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【5th anniversary!】アデリーン・ジ・アブソリュートゼロ  作者: SAI-X
【第8話】残酷!魔女・ミヅキ
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FILE054:後には引けないDuel!


「ホーネット、いや蜂須賀はどこだ! 来てないのか!?」


 翌朝のこと。ヘリックスシティには蜂須賀蜜月は顔を出しておらず、幹部メンバーの青年男性・デリンジャーがオロオロしていた。それを見て、クスクスとキュイジーネが笑う。


「彼女はここにはいないわ。決闘に備えて余計なことはしないって、あたくし宛に連絡が入ってたの。……ふふふふ、噂をすれば」


 タブレットに通信が入った。どこか嬉しそうなキュイジーネはテレビ電話機能を起動する。すると、自撮りをしている蜜月の姿が映った。彼女の背後にはお披露目パーティーの日に連れて帰ったフェイの姿もある。


『悪いな、あんたら。今日はそっちに行く気にゃなれない。ワタシは4日後にアデレード……あんたたちがNo.0と呼ぶあの子と決闘する。手出しは一切無用だ。もし邪魔をしたら誰であろうと容赦はしない。……以上だ』


 スクリーンに映る蜂須賀蜜月は笑っておらず、終始暗殺者らしい陰のある表情をしてメッセージを送っていた。そこまで言うのだから本気の度合いが違う。断じて戯れなどではないものがその言葉の中にあった。なお、通信はまだ切っていない。


「……だそうだぞ? あの女に遊んでもらえなくて残念だったな」


 ゆらりと突然現れた、この長髪で外見年齢は30代ほどの男性はタキプレウスと――コードネームや怪人の姿ではそう名乗っている、兜円次(かぶと えんじ)だ。Hの文字が遺伝子のように螺旋を描くヘリックスのエンブレムや腕章のついたジャケットを着ていた。


「だだだ、誰があんなのと……」


 その時、後ろから来た何者かにどつかれてデリンジャーは無理矢理どかされた。癖のある短髪の男性だ。唇が紫色でまつ毛は枝分かれしており、見るからに冷血そうな印象を与える。


「た、タランチュラ……、雲脚(くもあし)! 個展の準備はいいのか!?」

「なぜ君がそれを気にする必要がある? 今はそんなことよりも……」


 不気味に笑う雲脚という男――タランチュラ男の正体である彼はデリンジャーを嘲笑い、足蹴にしてキュイジーネや円次の前に出る。テレビ電話に映った蜜月に何か言うつもりだろう。


「クックックックッ……! 蜂須賀、身勝手を繰り返す君にばかりいい思いはさせん。手柄も立てさせんよ」


 命令に従わず、組織の理念にも興味を持たず、独自に行動する蜜月を快く思わない雲脚は、言葉と表情で煽っていく。だが蜜月は動じず、逆に煽る顔をしたので雲脚は唇を噛みしめた。


『言ってくれるね。あまりワタシを怒らせないほうがいいぞ? 命が大切ならな……』


「ちっ、これだから外様の人間は……」


 そこで通信は切れた。雲脚はあきれた顔で悪態をつき、キュイジーネは笑う。


「ぎゃははははッ! 同じ虫ケラ同士馴れ合えばいいものを!」


「おしゃべりコウモリが……」


「ホゲッ」


 踵を返した雲脚はデリンジャーを踏みつけてその腹を蹴る。悶え苦しんでいる彼を放っておき、次に振り向いて円次とキュイジーネの方を向いた。


「蜂須賀蜜月は日本一金のかかる最高級の殺し屋であり、プロフェッショナルとして仕事には決して手を抜かない。ここは彼女に任せるべきよ」


「右に同じだ。俺もあの女のことは気に入らないが、ヤツの腕前には関しては一目置いている。ここはヤツのプライドに懸けてみるのも悪くないだろう」


 キュイジーネならまだしも、不まじめな蜜月を煙たがっていたはずの円次が、蜜月のことを高く買っているのは雲脚としては納得がいかない。ましてや勝手に決闘など執り行って――。


