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【5th anniversary!】アデリーン・ジ・アブソリュートゼロ  作者: SAI-X
【第12話】おんな2人旅湯煙道中
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FILE079:おいでませ朝潮区!


 ここは温泉で知られる熱海市。その中の一角に彼女たちは旅行に訪れていた。


「来たぞ! 来ました! 熱海市は『朝潮区』ッッッッ!!」


 髪をくくり、伊達メガネをかけ、左手に旅行カバンを持った蜜月が右拳を上げていい笑顔でシャウトする。頭にはキャスケット帽を被って、服はバンギャル風の上着とボーダーシャツを着て、下はダメージジーンズ、靴はグレーのエンジニアブーツというコーデであり、難なく着こなしていた。


「せっかくだもの。いっぱい! 遊んで行きましょうね!」


 雪の結晶のピンバッジ付きの青いストローハットを被ったアデリーンは、いつになく楽しげだ。白い花柄ワンピースを着て、その下は青いジーンズを穿いている。靴はローファーだった。彼女なりに動きやすさときれいさを追求した結果であるが、やはりたわわに実った果実が見る人の目を引く。しかし当然の帰結だ。やはり旅行用にスーツケースを持ってきていた。


「へっへっへー、こっからはバイクなしだよ。お酒もいーっぱい飲んでみたいからさ」


「悪い大人ねーッ。けど、飲酒運転しないだけマシよね。それで、どうする? 早速温泉巡りしちゃう?」


「足湯にオーシャンビューに、温泉まんじゅうにフルーツ牛乳、卓球……その辺も捨てがたいね」


「それで、水着は持って来た?」


「はっはっはっ、海開きにはまだ早い……!?」


 アデリーンと一緒にスーツケースを引きずって、歩きながらこの後の予定について話し合っていた時のことである。蜜月の脳裏に閃光がよぎったのだが、これは『何か』を察した証拠。


「そんなこともあろうかと持参させていただいた」


「お~。柄は?」


「ひ・み・つ。あんたのもそうだろう」


「……need not to know,つまり知る必要のないこと」


 2人がその話題をしていたのは海辺で、港や灯台などを一望していた時のことだった。良さそうな温泉や店がないか、そのままウォーキングを続行する。例によってビジュアルが良すぎたため、この朝潮(あさしお)区に到着してからずっと道行く人々の注目を集めてしまっていたが、逐一気にしているとキリが無いので――そのうち気にしなくなった。というわけでもなかった。途中ナンパもされたが、蜜月が彼氏面をしたり、「やめとけ! やめとけ! ワタシらは付き合いが悪いんだ」と、とぼけたりするなどして、その都度やり過ごした。


「か~~っ! さすが熱海! さすが朝潮!!」


 実はノープランだった2人は近くの足湯へ。小さかろうと湯船は湯船、浸かれば足から全身へとほどよい熱さが伝わって――。


「あんたも、足湯ははじめてじゃないんだろう」


「まあ、ね? 結構いいものよね」


 談笑し合ってしばらくしてから、展望台で海や温泉街ならではの景色をバックに写真を撮影――したかと思えば、今度は土産屋へ。思い出の品とするため、観光地特有のメダルも作ってみたりもしていた。この昭和風のノスタルジックでレトロな街並みがたまらなく愛おしかったのだ、とくにアデリーンにとっては。


「スマホを落とさないように~……ハイ、チーズ」


 土産物を少し買って行ってから、アデリーンと蜜月は橋の上でまた自撮り写真を撮影。もちろん、通りすがる人々に迷惑がかからないようにだ。写り具合はバッチリだった。


「後ろに天狗も幽霊も写ってないな……よし!」


 撮影者は蜜月である。少し口角を上げてニヤリと笑い、石畳の道を歩いて行く。2人は山のほうにも少しだけ行ってみたが、ここから見下ろした景色も最高だったようで、感銘を受けていた。神社にもお参りして祈りを捧げ、その付近も散策して、大自然の中で澄んだ空気をたくさん浴びて、たくさん吸ってから――下山した2人が次に向かったのは、海の近くにある露天風呂である。


「おっふろ♪ おっふろ♪」


「あとで牛乳飲もうねぇ! ぐびぐびとな……」


 更衣室での一幕。もちろん脱いだものや外したものはすべてカゴの中にちゃんと入れて、場所もしっかり覚えてから、ガラス戸を開けて待望の露天風呂へ入った。まだ時間は早いが、それだけの価値はあると断言できるほどの心地良さが待っていた。


「う――ん――♪」


 シャワーも隣同士になって体を洗っているアデリーンと蜜月だった、が――。蜜月はついに見てしまった。澄み渡る青空が透き通った湯船や、きれいに磨かれた床に反射して映し出された大浴場で、バディを組んでいる金髪碧眼で色白な彼女の、一糸まとわぬ姿を。湯煙が薄霧のようにモクモク立ち込めている中でもはっきりとわかる。


