FILE083:どくどくフグ怪人の目的は?
語気を強くして息巻いていたパッファーガイストは両腕を大きく振り回して暴れる――が、実力と戦闘の経験で上回るアデリーンと蜜月には到底及ばず、最初はまあまあ効いていた攻撃は2人にはほとんど弾かれ、追い込むつもりが逆に追い込まれて、パッファーは逃げ出す。逃げた先は、地下道に続く階段の手前。
「逃げるな卑怯者ッ!」
蜜月からキルショットヴァイザーでの銃撃を受けたパッファーは言い返す間もなく、そのまま追撃を受ける。やはり戦い慣れていないのか、回避や防御の際の身動きがなっておらず、あるいはアデリーンが感じたようにそもそも年老いているのか……と、戦う中で推測し、敵の顔面を蹴り上げてから回避。そこに、アデリーンが光線銃・ブリザラスターを取り出してアイスビームを撃ち込み、凍らせる。すかさず急接近して同時にキックを叩き込んで、氷を砕くと同時にパッファーガイストを港のコンテナターミナルのほうまで吹っ飛ばした。無数のコンテナが積み上げられ、見上げるほど高いクレーンが立ち並び、潮風が吹き、波が押し寄せるそこで、2人はパッファーガイストと決着をつけるつもりである。
「サーシー……と、年寄りをいたわらんかい」
「……問答無用!」
彼女はパッファーを許さなかった。アデリーンと連携をとって徒手空拳と射撃を格闘ゲームやアクションゲームのコンボ技のようにつなぎ、反撃の狼煙を上げれば即座に反応して潰しにかかる。
「さ、サーシー! 娘っ子があ、こうなったら、ブロウフィッシャーアパッチ発射ぁ!!」
「ふ、フグなのかハリセンボンなのかどっちだ!?」
いったい、どんな欲望がこの怪人をそうさせるのか。パッファーはとうとう両腕に付属した魚雷をミサイルのように撃ち出す。見てから回避した2人のヒーローに対し、パッファーは奇声を上げ、両肩を展開させて発射口を開くと、同様の魚雷を射出して追撃する。いずれも、コンテナに穴が開くほどの破壊力と熱量だった。あの強化テトロドトキシンに加えてこれほどの武力も持っていたならば、下すべき判断は1つしかない。
「やるしかない! ブリザードエッジ!」
「サーシーッ!?」
アデリーンは、専用バイクの右ハンドルから変形するブリザードエッジのみをその手に召喚して握ると、パッファーガイストへと斬りかかって瞬間的に凍結させる。その前に背中の赤紫色の羽を展開して空へと飛びあがっていた蜜月はその手にKSヴァイザーを握り、凍って動けないパッファーガイストめがけて降下しつつ弾丸を連射する。彼女のその銃は実弾とビームの撃ち分けが可能である。
「デストロイドバレッジ……」
「サァーシィ――――ッ」
空高くからの弾丸の嵐がパッファーを襲い、貫く。いともたやすくぶっ飛ばすと、その先でパッファーガイストは野望を果たす前に爆発四散。オレンジ色に光るトラフグの紋章入りのジーンスフィアも砕け散った。2人もそれに合わせて変身を解除し、倒れた敵を問い詰める前にまず一呼吸する。蜜月に至っては、既にカードに敵の罪状を記す準備までしていたのである。
「は、はが……おのれ娘っこども……」
まだ、爆発の残り火が燃えている中でパッファーガイストに変身していた男が倒れていた。警戒したうえで近寄った2人は男の顔を見て、記憶の糸をたぐり寄せんとする。どこかで見た覚えがあったためだ。2人とも難しい顔をして少し考えたが、答えを導き出すのはアデリーンのほうが早かった。
「この人、ガイドブックに載ってた……『福ノ湯』の社長さんだわ」
「ふ~ん、道理で見覚えがあったわけだねえ。それじゃ、なんであんなことしたのか――。詳しくお聞かせ願えますか」
おびえている福ノ湯社長をつかんで起こして、蜜月はその顔を覗き込んでにらみつける。福ノ湯社長を務めている彼は、恰幅のいい体型とは裏腹に人生に疲れてくたびれたような生気のない顔をしていた。
「福田銀之丞さん」
「し、知らん。ワシは何も知らん」
パッファーガイストの変身者だった福田銀之丞は、蜜月から問われても答えずに逃げようとする。すると、呆れた顔をしたアデリーンもが彼に目線を合わせてしゃがみ込み、蜜月の邪魔にはならないようにそっと手を差し伸べた。
「現実から目を背けないで。ご自分の非を認めてください」
「く、くそう、そもそもせがれのユキトが経営に失敗してばかりだったのが悪いんじゃ。あやつが不甲斐なかったせいだ。笑美さんのようなべっぴんさんを嫁にもらっておいて……。ワシの福ノ湯は近年、長きにわたって競い合って来た『こよみ屋』にはどうやっても勝てずにいた。あの手あの手を講じたが、結局実を結ばず、万策尽きていたところじゃった。どうしてもこよみ屋に勝ちたかったワシは、ヘリックスという悪魔に魂を売ったのじゃよ……!」
「………………それで……………」
何か言おうとしたが、蜜月はぐっと声を押し殺す。下手に銀之丞を刺激すれば動機や事件の真相を最後まで聞き出せないからだ。アデリーンも同じだった。
「誰から買ったのです?」
「赤っぽい衣装のやつと、なんだか頼りなさそうなヒョロヒョロの若い男じゃったか……」
おそらく、福田銀之丞にジーンスフィアを売って、凶行に走らせたのは禍津とドリュー・デリンジャーの2人だろう。アデリーンはそう確信する。
「グヒ、グヒヒヒヒ! そんなことより! ワシがよその風呂屋や旅館に入れてやった毒はな、テトロドトキシンとは別物で死には至らんが、ワシがやられん限りかかった相手はずっと苦しむことになっとったんだ。そうやって、福ノ湯以外の評判を下げて客を遠ざけて、福ノ湯にだけ客をドンドコ呼び込むようにする手筈だったんじゃい! だのに、お前らが邪魔しおったせいでワシの面目は丸つぶれ!」
「はあ…………残念です、福田さん」
ほぼほぼ一方的に動機を語った銀之丞の身勝手さに呆れて、蜜月はため息を吐く。
「なんだ貴様ァ! ワシが間違っておったとでも言いたいのかえ、このトンチキがッ!! 元はと言えば、ワシのドラ息子が情けなかったせいじゃぞ! じゃからワシがこうやって――……」
「私も彼女と同意見です、ギンノジョーさん。『こよみ屋』さんに勝つことにばかりこだわりすぎたあまり、あなた個人の欲求や自分勝手なプライドよりも、もっと大事なものを見落としておられたのではないですか?」
「……ハッ!?」
心を痛めた表情のアデリーンから指摘されて、ようやく、この福田銀之丞という男は、どす黒い欲求に囚われて忘れていた大事なものを思い出す。そして、彼は頭を抱えてわめき散らし、涙を流して震えた。
「そうだよね~。お客様をおもてなしするお仕事してる人が、それを忘れちゃダメでしょうよ。よくぞ言ってくれた、アデレード」
「いやそれほどでも」
ヨイショされても否定したアデリーンと微笑み合いながらも、蜜月はハチと月のマークが入った黄色と黒のカードに白い文字で福田の犯した罪をしっかりと記して、そのカードを精密かつ正確に投げつけて黙らせた。
【この者、大量殺人未遂・営業妨害犯!】




