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【5th anniversary!】アデリーン・ジ・アブソリュートゼロ  作者: SAI-X
【第13話】輝く絆とシケーダの殺しの叫び
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FILE093:蜜月の新たなおともだち


「愚か者めが! 恥を知れ!!」


「ウギャアアアア」


 ヘリックスシティの最上階に点在する玉座の間に戻ったデリンジャーは今回の失敗の責任を取らされて、怒り狂っている長駆の老人・総裁ギルモアが杖から放つビームにより制裁を受けていた。


「個人で勝手にやって失敗しただけならばまだしも、貴重な戦力を無駄にさせるとは言語道断! 貴様は当分謹慎だ。我の許可なく行動することは許さぬ」


「も、申し訳……ございません」


 土下座して、枯れそうな声で必死に謝るも、ギルモアはデリンジャーに対して更にスゴ味を利かせて下がらせる。


「ノコノコと帰ってきて、よくもフリッツを見殺しにしてくれたな……」


「ま、禍津……! うわあああああああ」


 恐怖のあまり過呼吸に陥った彼は、その先で禍津と肩がぶつかり、その禍津からもにらまれ、大声で叫んでからいずこへと逃げてしまった。デリンジャーが去ったのを見て禍津は大きくため息をつき、そこにスーツの胸元を大きくはだけた――女幹部・キュイジーネが姿を現わす。相変わらずそのバストは豊満であった。


「あら、部下はみんな手駒に過ぎないんでしょう?」


「別に。この俺の許可なく、死なれてはかなわんというだけだ。マヌケのデリンジャーは、フリッツを貸し与えてやった俺の顔にまで泥を塗りおった……!」


 ウェーブがかかった髪を手で梳かして、クスクス笑うキュイジーネの前で、禍津は歯を食いしばり拳を握って震わせると壁を殴った。


「こうしてはおれん。俺には次の策がある」


「どうぞ。お好きになさって」


 「フンッ!」と、つかみどころの無いキュイジーネに対して鼻を鳴らしてから、その後禍津が向かったのは、あるボロアパートの1室――ものが散らかりっぱなしの汚い部屋だ。壁やコルクボードにはビッシリと誰かの写った写真が貼ってあり、ほかには同様の写真が盤上に留められたダーツもあった。この部屋の住人は男性らしく、陰気な雰囲気を漂わせる彼はデスクトップに向かってただ黙々とキーボードを鳴らし、何かしていた。


「よぉ、どうした? 何をカタカタやっている?」


 その部屋に入った禍津は足の踏み場がなかったので、足元のガラクタを軽く蹴って陰気な男に近寄る。すると薄気味悪く、邪悪に微笑んで耳元でささやき出した。


「怨みを晴らしたいんだろう。お前を捨てた女に復讐したいんだったよなァ? 俺が与えてやった力があっただろう、それを使え」


「そうさせてもらうよ……」


 禍津から力をもらったと言う男は引き出しにあったビリジアンに光るジーンスフィアを取り出す。


「サボサボサンボーッ!!」


 それをねじった男はモヤに包まれて叫び声をあげると――サボテンのような怪人の姿へと変身したのだ。


「あのアマァァァァ! よくもオレを裏切ったなァァァァァ! 許さねえぞオオオオオ!!」


 猛り狂うサボテン怪人を見て、禍津は悦に浸った。それは、彼を裏で操れば面白いことになりそうだと、そう確信を持っていたからに他ならない。


「フハハハハッ! そうだ! 怒れ怒れ、もっと怒って怨むのだァ! お前のそのドス黒い怨みの感情、利用させてもらうぜ……!?」


 サボテン怪人・【カクタスガイスト】と化した男は、全身から生えたトゲのうちの1本をダーツの的に飛ばして、ピン留めしてあった写真を射止める。カクタスガイストに変身した男の部屋に飾ってある写真に載っていたのは、赤い長髪で前髪はワンレングス、紫の瞳を持った女性。浦和家の長女にして浦和竜平の姉、浦和綾女だった。



