FILE046:鏡に中の世界はありまぁす
カメレオンガイストは機嫌をよくして後ろを向いている。その隙にアデリーンは鎖を凍らせると同時に砕き、捕まった人々を迅速に救出しに回る。エツコらを解放していく中で、自身もよく知っている顔もそこにいた。
「あ、アデリンさん! これ外して……!」
「アヤメ姉さん、サユリ母さん。今助けます!」
赤髪で髪型はワンレングスの女性と、艶のある黒髪の女性――綾女と小百合だ。早速鎖を外して2人を自由にする。これで捕まった人たちは全員、解放された。アデリーンはカメレオンにバレないように「しーっ」と、皆を落ち着かせる。
「大変だったんだよ。メガネかけた悪い女から、しつこく『最終兵器』の設計図のありかのこと聞かれて……」
「なんですって!? ヘリックスめ、やっぱりまだビッグガイスターの『完成』をあきらめてなかったんですね……!」
小百合が言う女とは、間違いなくキュイジーネのことだ。アデリーンのイメージ内で彼女は露出度の高いコスチュームに身を包んで高らかに笑い胸を弾ませたが、つまりそういうことである。
「お、おい! 勝手になにやってんだ!?」
そこでカメレオンガイストに気付かれてしまった。隣にはスーツ姿で茶髪のロングウェーブヘアー、瞳は深紅に染まった女性・キュイジーネもいる。アデリーンは変装を――解かず、そのまま接することにした。アデリーンに緊張が走るが、彼女と対峙するキュイジーネはほくそ笑んでいる。
「……お久しぶり、クラリティアナのお嬢さん。いい顔になったじゃない」
妖艶な物腰で、少し見下した物言いをしながらキュイジーネはメガネをくいっと持ち上げる。その下では真紅の瞳が妖しく光っていた。
「あら。もう私のことはNo.0とは呼ばないの? キュイジーネ」
「ふっ……。ラボラトリーにいた頃はあんなにかわいげがあったのに、ずいぶん立派になってしまったものね」
昔を懐かしんでいるような口調で、少し切ない瞳でアデリーンを見つめるキュイジーネ。それはアデリーンも同じだったが――。
「……お互い、あの頃には戻れない。可能なら、優しかった昔のあなたにもう一度会いたかったわ」
「優しさなどとうの昔に捨てた。今のあたくしは、ヘリックスが誇る情け無用の大幹部……」
アデリーンに非情な言葉を告げたキュイジーネは、置いてけぼりになっていたカメレオンガイストに指先で指示を出す。次に冷酷な声色でこう言い放った。
「やれ」
「レロレロレロレロ!!」
すでに覚悟を決めていたアデリーンは、飛びかかってきたカメレオンガイストを軽くぶちのめして、キュイジーネへと容赦なく投げつける。過去に囚われず今を守るという決意も表れていた。
「ふん……」
キュイジーネはそれを払いのける。カメレオンガイストは真横にある鏡のひとつに衝突、その衝撃で鏡が割れた。顔色ひとつ変えずにキュイジーネは左手で髪を梳く。
「殴り合いは性に合わないのだけどね……」
両者にらみ合い、火花を散らす。直後、アデリーンはキュイジーネではなくカメレオンガイストにつかみかかった。何を思ったか、キュイジーネは口元に左手を添えて笑う。
「今すぐあなたが捕まえた人たちをここから出しなさい!」
「い、嫌だねーッ! 僕は僕の言うことだけを聞く都合のいい人間ばかりの国を作るんだあ!」
「……あきれたものね」
カメレオンガイストの眉間に、アデリーンは冷徹にもブリザラスターを突きつける。今は手段を選んでいる場合ではない。
「クラリティアナ、あなた正気!?」
「これでも解放しないって言うのかしら?」
一瞬キュイジーネのほうに銃口を向けて威嚇してから、アデリーンはカメレオンガイストに脅しをかける。……目つきからして本気だ。
「レロ、レロレロレロレロ、わ、わかった、この空間を解除する! だから銃を降ろしてくれ~……」
「そう……。フンッ!!」
アデリーンはカメレオンガイストの下顎を思い切り蹴り上げた! 敵は約束を守る気はなく、不意打ちをしてくると読んだからだ。そして、ブリザラスターの出力を最大限まで上げて、フルパワーでこの空間の地面に向けて撃った!
「あなた、何をする気……?」
「シューティングエンド!!」
鏡の中の異空間にびっしりと亀裂が入り、そのまま割れた。そして激しいフラッシュとともに、その場にいた全員が外へ出ることができた。
「レロレロレロレロレロ!? い、イテェ~~! イッテェ~~~~!? もう無理ッ!!」
「無理ですって? 罪を償うのも無理だって言いたいのかしら?」
静かに怒りを燃やすアデリーンはカメレオンガイストの首を掴み上げ、容赦なく追い詰め始める。作戦を成功させたいキュイジーネは妨害のために近寄るが、アデリーンがすごい気迫で彼女を威圧し、更に彼女の眼前に地面からのツララを発生させて行く手を阻む。これは警告だと受け取ったキュイジーネは『何か』を察して引き下がった。そして、耳にインカムをつけるとヘリックスシティへと通信をはじめる。
「……マスター・ギルモア。惜しくも作戦は失敗しました。ただちにそちらへ帰還致します」
「えっ、ちょっと、ヘビおばさ……」
ギロリとキュイジーネがカメレオンガイストをにらんで威圧した後、彼女はワープして撤退。カメレオンガイストは、アデリーンに絞めあげられていたこともあって言葉を失う。
「あ、アデリンさん、怖い……。けど……」
「悪と戦うってのはああいうことなんだね。きっと……」
「お願い、あんなやつに負けないで。アデリンさん」
少し恐怖を感じるも、あくまでも正義のために戦うその姿に希望をもらった綾女。小百合はアデリーンのその覚悟を完了させた姿勢を見て悟っていた。
「悔い改めなさいッ!」
アデリーンの渾身の右ストレートと、鋭く強力無比なハイキックがカメレオンガイストの顔面や腹に炸裂する。




