おとこのままごと
翌日、多摩市に降り立ったエナは、懐かしい我が家に足を運んだ。
新宿程でないにしても、未だ怪物怪人の跋扈する多摩市の焔浄院家大邸宅。既に荒れ果て家人や使用人の姿は無く、父親もそこにはいなかった。
父さん……、やはり学園に。
エナは、自身の母校でもある聖痕十文字学園を訪れる。
そして、学園の校医でもあった母の面影を求め、保健室を探した。
だが一年前に終わった校舎の改修で、保健室はその場所を変えていた。
昼前の渡り廊下で、給食当番と思しい少女にその場所を尋ねて、ようやく保健室に至ったエナ。
だが、そこに母の痕跡はなかった。
母がペン立てに引っかけていたロケットペンダントも、今はなかった。
父と母とエナ、家族三人の写真が納まっていたのだ。
保健室を出て、トボトボと渡り廊下を歩くエナは、ふと校庭に目をやった。
……信じられない。
彼女は、眼下の校庭で展開される光景に我が目を疑った。
風林火山の軍配をかざした父親の大牙が朝礼台で何か叫んでいる。
彼の指揮の下、猟銃やパワードスーツで武装した『ギャラクシーフォース』の面々が、恐竜や巨大昆虫と戦っている。
……戦い?
死地で地獄を見たエナには、失笑すら浮かばない、ただの『遊び』だった。
わざわざ自分たちでおびき寄せた、野良犬程度の『怪獣』たちと、ただ戯れているのだ。
エナは、絶望した。
やはり父は、母や自分の事など、どうでもよかったのだ。
死の淵の母を顧みもせず、こんな所で、自警団気取りで遊んでいるなんて!
「わかった……」
エナは冷たく燃える目でつぶやいた。
ヒーローごっこがしたいのなら、もっと気の利いた相手を用意してやる!
『状況』を引っかき回す、ウザキャラも投下してやろう。
全て、今のエナには容易なことだった。