「今回くらいは彼女に任せなさいな」


 言い返そうとしたその時、キュイジーネからなだめられて雲脚は顔をしかめた。深紅の瞳でにらんでいるように見えたのは、恐らく彼の気のせいだろう。



 ◆◆◆◆



「フェイたん」


「なんですか?」


 その頃、テレビ電話アプリによる通話を終えた蜜月は、自身がヘリックスから保護したダンサー見習いのフェイと自宅で過ごしていた。彼女ともいつかは別れなければならない時が来る。それまでの付き合いだが、そこに至るまでの時間を蔑ろにするつもりはない。


「ちょっと早いが、言えるうちに言っときたい。もし、ワタシの身に何かあったらアデリーン・クラリティアナを頼ってくれ」


「決闘相手の人を?」


「あの子のことはアデレードって呼ばせてもらってるけどな。ワタシとは敵同士だが、悪い人なんかじゃない。その逆……。クールだけどとってもキュートで、パッションもあって人間らしい。何より優しい。素敵な子なんだ」


 アデリーンについてフェイに語る蜜月(みづき)の姿は、完全にファン目線のものであるし、友人目線だ。命を狙う暗殺者には程遠い。


「彼女にならフェイたんを任せられる。割り切れないこともあるかもしれないが、もしもの時は彼女を信じてやってほしい」


 フェイは、蜜月からの願いを聞き入れた。蜜月は通話の際にヘリックス幹部たちにも見せなかった、心からの穏やかな笑顔も見せたのだ。



 ◆◆◆◆◆◆



 そして、決闘当日。舞台として蜜月が指定した逢魔ヶ原は海に面し、広々とした峡谷に点在し、その中の採石場跡地で蜜月はバイクとともに待ち構えていた。ブランドスーツの上に黒いコートを羽織り、広い景色を眺めて感傷に浸っていたその時、別のバイクのエンジン音が耳に入る。コバルトブルーと白を基調とする専用マシンに乗ってアデリーンが現れたのだ。蜜月は少し笑って彼女を出迎えることにする。


「よぉ、アデレード。逃げずによく来てくれたな。褒めてやるよ」


 赤青のツートンカラーのジャケットを着たアデリーンはマシンブリザーディアから降りて、片手で髪を梳く。


「……なんだよ。命を無駄に散らすなとか、そういうお説教はしてくれないのか?」


「あなたにすり寄るわけではないけど、私も理解が足らなかったわ。なぜあなたが誇りを懸けてまで、誰にも頼らず一騎討ちを望んだのか」


 「言葉では言い表せないものがあったからだ」、と、アデリーンは続けようとしたが、あえて言わずに微笑んだ。それを見て、蜜月はニヒルに笑う。


「けど、わからなかったこともあるわ。死なないとわかってて、なぜ私の命を狙うの?」


「お前がワタシの最大のターゲットだからだ。他に理由は無い」


「私は無益な争いは好まない」


「奇遇だね、ワタシもだよ。しかしお前はワタシに殺される運命に生まれついた」


「……能書きはいらない。はじめるならはじめなさい」


 クルクルと回しながら、ジングバズショットを取り出す。蜜月に合わせて、アデリーンはブリザラスターを召喚し、スタイリッシュに構えてみせた。


「ワタシの武器はこの岩をも破壊するジングバズショットと、分厚い鉄板も貫く『ハニースイートダガー』、そして鉄筋コンクリートの壁や山だろうと切り崩すバズソード。お前の武器はなんだ?」


 いつもの武器に加え、黒みがかった金色のダガーナイフも取り出してあらかじめアデリーンに見せておく。対するアデリーンはバイクの右ハンドルを引き抜いて、ビームソードへと変形させる。だけでなく、もう1つデバイスを取り出して左手に持ち――ビーム・シールドを展開させた。


「私の武器はすべて切り裂いて凍らせるブリザードエッジと、すべてを凍て付かせて撃ち抜くブリザラスター、そして防御能力を高め、あらゆる攻撃を臆病なまでに遮断する『ブリザウォール』。私にこれ以上の武器は必要ない」


