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【5th anniversary!】アデリーン・ジ・アブソリュートゼロ  作者: SAI-X
【第7話】カメレオン!幻の人さらい作戦!?
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FILE044:逃走中~コピー人間との鬼ごっこ~


「来ちゃダメ。ガラス踏んだらケガしちゃうわよ」


 注意しつつも、自身は葵と春子のもとへ歩み寄る。目撃されたのはわかった上での他人のフリだ。その途中で不注意から足にガラス片がかすり、ケガしてしまう――。


「いてっ」


「だ、大丈夫ですか!?」


 彼女の身を案じて近寄ろうとした葵だが春子に止められた。当のアデリーンはあまり気にしておらず、それどころかガラス片によってついた傷はたちまち塞がった。「この人はわたしたちとは違うんだ……」と、そう葵は感付くが、糾弾しようとまでは思わなかった。


「私なら平気よ」


 自分たちをあのカメレオンのおばけから守ってくれたし、何より綾女が言っていた通り優しいからだ。それに恩人を責めるような厚かましいことはしたくない。葵の表情からは、自分と違うものへの疑いも恐怖も自然と消え去っていた。


「今はそれより、アオイちゃんとアオイママさんの安全を確保するのが先決じゃないかな」


「はい……!」


 それから梶原家に案内してもらったアデリーンは、自身の正体を隠している場合ではなくなったため、事情を洗いざらい打ち明ける。最初は信じられない顔をした葵と春子だったが、実際にディスガイストによる凶行の被害に遭ったこともあり、次第に納得して受け入れた。


「……やっぱり、ホントだったんだ……。アデリーンさんが人造人間だって言ってたの」


 確かに、にわかには信じがたいことの連続だ。驚きのあまり、葵は逆に落ち着かざるを得ない。こんな時に大声で騒いでもどうにもならないからだ。アデリーンのほうも、「いきなりこんなことを言われたら信じられないほうが普通だ」――とは思っていた。


「私のこと、嫌いになっちゃったかしら?」


「いいえ、アデリーンさんと知り合った以上はわたしにも知る権利があります。……って、なんか昨日の竜平君みたいなこと言っちゃった」


「命の恩人を嫌いになんかなれませんよ。あのままだったら私も娘も……ああ恐ろしいっ」


 こうやって、彼女たちは彼女たちなりにアデリーンのことを受け入れ始めている。下手すれば警察も思うように動けないどころか、カメレオンガイストに何かされて既に手遅れになっているかもしれない可能性を考慮すると、この状況で頼れるのはアデリーンだけ。とくに春子は、夫と離れ離れの中で娘の葵の身に何かあったらと思うと、それが怖くて仕方がなかった。大切な家族を失いたくないのだ。


「……あのディスガイストという怪人は今後もアオイちゃんたちを狙ってくると思います。不要不急の外出は避けてください。鏡や窓ガラスと言った、自分の姿が映るものもなるべく避けたほうがいいです」


「う、うん。わかった。けど、鏡やガラスはどうしてですか?」


 アデリーンからのお願いを聞く中、タメ口混じりで葵が質問する。「よくぞ聞いてくださいました」と笑みを作って返してから、アデリーンは一呼吸する。


「あのカメレオンのディスガイストは私の前から逃げる時、()()()()()()()逃げました。そうやって移動して、あちこちで悪さをしてたんでしょう」


「何それ、怖い……!」


 それはつまり、いつでもどこでもあの野蛮で下劣なモンスターに襲われる恐れがあるということだ。頭を抱えて、葵が震えだす。春子も不安だったが彼女に寄り添い、背中を撫でて落ち着かせた。アデリーンもそばに寄って安心させようとする。


「大丈夫。私がなんとかしてみせるわ。だからおびえないで」


「アデリーンさん、それ……ホント?」


「約束する。私があなたたちの最後の希望よ」


 自信をもって笑いかけ、元気と生きるパワーを分けてあげたアデリーンは葵と約束を交わす。指切りげんまんだ。破ったりなどしないし、葵にも笑顔が戻った。


「ベタだけどね、秘策があるの」


「え? ど、どんな?」


 ちょっと立ち位置を変えて、アデリーンは葵と春子に聞こえるように2人に耳を貸してもらい、そっとささやく――。


「ひそひそひそひそ……。あれをああしてこうして、そうして、そうです。そうするのです」


「ま、マジ? すご……」


「いいんじゃないですか? それ……?」



 彼女の立てた秘策が何であるか。それは――知らないほうがいい。


 ◆◆◆◆



「なんなのよ、もーっ! みんな()()()()()()()! なんか()()()()()()()()って感じだし……。こえーっての!」


 その頃、自称・フリーのジャーナリストで、紫がかった黒髪に蜂蜜色の瞳をした女性――ミヅキは文句を垂れながら街をさまよっていた。人々が急に冷たくなり、虚ろな感じにもなったことに混乱しながらも、急に発生したこの事件の真相を探っていたのだ。服装は愛用のバンギャル風ファッションではなく、また異なるストリートファッションだ。


