FILE066:ショッピングでラブラブカップルをお護(まも)りするのは間違っているだろうか
さて、この大型ショッピングモールは豪華客船を彷彿させる外観で、駐車場も含めて5階建てとなっており、地下フロアは無し。内訳はこうだ。……1階北エリアはスーパーマーケットとドラッグストア、物産コーナー、カフェが点在し、1階南エリアにはレストラン街とケータイショップ、催事場などがある。
2階は北・南ともに全体的に暮らしと文化をテーマとしていて各種アパレルショップに小物店、メガネショップにゲームコーナー、ゲームやおもちゃ屋も兼ねた電気屋などを取り揃えている。
3階はテラス付きのフードコートや映画館、文具店、エステサロンや理髪店があるなど、こんな風に充実しており、更にいずれのフロアにも客が飽きないように服屋にカフェなどが置かれていた。
なお、竜平と葵のカップルがまず最初に向かったのは1階南口の付近にあるアクセサリーショップである。あらかじめモール内のスーパーで牛乳を買ってきていたアデリーンは、いつの間にやら持参していたキャスケット帽を被って赤いアンダーリムのメガネもかけて変装(?)し、近くの席から見守っていた。
「ふふふ、迷ってる迷ってる。そのままイチャつきなさい。イイ感じになりなさい」
2人きりの時間に余計な手出しは無用。ただ見守り、悪い虫が近づいたなら振り払うのみ。そんな彼女はいい笑顔で竜平と葵にエールの様子をうかがっている。彼らはビーズアクセサリーのお手本を見たり、これがいいのではないか、いや、こっちのほうがいいのでは、と言った風にあれこれ話し合いながら店の中を物色している。なかなかレジには並ばない。
「あー! もどかしいの! 竜平っちよー、葵たんにピッタリ似合って、その上で魅力をもっと引き出せそうなの見つけ出して、ちゃっちゃと決めろってばよ……! もっとこうさ、葵っちが何に興味あるかを聞くとかさ!」
アデリーンの後ろから、そうぐちぐち言って蜜月が2人を眺めている。しゃべりながらアデリーンの肩を持ってそのままさりげなく接触しており、そういう点でも彼女は抜かりなかった。
「やっと並んだよ……会計も終わらせたみたい。ん? 違うお店に移動するみたいよ」
「私たちも行きましょう」
アクセサリーショップを出た竜平と葵を追いかけて行った先はケータイショップだ。常に今を生きる彼らは最新型モデルのチェックも欠かさない。アデリーンと蜜月も自分たちが使っていたものを確認する。アデリーンのものはあるメーカーから出ている最新型、蜜月のものは1つ前の世代のモデルだが性能面ではとくに問題のないものだ。
「そういえばタブレットはまだ使ってるの?」
「まあな。それにジャーナリストもまだやってるからねーっ。メモ帳と合わせていっぱい使っちょるわ」
「変装用の小道具じゃなかったんだ……」
「くっくっくっくっ。ワタシほどの熟練者になるとだね、高度な情報処理能力が常日頃から求められるのだぁ〜〜〜〜」
かつてカフェで話し合った時に見かけたタブレットは本当に蜜月の仕事道具だった……という意外すぎるウラ話を聞きながらも、アデリーンは温かい目をして竜平と葵の護衛を続けている。そこでふと、ある疑問が湧いたアデリーンは綾女に電話をかけ始めた。
「どしたん?」
「しーっ。今通話するところよ。……あっ、もしもし。アヤメ姉さん」
『なーに、アデリンさん? 変わったことはなかったかな?』
「今のところ大丈夫です。ケータイショップの前にいるんですけど、アヤメ姉さんはついてこなくてよかったんですか?」
『いーのいーの。私ここには足しげく通ってるんで! また改めて行くつもりだからさ!』
「むむむ! アヤメ姉さんのお庭も同然だったとはつゆ知らず。時に姉さんはスマホを買い替える予定はなかったかしら?」
『今んところ無いなー。あっ、アデリンさんたちもショッピングしてっていいんだからね! せっかくだし、いっぱい買ってき?』
「えへへ~、もちろんそのつもり。私こう見えて世間でいうところのご令嬢でもありますから、遠慮はしませんよ」
『そいつはいい。買え買え! 買っちゃいなよ!』
「うふふふふふふふ」
(ワタシも混ぜてほしいんだけどなー! 綾さんといっぱいおしゃべりしたいんだけどなー! しゃーねーかッ)
アデリーンが綾女と通話して盛り上がり始めたので、蜜月は邪魔にならないように少し距離をあけてから高校生カップルの2人を見守ることにする。買い替えを検討しているようには見えないし、充電ケーブルやイヤホンなどの周辺機器を買い求める様子もとくには見られない。
「おいおい、何のために寄ったのよ。安いアクセでいいからちょっとくらいお店に貢献してやれってば。充電させてもらうとかさー」
左手の親指の爪を口に向けて、噛みそうなそぶりを見せてから、蜜月は歯がゆく思う。
「じゃあアヤメ姉さん、また後でねー。長電話してすみませんでした」
