表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まりか、りじぇねれいと!  作者: めらめら
第3章 魔少女かくて還る
21/38

出立の夜

 夜が更けた。


 崩れかけた校舎の中庭の花壇に、物部老人の愛用していた猟銃が下向きに刺さっていた。

 前には線香が供えられている。


「物部さん、今はこれが精一杯ですが、正式なご葬儀はいずれ必ず……」

 理事長が、墓標に手を合わせて泣いていた。


「すみませんでした……私が至らなかったばっかりに……」

 間接的とはいえ、彼の娘が物部老人を死なせたのだ。


 後悔と心労で、一夜にして理事長の髪は白髪となっていた。


「炎浄院さん……」

 理事長が振り向くと、リュウジが一人立っていた。


「如月君、君にも色々苦労をかけたな……水無月君や雹君には本当に済まないことをしてしまった」

 リュウジは再び、いたたまれない気持ちになった。


「実は、こんな大変な時に申し訳ないんですが、学園を出ようと思うんです」

 リュウジは、理事長に姉の結衣のメールの事を話した。

 そして、事実を確かめに、単身新宿に向かうつもりであることを。


「新宿……!危険すぎる、自殺行為だ」

 理事長が驚いて引き止める。


「炎浄院さん……今確かめておかないと、一生後悔する気がするんです」

 リュウジは理事長に言った。


「確かに世界はこの先どうなるか分かりません、でも、茉莉歌には約束したんです! 絶対にあいつの両親を見つけるって、それに……」

 リュウジは、聖痕十文字大学に研究室を構えていた恩師、大月教授のことを考えていた。

 彼は世界の秘密を求めたはずだ。はたして無事だろうか。


「やはり、新宿には何かがある、そんな気がするんです、もしかしたら、娘さんを助ける方法も見つかるかもしれない」

 理事長はリュウジを見た。リュウジの眼には決意の輝きがあった。


「……男なら体を張れか……わかった如月君」

「ありがとうございます、俺が戻ってくるまで、茉莉歌の事を頼みます!」


「だめだ……如月君、私には請け負えないよ」

 理事長が悲しそうに首を振った。


「私は無能な男だ、お預かりした生徒とご家族を、大変な危険にさらしてしまった、物部さんも……」

「炎浄院さん……」

 リュウジは言った。


「あなたが来てくれなかったら、俺と茉莉歌は恐竜に食べられていました、他の生徒や家族だって一緒です」

 今しかないのだ。失意の理事長に、せめて自分の感謝と、今の思いを伝えたい。


「あなたは俺達を守ってくれた、どんなに結果が不条理で残酷でも、その一点は真実です」

「…………!」

 理事長の背筋が伸びた。


「わかった如月君、水無月君は当校で責任をもってお預かりしよう」

 理事長はそう言った。


「その必要はないよ、おじさん!」

 背中から声が聞こえた。茉莉歌が立っていた。二人の話を立ち聞きしていたのだ。


「私も新宿に行くから、リュウジおじさんだけじゃ頼りないもんね」

 茉莉歌が自分を指さして言った。


「茉莉歌ちゃん……駄目だ!危険すぎる!」

 狼狽するリュウジ。


「学園で何を学んだの?おじさん、『願い事』は組織化されるほど有効に機能するの、一人より二人の方がずっと安全でしょ。それに……」

 彼女は譲らなかった。


「お父さんとお母さんのこと、自分の目で本当の事を確かめたいの、結果がどうであっても!」

 何かが吹っ切れた茉莉歌が、リュウジにまくしたてる。彼女の決意もまた固かった。


「俺も行くぜ」

 コータがひょっこり顔をだす。


「リュウジはヒョロくて弱っちいしな、戦いには、タフな(おとこ)が必要だろ?『これ』もまだ使えそうだし」

 コータは校庭で拾い集めたバラバラのメタルマンスーツを指差して言った。


「茉莉歌、コータ、お前ら……」

 リュウジは理事長を見た。理事長は無言で頷いた。


 #


「本当にいいのかい、鳳君、君の商売道具だろ?」

 焼き鳥の移動販売車『てば九郎』を前に、リュウジが鳳乱流に言った。

「三人で移動に使えそうなのは、こいつくらいでしょ?力仕事にも使えるし、それに……」

 乱流(らんる)が答える。


「進呈するなんて言ってません、『貸す』だけです。絶対に無事に戻ってきて下さいよ!商売道具なんだから」

「鳳君…………ありがとう!らんらん!」

 感極まったリュウジが、勝手に変な仇名を付けて彼をハグハグした。


「時城君……」

 理事長がコータに言った。


「君とは色々あったが、あの時は娘のことを……うれしかったよ、済まなかったな」

「エナさんの事、何とか助けたい……絶対何とかします!」

 コータが答えた。だまって頷く理事長。


「よし、出発だ!」

 暗闇の中、三人をのせた『てば九郎』は、一路新宿をめざして、聖痕十文字学園をあとにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