「あれもこれも、アデレードが言ってたこないだの鳥男みたいな怪人の仕業? どうしろってのよ……」


 焦ってもいいことはないとわかってはいたのだが。切羽詰まったのか少し苛立ち始めたところで、ミヅキは偶然にも――浦和家を発見。なお、アデレードとはミヅキがアデリーンにつけたあだ名である。本人から好きなように読んでも構わないと提案され、それに乗っかった形だ。


「ん……? 『浦和さん』? 浦和さんって言やあ、確か科学界でも有名人で有識者だったはず……」


 独り言をつぶやくが、それどころではなくなった。家の中から声が聞こえてきたのだ。嫌な予感がしたが、見知らぬフリはできない。不法侵入するようなことはせず、周りの目を気にしながら柵の近くで張り込むこととする。心拍数も急上昇だ。


「か、母さん? お姉? どしたの? 2人ともなんか変だぞ?」


「男の子の声だ……」


 異常事態であることは察しがついたが、下手に手を出すと自分の身にも危険が迫る気がしたので、ミヅキはまず様子を伺う。


「や、やめろ! 何するの! …………やめてくれー!」


「え……!? な、何!? 何なの!?」


「『鏡』が何だってんだよ! 俺何も知らないよ! ホントに知らないってば!!」


「か、鏡? いったい何が……」


 少年の声だけでなく、女性2人の不気味なうめき声まで聞こえてきた。ミヅキは不安になったがそれでも、真相を追求したい一心で聞き続ける。


「ウワーッ! 誰か助けてくれーッ!」


 その時、少年こと浦和竜平が玄関から飛び出した。姉・綾女や母・小百合――のような何か、いやコピー人間が彼を追いかけてやってくる。恐らく、カメレオンガイストが2人を誘拐してコピーしたのだろう。最初は腰を抜かしたミヅキだったが、本能的に見捨てておけなかったのか、とっさに彼をかばい始める。


「あんたも来なさい」


「カメレオンさまのところに行けば幸せになれるのよ……」


 竜平もミヅキも、綾女や小百合が何を言っているのかまるで理解が追いつかない。急に狂ったようにしか見えなかった。


「ね、ねえ、ボウヤ。ご家族がこういうのだと大変だよね」


「ち、違います! ていうかお姉さん誰!?」


「わ、ワタシはミヅキ! フリーのジャーナリストやってるのー……って! 今はそんなこと言ってる場合じゃなーい!?」


 ぎこちない笑顔でミヅキがビビる竜平に接している中、綾女や小百合が襲いかかる! 2人とも全速力で逃げ出した。


「ボウヤのお名前は!?」


「りゅ、竜平! 浦和竜平!」


「か、かっこいいー! って! あのママさんたち表情ひとつ変えてないよ!?」


「に、に、逃げろー!」


 こんな感じでミヅキは竜平をおともに逃げ回る。だんだんと追ってくる人々、いやコピー人間が増えてきたような――? 見つからないようにあちこち逃げ込むがそのたびにコピー人間の集団に見つかり、安住の地などほとんどないような状況だったが、そこはミヅキが機転を利かせ、ピンチが迫るたびに乗り越えて行った。


「はあ、はあ。なんとか巻いたね」


「み、ミヅキさん! 俺知り合いに電話する!」


「え? 知り合いって誰よ? 信頼できる人なんだろうね……?」


「知り合いは知り合い! 大丈夫だから、俺を信じてつかぁさい!」


 なんとか人気(ひとけ)のない用水路まで逃げ込んだところで、竜平は疲弊するあまり疑り深くなっていたミヅキを説得すると、チェーンまでつけて落とさずしっかりと持ち出していたスマートフォンからアデリーンに電話をかける。


「もしもしアデリーン!? 俺だよ、俺! 竜平! 詐欺じゃないホンモノだよ! 今どこにいるの? そっか……、それでどうしたらいい? わかった、そっちまで行く!」


 竜平の話し相手が自分の友達と同じ名前なのもあって、ミヅキは密かに驚いていた。もちろん大声は出さない。一瞬だけ、彼女は目つきを鋭くして竜平を見ていたようにも捉えることができた。


「竜平っち、アデレードと知り合いだったんだ?」


「まあ、ね。なんやかんやあって、悪いヤツから命を助けられて、またなんやかんやありまして……」


 記者としてのクセがそうさせるのか、ミヅキは話を真摯に聞きながらメモを取る。「記事にしないで!」と釘を刺されたミヅキだが、彼女には彼のプライバシーを侵害するつもりなど毛頭なかった。


「ごめんごめん。ワタシはアデリーンのことは、アデレードって呼ばせてもらってるけどお気になさらず」


「ははは……。それじゃ、俺のカノジョの家まで行きましょう。そこでアデリーンと待ち合わせしてますんで」


「けど、大丈夫? さっきのご家族みたいに、様子がおかしくなったりとかしてない? ワタシ、それが不安で仕方ないんだよね……」


「だ、大丈夫ですって! 多分……」


「ホントかなぁ……」


 「信じていいのかなー、それ?」とは思いながらも、ミヅキは竜平にしっかりとついて行く。一見お茶らけていて、そそっかしいように見えたが、一方で彼をかばうように率先して前に行き、常に警戒を怠らないミヅキのその姿は、先ほど危機を救ってもらったこともあって竜平の目には頼もしく映った。

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