郎』を襲う。
「まずい!モード、『ローダー』!」
ギガゴゴギ。
咄嗟にパワーローダーに変形して瓦礫をかわす『てば九郎』。
小脇には茉莉歌が抱えられている。
ひゅん。コータは『てば九郎』からテイクオフして宙に舞う。
「うおーーーん」
不気味な咆哮を上げながら、怒り狂ってリュウジ達を叩き潰そうとするクローバー。
後方には昆虫軍団が迫る。絶体絶命、その時だ。
バッチーン!
巨大な尻尾の一撃が、深海怪獣を叩きのめした。
「ギャオーーーン!」
漆黒の怪獣王、ゴシ"ラがやってきたのだ。
「うおーーーん」
なんとか体勢を立て直すクローバー。
蜘蛛の様な長い手でゴシ"ラに掴みかかり、頭部の口吻から不気味に光る砲門の様なものを露出させた。
クローバーの口から、眩い光が漏れ出た。
ピカッ!
ゴシ"ラの頭部に突き刺さる粒子砲の一閃。
だが見ろ。怪獣王は無傷だ。役者が違うのだ。
怪獣王の背ビレが、青白く光った。
ゴオオオ!
おお、ゴシ"ラ必殺の放射火炎が深海怪獣の半身を消し飛ばした。
どどーん!
深海怪獣は一敗地に塗れ、その体は見る間にドロドロに崩れ去り、汚らしい泥土と化した。
「ギャオーーーン!」
勝ち誇ったゴシ"ラが、今度はリュウジ達を睨みつけた。
ゴシ"ラの背びれが青白く光る。再び放射火炎を吐くつもりなのだ。
「やはり今か!」
リュウジは覚悟した。この場まで温存していた『願い事』だが、命には替えられない。
三人で安全な場所まで移動するのだ。
「願い事を言う、俺達を……」
その時だ。
とんっ!
パワーローダーに変形した『てば九郎』の肩部デッキに突然、緑色の光と共に空中から何者かが降り立った。
光の中にいたのは浅黄のワンピースに紅い髪留めの少女。
エナだった。
「エナ! どうしてここに!?」
「待って、ここは私が何とかする!」
エナはゴシ"ラの方を向いた。
ゴオオオ!
彼らに放射火炎を浴びせるゴシ"ラ。
だが見ろ。エナのかざした手の先に現れた光の衝角。
衝角が、熱線を切り裂いた。拡散した熱線は、彼らの後方に迫る昆虫軍団に襲いかかった。
「キシャ――!」
燃える昆虫軍団。ゴキブリやレギオン達が、焼き海老のように真っ赤に変色して果てていく。
「ギャ、ギャオ?」
戸惑ったゴシ"ラが、三度熱線を吐かんとしていた。
「ミラー!」
エナが叫んだ。見ろ、彼女の正面に出現したのは、六角格子の合成ダイヤモンドで造られた巨大な鏡。
ゴオオオ!
『ミラー』はゴシ"ラの放った放射火炎を反射した。一万倍に威力を増した熱線がゴシ"ラを直撃する。
「ギャオーーーーン!」
さしもの怪獣王も耐えきれず、彼らに背を向け、その姿を消した。
「エナ! やっぱり君だったのか!ありがとう!」
コータがうれしそうに言う。
新宿への道中、三人は何度も危機に陥った。
だがその度に、姿を見せない誰かが、三人を助け、導いてくれていたのだ。
「話している時間はないわ。急いで!」
エナが言った。昆虫の生き残りが、再び彼らに迫ってきたのだ。
「わかった! 目指すは聖痕十文字大学だ!」
リュウジはコータと茉莉歌を『てば九郎』に乗せ、アクセルを踏んだ。




