FILE033:赦すということ
「うわあああああああああああああああああああ!?」
悪の総本山たる闇の改造実験都市・ヘリックスシティの玉座の間にて。雷鳴がとどろく中、失敗して帰還した禍津に対し、怒り狂うギルモアが杖から電撃光線を浴びせていた。
「も、申し訳ございません総裁ギルモア! この次は必ずや作戦を成功させて……」
「ええい、この能無しめが! 下がっておれ!」
ギルモアから叱責され、頭を下げて這いつくばる禍津を笑う男の声。スーツ姿で随分と粋がっている――ドリュー・デリンジャーだ。
「はっはっはっはっ! ざまあないな禍津! 日頃から、このぼくを見下しているからそうなるんだぜ! わかったか! はーっはっはっはっはっ!!」
ポケットに手を突っ込んだまま、デリンジャーはマスター・ギルモアやほかの幹部が見ている前で大笑いする。禍津がそのデリンジャーを忌々しげににらむ。ここぞとばかりに禍津を罵った彼だったが、怒り心頭だったギルモアの矛先は当然彼にも向けられて――。
「バカ者!!」
案の定だ。
「ウギャ――――――――――――――!?」
結局、2人まとめて電撃光線で黒コゲにされ、その場で土下座させられたのだった。他の幹部たちの呆れる声や談笑の声、下部メンバーたちの怯える声だけが残った。
◆その頃、突針町◆
ヘリックスという悪魔の組織に魂を売ってコンドルガイストと化した巣立カネツグは、犯してきた罪を償う機会を自ら拒み、アブソリュートゼロへと変身したアデリーンによって制裁を受けて死んだ。その日から人々の暮らしからカネツグは消えたが、誰も彼がいなくなったことを気にかけないし、親しかったはずの祥吾でさえ何も思わない。そういえば彼はどこに行ったのだろう。気にするとしてもその程度である。――これが、人でありながら自ら身も心も怪物に成り果てた愚か者が辿った顛末。
「ショーゴくんとユリカさんに会いたいという方を連れてきました。……組長さん」
クラシカルかつゴシック系の雰囲気のジャケットに身を包んだアデリーンが、祥吾の病室に鬼怒越組長を連れて入る。威風堂々、あまりにもヤクザの大親分特有の貫禄があったゆえ、祥吾も、優里香も、彩姫も、みんな目を丸くして驚いた。
「あなたは……」
「祥吾君、優里香さん。3年前のことは本当にすまなかった。赤楚にはあんなに良くしてもらっていたのにな……。すべては、ウチの若いモンを統率しきれなかったわしの責任だ」
責任感と罪悪感で顔を曇らせながら鬼怒越組長が詫びる。しかし、優里香がその手を取り、祥吾も微笑みかける。彩姫も「お顔を上げてください」と呼びかけた。
「鬼怒越組長、父さんのことはもういいんです。母さんも僕も、あなたには過去のことを引きずって欲しくなかったって、ずっと思ってきましたから」
「しかし、それでは君や優里香さんの気持ちが……わしは、君の親父さんを死なせてしまったんだぞ」
優里香は一粒の涙を流してから、鬼怒越克太郎に屈託のない笑みを見せる。彼の過ちを既に許している証だ。そして止めたかったのだ。克太郎が結果的に夫・赤楚英輔の命を奪ってしまったことを後悔し続けているということを。
「夫の英輔も天国でそれを望んでいると思います。組長さん、お互い前を向いて生きて行きませんか」
「優里香さん、祥吾君……ありがとう」
恨むどころか赦してくれた赤楚親子からの思いやりに鬼怒越組長は涙を流し、彼らと抱擁を交わす。アデリーンと彩姫は笑みをこぼして、それを暖かく見守る。
「……こういう光景を見ていると、医者になってよかったっていつも思うのです。患者さんやご家族の笑顔が何よりも見たいものですから」
「サキ先生……」
感動のあまり、アデリーンは突然サキの手を握った。若いながら経験豊富な彩姫も突拍子もないアデリーンの行動には驚く。
「素敵です♪」
「の、濃厚接触ですよ!? ……でも、そう言っていただけて嬉しいです。クラリティアナさん」
「ええ」
――そうして、アデリーンはまた会うことを約束した優里香や彩姫らに見送られると、ブリザーディアに乗って突針町を去った。彼らや、ヤンキー王国のこれからが明るい未来になることを信じて。




