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【5th anniversary!】アデリーン・ジ・アブソリュートゼロ  作者: SAI-X
【第11話】怪獣ブルドッグが大暴れ!
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FILE075:タイミングが命


 その頃、アデリーンは浦和家を訪れていた。江村(こうむら)家や北関東在住の赤楚(あかそ)家をはじめとするヘリックスの悪事の被害者たちやテイラーグループと共同でヘリックスの存在を世間に公表し、表向きは真っ当な企業であるエイドロン社が裏でやっていた悪魔の所業の数々に関する暴露を行なった件で話がしたかったためである。竜平が葵を連れ込んで、実姉の綾女のレクチャーのもとに勉強会をしていた最中だったが、ちょうど休憩中ということで暖かく出迎えられた。なお、一家の母である小百合は台所で食器洗いをしていた。


「アデリンさんも、蜜月さんも、ずいぶん思いきったことしたんだね」


「敵が聞いてもいないことを自分からベラベラしゃべってくれちゃったんです。またとない機会でしたから、やるなら今しかない……と思って。ただ、余計な混乱は避けたいという思いもありました」


 部屋着とその上にカーディガンを着た綾女と、赤いタートルネックのセーターを着たアデリーンが話し合っている。後者はボディラインが強調されていたため、竜平には少し刺激的すぎた。――なので、すぐ隣の葵から耳を引っ張られる形で制裁を受け、痛い目を見ていたところだ。


「あれからもう、衣食住全部、俺んちはエイドロンの商品なんて買ってないよー。これから本格的に! 不買運動しなきゃだな……」


「案外たくましいというか、柔軟みたい。エイドロン社製は日常に浸透してしまってるから、てっきり右往左往するってばかり」


 自分や蜜月が危惧していたことは、案外、取り越し苦労だったのかもしれない。あれだけのことをやってしまった後なのに――。戸惑いや驚きがなかったわけではないが、いつもと変わらず過ごしている浦和家の面々や葵の姿を見て、アデリーンは安堵の息を吐く。


「心配いらないですよアデリーンさん。メイド・イン・エイドロンだけが生活のすべてじゃないし、何よりわたしたちには適応力って言うのがあるもん」


 大きな胸を張って、葵がドヤ顔でそう告げた。自身に満ち溢れていて何よりだ、と、アデリーンは思い、微笑んでから彼女を抱きしめた。――竜平のすぐそばである。突然葵を奪われたように錯覚したか、彼はテンパって後ろに引いた。


「そう言えば蜜月さんは来るの?」


「「探し物があるから、あんた先に行ってて」……とは言ってましたけどー、遅いわね」


 綾女からの質問に答えたアデリーンが腕時計を見る。浦和家にお邪魔させてもらってから結構な時間が経過していたが、アデリーンはとくに気にしてはいない。交流する時間を作れたことが幸福だったからである。


「おやつどうぞ。こんな世の中だから、あたしらがしっかりしないとね」


 そこで、食器を洗い終えた小百合がおぼんに茶菓子を載せてやってくる。綱あられと、人数分のお茶だ。早速綱あられを1枚拝借したアデリーンは、周りが怪訝な目をして見ている中でじっくりと味わってかじる。すぐに綾女たちもお茶と共に綱あられを味わった。


「エイドロンが売り出したエネルギーも買わないんですよね?」


「まあそうなるわね。紅一郎さんを殺したヘリックスとズブズブの関係だったんじゃあね……。それにほかにも会社がたくさんあるし」


「それもそうですよね。サユリ母さん」


 皆でお茶とお菓子を味わいながら、アデリーンは小百合と語らう。この調子ならば悪徳商法などにも引っかからなそうではあったが――。


「誰かしらねぇ……」


 そんな時、インターホンの音が鳴った。気になった小百合がモニターを確認しに行くと、そこには手提げバッグを片手に疲弊した様子の蜜月が映されていた。


「アデリーンちゃん、蜜月ちゃん来たみたいよ」


「え? ……はい!」


 一瞬だけとぼけたが、すぐさまアデリーンは玄関に駆けつけてドアを開く。中に入ると蜜月は靴を脱いで上がり、若干大げさに呼吸を荒くして、バッグを持ったまま床に突っ伏す。


「ミヅキさん!?」


「ダァ~メだったぁ~~! 犬養権二郎の住所を探ってみたけど、全部デタラメ。戸籍から何から何まで偽装されてたんだわ……。おーいおいおいおいおい」


「だ、大丈夫? おっぱい揉む?」


「綾さん、それコンプライアンス的によくないと思われ……う、うう~~~~」


「ほら、元気出してくださいよ。あられあげますから……」


「あとでいい。うっ、くひっ……うっっっ……」


(ど、どうしろって言うの)


 オーバーリアクションとともに蜜月は調査報告をこの場に居合わせている全員に行なった。葵や綾女に慰めてもらっていた彼女だが、竜平が手を差し伸べようとすると「あっち行ってろッ!」と、雑に払い除けており、拒否された竜平はショックのあまり、「あァァァんまりだァァアァ――――ッッッッッ!!」と絶叫して落胆する。――どうしようもなかったので、彼は哀れにもそのまま放っておかれた。


「古くからの友達に頼ってまで探したって言うのに……。ごめんよ、アデレードの役に立ちたかったんだけどさ」


「いいのよ。その気持ちだけでも嬉しいから」


 「ぴえん……」と、涙ぐみながら語った蜜月を、とうとうアデリーンまでもが励ました。涙を拭いた直後、蜜月は――沈んでいたはずなのに、口元を緩める。


「でも……な~~~~~~~~~んにも、収穫がなかったわけじゃあないんよ」


「何よそれ、ウソ泣きだったの。慰めて損した! 私たちの優しさ返してよ!」


「ショック受けてたのは本当だ!」


 いつもの調子に戻ってにやけた彼女だが、アデリーンからの抗議も受けてバツが悪そうになったところでカバンから何かを出してアデリーンに渡す。その何かを見て、周りで騒然としていた綾女たちも自分を落ち着かせた。


「偽の住所で待ち伏せしてた犬養の部下をシメたらあっさりと情報を吐きやがったから、それをメモしてきたの。なんでも、常日頃からあんな感じで性格悪すぎて、部下のほとんどに逃げられて、そいつだけが嫌々仕方なく従ってたみたい」


「このメモによれば国外逃亡しようとしてて、その前にヘリックスが所有する秘密基地で何かを……?」


「しっかし住所も偽装してた辺り、それだけワタシらに情報を暴露されたのを根に持ってたってわけね~……。罠かもしんないけどあの上級国民をとっちめるチャンスだ」


 しかし、敵の所在がわかったからといって、無策で突っ込んでいいわけではない。いったいどうするべきか――。それをアデリーンたちは思案する必要があった。


「竜平っち、葵たん、綾さん、小百合さん、皆さんも、あの犬養さんには直接嫌がらせはされなくとも、散々嫌な思いをさせられたはず」


「た、確かにむかつくオッサンだとは思ったよ……」


「わたしもあの人嫌い。自分の非を断じて認めないなんてどうかしてます」


 犬養への不平不満が噴出している中で、アデリーンは胸の前で左手を握って、助け舟を出さんとしている。――そして、皆へこう誓う。


「それなら心配ご無用。みんなに代わって、私たちが彼を……懲らしめます」

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