FILE078:守る責任
「……嫌な予感ッ!」
瞬間的に何か、感じ取ったアデリーンはブルドッグガイストの攻撃をかわしてその背後へ回り込む。蜜月も察したのか、敵が振り回してきたチェーン付き首輪を手刀で弾き返してアデリーンに同行する。2人とも怒ったブルドッグに腕で薙ぎ払われたが、少しかするだけで済んだ。
「何かあったのか!?」
「彼の首輪が露骨に怪しいのよ……。いかにも何かキケンなものを内蔵してます、って言わんばかりにね」
いきり立ち、またも地団駄を踏んでいるブルドッグガイストを、2人は冷静に観察。首輪の後ろで点滅しているランプが怪しい。そうにらんだ2人は即興で立てた作戦を実行に移す――。
「貴様ら、何をゴチャゴチャ言っとるか」
「動くな、犬養のおっさん。死にたくないならな」
苛立っているブルドッグガイストの首輪投げ攻撃を縫うようにかいくぐって、蜜月は装甲で覆われた敵のボディをスキャニングして、隙間が無いかを分析する。――あった。なので、彼女は金と黒を基調とした短剣『ハニースイートダガー改』を取り出して急接近。
「食らえ!」
「ブルスコぉおおおお」
脇腹のわずかな隙間にHSダガー改を突き立て、火花を散らしながら毒を注入。敵が死なない程度に加減した上で、だ。次に蜜月はHSダガー改で連続斬り、連続突きを繰り出して敵をダウンさせ、その隙にアデリーンが光線銃をホルスターに挿して、両手から強力な冷気を発し首輪だけを凍結させた。ブルドッグガイストは、猛毒と凍てつくような寒さを同時に食らって著しいダメージを受けたので動けない!
「フッ! こうして、イィィィヤアアアアアアア――――ッ!!」
ブルドッグがスタンして悶え苦しんでいる間に、アデリーンはランプのついた首輪をチョップで叩いて外し、空高く放り投げる。一瞬だけ空を覆うほどの爆発が起き、黒煙が広がって霧散していく。アデリーンも蜜月もブルドッグも、これには呆気に取られてしまった。
「危なかったわね。あなたは知らない間にスティーヴン・ジョーンズから爆弾を持たされ、特攻させられるところだった」
「――……まー、つまりぃ~、こういうこったね。結局あんたは、その程度にしか思われてなかったわけ」
アデリーンと蜜月の口から、信じがたい事実を立て続けに聞かされて、ブルドッグガイストは頭を抱えけたたましい叫び声を上げた。そして地面を踏みしめて地響きを起こし、自分の周囲に亀裂を走らせる。
「く、クソ……謀ったな……ジョーンズ……! おのれ、貴様らだけでもぶち殺してくれるゥ」
完全に後がなくなったブルドッグが、勢いよくチェーン付きの首輪を振り回して辺りを薙ぎ払う――。急な攻撃だったためアデリーンと蜜月は回避が間に合わない。そのままダメージを受けて転倒させられた。
「ヤバいわよ。相手はやけっぱちになったあまり火力が格段に向上しているわ」
「となったら、短期決戦を挑むしかない……」
もはやダラダラと戦う必要は皆無と彼女たちは判断した。奥の手として、アデリーンはその手に専用マシンの右ハンドルだけを召喚し、ブリザードエッジへと変形させて構えを取る。蜜月は『スレイヤーブレード』を両手にしっかりと握って、ブルドッグガイストへと向けた。
「バカか貴様ら! そんなナマクラでオレ様の装甲を貫けるとで、も……!?」
「へっへっへっへっ、それはどうかなッ! スティンガーアナイアレートッ!!」
両手持ちで繰り出された、紫色と金色に輝く破壊エネルギーをまとう蜜月の全身全霊の必殺剣がブルドッグガイストのボディを大きくド派手に切り裂いた。火花が血しぶきの代わりに弾け飛び、毒もまわって身動きが取れない。
「あとは任せた!」
「オッケー! これで終わらせる! アヴァランチ――……ダウンバースト!!」
青い閃光となって駆けたアデリーンが蜜月と交代してブルドッグガイストをブリザードエッジで斬り上げて、空高くジャンプしてから急降下。着地した地点を中心に爆発を起こして周囲に地中から巨大なツララを発生させてブルドッグガイストを突き刺し、爆発四散させた! 炎上し、砕けた氷が光り輝いて宙を舞う中で、怪人の姿から戻った犬養が青アザのできた顔でうめき声を上げて横たわり、その近くでブルドッグのジーンスフィアの破片が散らばった。2人で変身解除するとアデリーンはそれを回収し、少しだけ犬養に憐れみを見せてから蜜月のそばに寄る。一仕事終えたので、その場で一息ついた。
「お、オレは上級国民様なんだぞぉ。税金だってお前らより高く払ってたんだああああ……」