「なんと豊満なのだろう。彼女は女神にでもなったつもりなのだろうか」


「ミヅキ、それ以上はイケない」


「んにゃ。ワタシはイケてる」


 色ボケした直後、ミヅキは風呂桶で前をガードしたアデリーンから冷たいシャワーを浴びせられて、「きゃあ~~~~」と悲鳴を上げた。


「ミヅキ・ハチスカはドザえもんと化した」


「溺れてねーわ!」


 何事もなくアデリーンは、シャワーをお湯に戻して髪の毛を丁寧に洗う。なにぶん長いので手入れは大変だが、文句は言っていられない身分だ。


「じゃ、私先に浸かってるわね」


「え……ちょっと! ワタシを置いてかないで!」


 頭も体も洗えたので、2人は風呂桶とタオルを持つと段差に気を付けて移動して、露天風呂と対面する。近くで見るとますます透明で、より美しく感じた。たった今からこの美しい露天風呂に浸かって、美しい空と海を眺めるのだ。筆舌にしがたい極上の快楽がそこにある。


入渠(にゅうきょ)……」


 足のつま先から、ゆっくりと。まずはアデリーンが湯船に浸かって、先客の邪魔にならない位置へと移動する。蜜月も髪をまとめて頭にタオルを巻いてからついて行き、定位置であるアデリーンの隣にぴったりとくっついた。当たり前だが女湯なので、先ほどからずっと――ほかの女性たちからの注目を独占していた。美しすぎるのも問題である。


「はっはっはっ。ワタシたち人気者だねっ」


「なーに、しばらくすれば熱も冷めるわ。ところでどこにお泊りする?」


「え? テイラーグループがあらかじめ押さえてくれてたんじゃ? まあいいや。水着持って来たし、スパのあるところがいいな」


「いいわね。スパなら温水プールも温泉もついてるから……お得よね。ふふふふ」


 恐ろしいことに、ノープランの旅行かつ朝潮区まではワープドライブ機能を使って来たゆえ、どこで宿泊するかはまだ決めていなかった。しかしこの街は温泉街であり、寝泊まり自体には困らない。アデリーンも蜜月もその点ではまだまだ余裕だ。後者にとってはそれよりも大事なことがある。それは――。


「でっけーなー……。生で見たのははじめてだが、ワタシの顔どころか肩幅よりでかい……。ぜひ、ご利益にあずかりたいものだ」


「そういうミヅキこそ、そこそこ大きいし、太ももムチムチじゃない。私もなんだけどね」


 アデリーンとどれだけ一緒に温泉を楽しめるか、それが最も大事だったのだ。けれども今はアデリーンから漂う色気に夢中だった。ミツバチが甘い花の蜜を探し、あるいは、甘い蜜におびき寄せられるように。


「うぇへ……、うぇへぇへぇへぇへぇ~~ふぅ~~あぁ~~へへへへへへへへはっはっはぁ~~~~」


「やだ、もー。ミヅキってば!」


 今まで生きてきた中で最も危険な笑い声を上げ、目を光らせながらアデリーンの山を登ろうとしたその時、ささやかな抵抗として蜜月の顔面にお湯がかけられた。恥じらう顔もまたかわいらしい……と、蜜月はそう思いたかったのだが、それどころではなく。


「アッチィィィィィィィィィ」


 蜜月は慌てて湯船を飛び出し、顔面を水で冷やしてから、転ばないように湯船へと戻ってもう一度浸かった。


「す、すまない。つい出来心で。それにアデレードめっちゃきれいだしさ……」


「あなたねー、羽目外しすぎ。温泉巡りするために来たんでしょう? だったらセーブしながらじゃないと、このあと体がもたないんじゃない?」


 頭をかきながら謝罪した蜜月はもっと怒られることを覚悟していたが、返ってきたのは意外とやんわりしたお叱りだった。アデリーンの優しさに感謝して抱き着こうとしたが、拒否されて、「ですよね~~~~」と、落胆した。そして、温泉から上がった。


「プハーッ!」


「やっぱり、とてもいいものね。風呂上がりの牛乳……」


 体を拭いて、服を着てからドライヤーで髪を乾かして、まだ熱も冷めやらぬ中、2人はビン牛乳を買って豪快に飲む。日本においての昔からの伝統だ。銭湯だろうと温泉だろうと関係ない。外に出た際には露店でみたらし団子や3色団子を買って味わい、その次には『甘味処』と書かれた和風カフェに立ち寄って和菓子とコーヒーを写真に撮ってから味わう。せっかくなのでグルメも楽しんで行こうというわけだ。


「着いたな」


「ここよ。大浴場どころか、足湯に温水プールまでついてる、和風のスパリゾートホテル……」


 そして、2人が今夜宿泊する宿は見つかった――。


「その名も『こよみ屋』」

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