「……終わった? アデレード、お2人さんがケータイ屋さん出たよ」
「ホントだ。どこに行くつもりかしら……。尾行しよ」
アデリーンもウキウキウォッチンな気分だったためか、いつもより心持ち軽い口調で蜜月に告げてから2人の後をつけるのを再開する。その先で竜平と葵は2階にいったん移動してカバン専門店に入っていき、当然アデリーンと蜜月も近くで張った。
「……だ、誰かの視線を感じる……」
「とは言ってもアデリーンさんとミヅキさんでしょ。ここはカラクリ大王のカラクリ屋敷じゃないぞー。竜平君、わたしたちを守ってくれてるんだから気にしすぎちゃダメ」
「で、でも、あの人たちについてこられると、俺たちは安心して買い物できないんだ!」
「ガキ大将にたった1人で立ち向かって、青いタヌキ型ロボットを未来に帰らせたいわけでもあるまいに」
「あいつはタヌキじゃなーい!!」
アデリーンに守ってもらえるのはありがたいが、それはそれとして、こうも近くで見守られていると竜平にとっては買い物がしづらいのだ。彼とは違い、葵はさほど気に留めてはおらず平常運転。
「ねーねー、この辺でいったん離れてタピっとかない?」
「タピっちゃう? けど、目を離した隙に何かあったら不安なのよね」
「なーに、すぐ戻ったらええんや」
「ここは柔軟に行きましょう。私があなたの分もタピオカ買ってくるから、2人でタピるのはその後で。あなたはあのカップルのことをしっかり!! ……見張っててもらえる?」
「え? うん」
一瞬、目が点になっていたが蜜月はアデリーンの案を承諾。彼女には1階のスーパーマーケット手前にあるフルーツジュースやタピオカミルクティーも販売しているクレープ屋に行ってもらうことにして、そういう蜜月自身は付近の椅子に座って腕組みし、足も組んでから竜平と葵を護衛・観察することにした。――なにぶん、2人そろってビジュアルが非常に良いもので、通りすがるほかの客からも注目が集まっている。「さてはみんなこの蜜月お姉さんの魅力に気付いたな? いいぞ、もっと見とれろ……」と、蜜月は内心ではそう思っていた。
「お待たせー」
「はえーな!? まあいいや。タピろうタピろう」
そんなに時間も経たないうちにアデリーンが戻ってきたため、蜜月は自分の分を受け取る。女2人で、そこにタピオカミルクティーがあったならやることは1つ。あのチャレンジだ。「めっちゃ盛り上がってる……」と、まだどのカバンを買うか決められない竜平から指を差されても、彼女たちはまるで気にしていない。次第に自分たちの胸のトレイ代わりにしてタピオカミルクティーの容器を置き、ストローからじっくり味わう形で飲んで行く。甘ったるい味わいだが、それがいい。
「やっぱ、こんなもんか」
「こんなものよね。でもギャルたちが愛好するのもわかるわ。いかにカロリーが高かろうと、胃が重くなろうと、今この瞬間に飲むこと自体が大切だものね」
「哲学ですな、アデレード氏……!」
彼女らがタピオカミルクティーを深く味わっている間に、竜平と葵がカバン屋を出て彼女らの座っている席まで移動する。そこでアデリーンと蜜月はいったん飲むのをやめた。
「おや、終わった?」
「ダメだ! 迷いすぎて、結局なにも選べなかった……」
「はっはっはっはっ。竜平っちよ、みんなそうやって悩みながら大人になるんだ」
「わたしはこのハンディバッグ買ったんですけどね。へっへーん」
竜平はほっといて、葵が一見堅実な作りとデザインながらもかわいらしいバッグを見せた。ここからデコって行くと思われる。
「それじゃー、私たちは引き続きこっそりついてくから、お気になさらず」
「あのねー、その俺たちを尾行すんのやめてほしいんですけどー! 気が散っちゃうだろ!」
「綾さんが心配して気を利かせてくれてんだぞッ。君らこそもうちょいワタシらを信じんしゃい」
「う……お、お姉はカンケーねーし!! ほら葵、行こ!!」
「竜平君さ、ムキになんないの」
ほんの少し気が立った竜平が落ち着きを崩さない葵を引っ張って行くのを見届けてから、アデリーンと蜜月も動き出す。まだタピオカミルクティーを飲み終わっていないので、近くのベンチに腰かけた。
「やっぱりでけーな……。いいよね……」
タピオカチャレンジ、再開。残りを飲み干さんとしている蜜月だったが、その蜜月の目にアデリーンの大きすぎるバストが留まる。容器が相対的に小さく見えてしまうほどのサイズゆえ、将来いいミルクを出しそうだと、彼女は予想していた。なお、蜜月のバストはアデリーンよりちょうどひと回りほど小さかった。
「ミヅキってば、いやらしーの」
「お、女の子だってムチムチでかわいい女の子を好きになるわい! 何が悪いかッ!!」
そうして飲み終えた彼女らは、高校生カップルを追うのを再開したのだ。次の行き先は2階中央付近にある有名アパレルショップである。