 ◆◆



 禍津が次なる企みを実行に移さんとしていたとは知る由もなく、アデリーンたちは喫茶バー『サファリ』でティータイムを過ごしている最中だ。もちろん、竜平の姉の綾女と母親の小百合、葵の母の春子には事情を話してあり、さらわれた彼と彼女を助けたことを伝えてお礼の言葉も告げられた。大人2人はコーヒーとパンケーキを注文し、葵も注文したカフェラテにウサギのラテアートまで描いてもらい「かわいい」と喜んでいた。しかし……竜平は、コーヒーが飲めないわけではなかったのだが、苦すぎるとさすがに無理だとのことであったため、気を利かせたアデリーンが「まずは苦くないやつから慣らしていこう」と、苦さ控えめのものをわざわざメロニーに淹れてもらっていた。また、カレーライスも注文しており、辛すぎず甘すぎないその絶妙なバランスに感動を覚えたという。


「それにしても、おトラ……虎姫社長に聞きそびれちゃったなー。ワタシとアデレードのおっぱいが光った件」


「えーっ! そんなことがあったんですか!」


「なんでもね、熱海の『こよみ屋』で寝たときにミヅキが見たらしいのよ。私とミヅキがまるで共鳴しているみたいな感じだったとか……。まー、私はその時爆睡しちゃってたんだけどね」


「そういうことだったんですね。不思議なこともあるもんだー」


 今回はカウンター席ではなく、4人で座れる席に座っており、アデリーンと蜜月は隣同士、葵と竜平も隣同士という組み合わせだった。が、その葵は竜平を差し置いて、ガールズトークに花を咲かせている。


「お胸の話は置いといて。サキ先生からセミマル先生の命に別状は無いって聞いた時はホッとしたわ」


「各務先生じゃなくても治せた気はするが、でも一番信頼できるお医者さんはあの人だからね~」


 サキ先生――とは、北関東の地方病院から東京の病院へと転勤したスーパードクター・各務彩姫の愛称である。彼女は偶然にもテイラーグループが経営する病院に居合わせており、それで駆け込んできた油田蝉丸への適切な対応を行ない、彼女なりの方法で彼を救ったのだ。もちろん、柳沢たちからのツテで以前から彼を知る竜平と葵も、その報せを聞いて心から安堵した。


「楽しそうだねーッ」


 そこに別の席で飲んでいた、黒髪にお団子ヘア、服装はチャイニーズ衣装の女性がにやけてやってくる。


「ムーニャンさん」


「学生さんははじめまして、アデリーンは改めましてこんにちは。ウチは情報通のムーニャンだよ」


 邪魔をしない程度にテーブルの上に手を置いてから、ムーニャンは名を名乗る。竜平と葵は一礼し、既に面識のあるアデリーンと蜜月はとりあえず手を挙げた。


「こいつ、秘密は墓の下まで持ってく主義らしいけどぉ、とにかく口が軽いかんね~。お気をつけあそばせ」


「つれないこと言わないでよー。少なくともあなたたちのプライバシーを漏らしちゃうようなことはしない」


「ホントかな~? あんたはベロがよく回るからね」


 ムーニャンの人柄をよく知っていた蜜月は、少し意地悪するような物言いをする。2人の仲がうかがえるやり取りを見て、アデリーンと竜平と葵は笑うが、これは嘲笑などではなく微笑ましかったからだ。


「ミヅキってひねくれもんだし、口が悪けりゃ態度も悪いし大変っしょ? でも悪い人ではないし、支えてあげてネ」


「そうかな? でも実際……」


 ムーニャンと話している途中で、アデリーンは蜜月の顔を少し見てから、再びムーニャンに振り向く。


「優しい人だもんね」


「な……何をゆーとるか、こいつーッ」


 シャクだった蜜月は、アデリーンの頭をグリグリする。くすぐったいのでアデリーンは笑ったし、竜平と葵もつられて笑った。クスクス笑って、ムーニャンは腕を組む。カウンターにいるメロニーのところまで行ってから、どこか感慨深そうな目でアデリーンら4人を見つめた。


「ミヅキにこんなに新しい友達ができて、ウチも鼻が高いよ……」


 そこに、アデリーンがカウンター付近のドリンクバーまで水を入れにきた。席に戻る前に、緑のロングヘアーを結って後ろでまとめ、豊満すぎる体のメロニーのほうを向く。メロニーも微笑みを返した。


「アデリーンさんみたいな愉快で優しい人が蜜月のお友達になってくれて、私もムーニャンちゃんも嬉しいの。ありがとうね」


「いやいや、そんな大したことじゃないですよ。そんなに面白い人に見えるかな……」


「うふふ」


「なんですか、もうっ。ふふふ」


 それから夕方になるまで、喫茶バーでの楽しい時間は続いた。

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