「水でも被って反省しなさい。お縄にもついてもらうからね」
黄金色のロングヘアーを梳かした隣で蜜月が金色と黒のカードに犬養の罪状を記して投げつけ、彼を気絶させる。やりたい放題、他者を踏みにじり、暴利をむさぼって来た男のあっけなくもみじめな末路である。
「守れなかった人たちのためにも、ワタシたちはお前たちのような悪党どもをやっつけて、【守る責任】を果たす」
【この者、大量破壊・大量虐殺・汚職・恐喝殺人犯!】
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
犬養が逮捕されてニュース番組はその話題で持ちきりとなって新聞紙でも一面を飾り、ヘリックスもアデリーンと蜜月から手痛い反撃を食らうリスクを恐れて江村家を狙うことをあきらめたため、事件は解決してすべてが収束した。それからというもの、2人のヒーローは――江村家からお礼として神奈川県内の遊園地に誘われて、束の間の休息をエンジョイしていたのである。思い思いによそ行きの服装を着て、準備バッチリだった。
「私たちがめちゃくちゃ頑張ったから、悪い活動家のおじさんも捕まって、めでたし、めでたし……ってね。メイちゃん、誘ってくれてありがとう」
園内のベンチにて、すぐ近くの売店で買ったいちごミックス味のソフトクリームを少しずつ食べながら、アデリーンは芽依と仲良くおしゃべりしていた。芽依を挟んで左側で蜜月も座っており、彼女も同じくいちごミックス味をおいしそうに食べており、その表情といったら至福そのもの。なお、江村夫婦はアデリーンと蜜月を信頼して芽依を託し、ジェットコースターに乗っていた最中だ。
「どういたしましてー。ここに来たのは、芽依と、パパとママからのささやかなお礼代わりだから、遠慮しないで受け取ってね」
「そうさせてもらっちゃお~っと♪」
「こないだアデリーンお姉さんの分身さんとも一緒にここに来て、守ってもらってたんだよ」
「そう言えばさっき、アイシングドールがそんなこと言ってたわね。ケガとかしなかった?」
「だいじょーぶいッ」
「そっか、それはよかった! 私もお鼻を高ーくしちゃうわ!」
「ね~ね~、芽依ちゃん。パパとママ戻ってきたら、次どこで遊ぼっか? メリーゴーランドでお馬さんに乗る? コーヒーカップ? それとも、観覧車でお姉さんたちと一緒になっちゃう?」
満面の笑みを浮かべている芽依を見てここぞと言わんばかりに、蜜月はニコニコ笑顔で芽依に訊ねてみた。もっともっと彼女を喜ばせたいからであり、アデリーンはそんな蜜月の姿を暖かい目で見守り――ながら、ソフトクリームを堪能していた。芽依も芽依で芽依なりに考えたかわいらしくもおしゃれなコーデを着てキメてきており、2人にはそんな彼女が天使のように見えていた。決して大げさではない、ココ重要。
「うーんとね、パパとママと一緒に乗れそうなのが良いなー。ジェットコースターは、芽依にはまだ早かったから何がいいかな。うーんと、うーんと」
「じゃあ、絶叫マシンどう?」
「芽依ちゃんそれとお化け屋敷はダメなの。NGなの」
「そっかー。急流すべりも?」
「アデリーンお姉さん、芽依それなら大丈夫!」
「よかったー!」
「おっしゃ。じゃ、その次は何する?」
「さっきミヅキお姉さんが言ってたコーヒーカップにするー! 芽依がパパとママと一緒に乗って、お姉さんたちはお姉さんたちで一緒になって乗ったらいいんじゃないかな」
「絶叫マシンのほうじゃなくてか。けど、そ……そんなに気を使ってもらえるなんて。ミヅキお姉さん、すっっっっっっごく嬉しい! ありがとね!!」
そんな風に、3人で同じフレーバーのソフトクリームを味わいながらガールズトークを楽しんでいた時である。この遊園地名物の超高速・恐怖のジェットコースターから芽依の父・達哉と芽依の母・靖子が戻って来た。
「お待たせしました。さ、芽依。どこ行こっか」
「チームあーっぷ!」
アデリーンと芽依と蜜月がソフトクリームを食べ終わって後片付けを済ませるのを待ってから、達哉は芽依に近寄って、アデリーンと蜜月にも助けてもらいながら彼女をおんぶする。背負ったほうも、手伝ったほうも、見守っていたほうも、自然と笑顔になれた。
「さっきお姉さんたちと相談して決めてたんだよねー! コーヒーカップとか急流すべりとか、みんなで乗れそうなの!」
「それいいわね、芽依! アデリーンさんたちもどうぞご一緒に……」
「「はい♪」」
その後、夕方まで、アデリーンと蜜月は江村ファミリーとたっぷり遊んで、遊園地を満喫した。




