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まりか、りじぇねれいと!  作者: めらめら
第3章 魔少女かくて還る
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リュウジ煩悶

「リュウジ、ごめん、結局、約束破っちゃったな……絶交かな……?」

 コータが顔を伏せて言った。


「…………」

 リュウジは返事に詰まった。

 コータは、やることなすこと間違いだらけだった。

 それでも、彼の『願い』を責められる奴が、どこにいるだろう。


「……何言ってんだコータ、謝るのは後だ」

 リュウジはコータに言った。


「それより、早く傷の手当てをしないと、服が血まみれだぞ。」

「え……ほんとだ血……うぎゃ痛ってーー!」

 コータが卒倒した。


 日が沈んだ。


 校舎から逃れた人々が、暗い顔でタニタさん達の準備した炊き出しに並んでいた。

 黒石さんや薔薇十字さんは、怪我をした人達の手当てに忙殺されていた。

 幸いにも校舎の崩壊と火災による死者はいなかった。『隊員』達の迅速な避難誘導が功を奏したのだ。

 だがトライポッドとの戦いで物部老人は凄惨な死を遂げた。そして雹は……


「茉莉歌ちゃん……」

 事の顛末を鳳乱流(おおとりらんる)から聞いたリュウジは、いたたまれない顔で、塞ぎこむ茉莉歌の背中を見た。

 あれ以来、茉莉歌は一言も話せず、食事も口にしていないのだ。


 リュウジにはかける言葉が見つからなかった。


「やはり狂っている……」

 リュウジは暗澹とした気持で空を仰いだ。

 この混乱と狂騒はいつまで続くのだろう。

 対症療法を以って世界を正常に戻さんとする理事長の願いは、彼の家族の願いにより、絶望的な形で幕を閉じた。


 リュウジは、哀れなエナの運命や、雹の行方、そして失意の茉莉歌の事を思った。

 エナや茉莉歌に手をさしのべる、どんな『願い』があるというのだろう。


 いっそ、この事件を『無かったこと』にしてほしい、そう願うのはどうだろう?

 気の滅入っているリュウジに、それは意外な名案に思われた。

 あの『声』が聞こえず、怪奇現象や災害の起きていない状態に、世界を『戻す』のだ。

 リュウジと茉莉歌は、こんな目にあうことなく、安穏とした日常に帰れるかもしれない……。


 いや、待て。

 リュウジの中の何かが、それを制した。

 彼は消えた雹の事を思い返した。

 たしかにリュウジがそれを願えば、『正常』な世界がリュウジの前に現れるかもしれない。

 だが、それはリュウジにとっての話だ。

 『ここ』に居る茉莉歌やコータ、理事長、エナにとって、今の苦境は変わらない。

 ただリュウジが『ここ』から消え去ったという事実が残るだけだ。


 ではこういうのはどうだろう?

 『自分』と『茉莉歌』を平和な世界に帰してほしい、雹のいる世界に。

 そう願うのだ。茉莉歌は雹に会える。

 リュウジも、このプレッシャーから開放されるだろう。


 いや、待て。

 リュウジは混乱した。

 仮に、リュウジと茉莉歌が雹の居る世界に移動できたとして、その雹は、昼間の戦いで茉莉歌が守ろうとした雹と同じ雹なのだろうか?


 いや、待て。

 そもそも、リュウジと一緒に別世界に移動した茉莉歌が『ここ』に居る茉莉歌と同じ茉莉歌であると、どうしてリュウジが知り得るだろう。

 『ここ』にいる茉莉歌は、ただ取り残され、さらなる苦境に立たされる可能性が無いと誰に分かる?


「………………!」

これまで考えたこともない思考の迷路に迷い込み、リュウジは吐気を覚えた。


「いかんいかん!しっかりしろ俺!」


 リュウジは頭を振った。

 ある日突然、家族や親しい人間と永遠に別れなければならない。

 つらい事だ。耐えがたい事だ。

 だが、それは世界がこんな風になる前から、変わらない事じゃないか。


 茉莉歌にとって、不幸にも今日がその日だったのだ。

 これは茉莉歌が乗り越えるべき悲しみなのだ。


 それを俺は願い事でどうにかしようなんて……茉莉歌と俺だけ別の世界に行く?馬鹿!馬鹿!馬鹿!

 リュウジは、自分のアブノーマルな嗜好が願望に反映されていたことに気付き、ポカポカ自分を殴りたくなった。


「茉莉歌ちゃん!」

 昼間の戦いの後から、リュウジは初めて茉莉歌に声をかけた。


「わかったよ、おじさん……」

 茉莉歌が振り向いた。その目には涙があった。

 だが、声には気魄があった。


「ある日突然、親しい人と離れ離れにならなきゃいけない、でもこれは今までも同じだったし、願い事でどうにかすることじゃない」

 彼女はリュウジをまっすぐに見た。


「やっと気付いたの、自分が恥ずかしい……願い事で雹くんを取り返そうなんて、そんな事を考えていたの、馬鹿だった……しっかりしなくちゃ」


「え……そうなの……?いや、うん、それならいいんだけど、うん。」

 茉莉歌を叱咤しようとしていたリュウジは、彼女に言おうと思っていたことを全部先に言われてしまい、ちょっとがっかりした。

 だが、心は軽くなった。


 そして、これまで後回しにしていた問題が頭をもたげてきた。


「これを、茉莉歌に知らせるべきだろうか……」

 リュウジは6日間鳴ることのなかった携帯を手にしていた。

 携帯の液晶には、ついさっき受信したメールが表示されていた。


「新宿、十文字大学」

 メールには、ただこう記されていた。


 発信者は、彼の姉で茉莉歌の母、結衣だった。


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