「……いつになく本気も本気、大マジだな……。はじめようか」


「【氷晶】」


「【滅殺】」


 今更おめおめと逃げ出すつもりなどない。アデリーンは右腕を天に向けて、【氷晶】。蜜月はスズメバチのジーンスフィアを右腕のブレスジェネレーターに装填してから回転させ、ジングバズショットをこめかみに当てて――【滅殺】。それぞれ変身した。


「お覚悟はよろしくて?」


「来いッ! アデレードッ!」


 雪の結晶と冠の意匠を持つ青と白に輝くメタルコンバットスーツをまとったアデリーンと、メタリックイエローやダークカラーを基調とするメカニカル・ボディのホーネットガイストとなった蜜月が互いを撃つ。


「イヤァーッ!」


「ふぁははははははッ!」


 ジャンプして、すれ違いざまに攻撃。相殺されてアデリーンは着地。蜜月はそのまま空を飛んで銃撃と近接攻撃を交互に繰り出す。アデリーンはこれを果敢に迎え撃つ!


「うあああァ!!」


 地面へ落としたところへ、すかさずキックで追い討ちしに行くが蜜月は黒みがかった金色の短剣・ハニースイートダガーを構えて防ぎ、そのままアデリーンの右肩に突き刺す。アデリーンはそのダガーをすぐに抜き、蜜月にカウンターして投げ返した。そこからラッシュをかける!


「だだだだだだだだだだだッ!」


「このおおおおお!!」


 激しく攻められている蜜月はハニカム状のシールドを展開して徒手空拳のラッシュを防ぐが、最後にブリザラスターのゼロ距離射撃を受けて破壊され、ハイキックを食らわされた。しかし手刀で素早くカウンターする。アデリーンはそのカウンターを食らうも、エルボーで返す。しかし相殺された。


「ふへへへはははははは……! 食らええええええぇぇえええ!!」


 急旋回しながらの浴びせ蹴りだ。アデリーンはビームシールドであるブリザウォールを装備して展開させて攻撃を弾くと、更に銃であるブリザラスターからビームソードへと持ち替えて――斬る! 火花を散らして手応えはあった。そこからアデリーンは空気中の水分を凍結させ、宙に道を作って滑走しはじめた。


「こいつ、やってくれるな……!」


 感心とも悔しさとも取れる口調でそうつぶやき、蜜月は飛翔してアデリーンを追撃する。残像が見えるほど素早く動き回り、翻弄する。アデリーンはその場で止まったかと思えば、氷の道を打ち切ってハイジャンプした。


「血迷ったか?」


「いいえ。……素早い相手にはバカ正直に追いつくまでもないわ。動きを止めればいい」


「そういう手は食わない」


 次の瞬間アデリーンはブリザウォールを媒介に冷凍エネルギーを増幅させ、周囲に輝くほど冷たい吹雪を吹かせた。蜜月の作った分身たちが一斉に消え、本体が徐々に凍りつく。


「そこっ!!」


「うっぐはぁ!?」


 空中で一回転してからの唐竹割りが決まった!氷の破片が飛び散る中でそのまま降下するが、蜜月は簡単にはやられない。体勢を立て直してそのまま逆にアデリーンを回し蹴りで叩き落とした。


「もらったぁ!!」


 降下しながらカカト落としを繰り出す。勢いをつけることで破壊力を増強させて大ダメージを狙う寸法だ。が、アデリーンはそれを見越してブリザウォールで身を守る。技をキャンセルしようとしたが間に合わず、蜜月はビームシールドに弾かれて急いで着地。大きく後ずさりする。仮面の下で焦りを見せる――どころか不敵に笑うと、蜜月は金と黒を基調とする十字剣・バズソードを取り出して武装した。アデリーンもそれに応えるように、ブリザウォールを持ったまま両手でブリザードエッジを持つ。


「えいあーッ!」


「どらぁ!!」


 戦いの余波により背後で爆発が起こる中、すれ違いざまに一太刀浴びせる。決定打とはならず、着地。まだ、互いに倒れるわけにはいかない。どちらにも引けない意地と誇り、信念や正義があるからだ。やがて、また宙でジャンプしながらの斬り合いで相殺し合った時、2人はそれぞれ専用マシンに乗り込んだ。


「私は負けない!」


「それは! こっちのセリフだ……!」

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