FILE032:人殺しの魔鳥に翼はいらない
お前は赤楚祥吾ではなく、巣立カネツグだろう。――涼しい顔をしながらもその胸のうちには怒りをたぎらせていたアデリーンからの指摘を受けて、コンドルガイストは露骨に震え、焦り出していた。
「違う、おれは赤楚祥吾だと言っている! 巣立カネツグなどでは……」
「地域のイメージアップを図るためにヤンキーだけでなくヤクザまでも殺して浄化したかったけど、カネツグくん自身にはそれをやるためのネームバリューがない。だから、鬼怒越組と喪綿組の抗争でお父さんを亡くしたショーゴ・アカソくんの名を利用して、今まで好き勝手してきた。――違ったかしら?」
否定するコンドルへ対して、アデリーンは冷たい目でにらみながら食い気味に自身の推理を語る。もはやこれは事実。身構えている鬼怒越組長もにらみを利かせていた。
「そんな人間は知らない! 死ね鬼怒越ぃぃぃいいいいい!! 父さんの仇だぁ!!」
「……だだだだだだだだだッ!」
見苦しく言い訳を続けた挙句、翼と一体化した両腕を広げ、鬼怒越組長に襲いかかろうとしたコンドルにアデリーンは制止をかけると容赦なく殴りかかり、更にラッシュをかけて弱らせる! 畳みかけられ大ダメージを受けると、コンドルガイストは変身を解除。現れたのは――アザだらけのアフロ頭のヤンキー少年。アデリーンが突針町を訪れたときにスケバン衣装を勝手にプレゼントして行った、ヤンキー集団の1人・巣立カネツグだ!
「キエエエェ…………!? ば、バレたのか……!? まずい!?」
「やはりそうだ……。あの日、優里香さんの元へ謝罪に行った時に見た祥吾君は泣き崩れていたが、純粋な瞳をした若者だった。このような外道に堕ちるはずがなかったのだ」
鬼怒越組長がカネツグの醜く歪んだ顔を見ながら真摯に語る。赤楚の父の件では負い目を感じており、なおかつ、ほんの少しでも償いをしたいと望んでいたのだ。両雄に囲まれてカネツグは呼吸を激しく乱し、アデリーンから後ずさりするが、その背後には鬼怒越がいる。逃げようがない。そのアデリーンはカネツグに更に近寄り、彼の肩を持って説得しにかかった。これでも彼が応じないというのであれば、その時は――。
「こんなこと今すぐやめて、警察に行って自主してきなさい。鬼怒越組長も許してくれているうちに!」
「あ、姐さん……そういうわけにもいかないんスよ。おれは、自分がやってきたことが、間違いだと思いたくない」
「あなたがそうやってこんな悪行を重ねるほどみんなが、ご両親が悲しむのよ!」
「う、う、う、うるせ~~! おれは間違ってなんかいないんだあ!!」
≪コンドル!≫
自身の非を認めようともせず、極限まで追い詰められてヤケを起こしたカネツグは、赤いエネルギーやスモークを発生させてからまたもコンドルガイストの姿へと変身。羽ばたいたり火を吐き散らすなどして暴れ出すがアデリーンに取り押さえられ、彼女が発した強力な冷気により凍結させられるのだった。能力を行使する姿は鬼怒越組長に目撃され、彼は目を見開く。
「さっきからのその氷を操る力はなんだ!? ギターの上手な娘さん、あんたはいったい……」
「アブソリュートゼロ、通りすがりのヒーローです。……このことは他言無用で」
別に隠す気は無かったので自信に満ちた笑顔を見せて、アデリーンはヒーローとして名乗りを上げる。そういえば孫が好きで尊敬しているヒーローとしてその名を挙げていたかもしれない。と、鬼怒越は回想し、納得した。
「それより組長さん、生き残った構成員の皆さんを連れて連れて早く逃げてください! 私は怪人をこのお屋敷から引き離します」
そう言って凍らせたコンドルをつかみながら屋敷を飛び出し、付近の山々へジャンプする! 迷いのない一連の行動は、鬼怒越組長が息を吐く間もなく行われた。当のアデリーンは山中の採石場に移動したようだ。
「せええええ―――――――い!!」
力強く放り投げて地べたへ叩きつける! 落下の衝撃で氷が砕け散り、中から出てきたコンドルはしばらく痙攣するほどのダメージを受けて激痛のあまりけたたましい雄叫びを上げた。
「キエエエエ~~~~~~~っっっっ!? こ、この、ちくしょお……邪魔ばっかしやがってぇ!!」
「いい加減にしなさい。ショーゴに謝って、自首して! 罪を償うのよ!」
火を吐き、羽根手裏剣を飛ばし、実は筋肉の塊も同然である翼と一体化した腕も振り回して、必死で抵抗するコンドルだったが、力量も技術もアデリーンの方がはるかに上で、少し問答している間に押されていた。何度も顔面を殴られてもうダウン寸前だ。
「あなたにもご家族がいるんでしょう。こんなことばかり繰り返して、恥ずかしいと思わないの?」
鋭いハイキックがアゴ下に炸裂してコンドルガイストは苦痛にあえぐ! 転倒するも顔を上げ、逆ギレすると血に飢えた獣のごとく唸り声を上げた。
「姐さん……、いやNo.0ぉ! 今やおれは脳も体もすっかり改造された、ヘリックスの怪人だあ! 親などこの手で殺してやったわァ~~!!」
今度は開き直ったコンドルガイスト。もはや怒りなのか笑いなのかもわからなくなった感情をぶちまけると共に、アデリーンが少し動揺してひそかに怒りを燃やし始めたことに気づくことなく言葉を続ける。
「それに!! 生きていたところで、おれのことを想ってなんかくれなかっただろうよぉ!!」
人間らしさを捨て、自ら手にかけた両親とは家庭内で何かあったようだが――。どこまでも自己中心的、思い上がりも甚だしい。切れた。アデリーンの中で、決定的な何かが……。
「……もういい」
呆れた口調で、仮面の下では――覚悟を決めた、鬼のごとき形相を浮かべていた。そして次の瞬間、コンドルガイストの翼を手刀で切断! 必死の叫びに耳を貸さず、更に輝くほど冷たい吹雪を辺り一面に発生させてコンドルガイストを動けなくした。こうなったら最後、敵にかける情けも容赦も必要ない。
「アイスロックスロー!」
氷の中でコンドルガイストが怯えていることなど、こうなれば知ったことではない。持ち上げるとそのまま崖まで持って行く!
「地獄へ行け!!」
投げた。思い切り、なんの躊躇もなく放り投げた! 何度もゴツゴツした崖の斜面にぶつかった末、崖下に落ちたコンドルガイストは大爆発。
「キエエエエエエエエエエエエエエエ~~~~~~~~~ッッッッッッ!?」
断末魔の叫びが山中に響いた。アデリーンは飛び降りて砕けたコンドルの遺伝子を持つ赤色のジーンスフィアの回収に向かい、そこで赤く光る破片を拾うと仮面だけを外し、黄金色の長い髪を風になびかせて一息吐く。その瞳は何を見つめ、何を思うのか。加害者であると同時に、奴もまた、ヘリックスの被害者でもあったのだ。しかし、死人に口なし、真実を知る者はわずか。アデリーンはとある誓いと覚悟のもとに、採石場から去って行く。
「ちっ、コンドルガイストのバカめ。口ほどにも無い……!」
ずっと隠れて、アデリーンに知られず戦いを見ていたスコーピオンガイストこと禍津――赤黒いレザーファッションの男性は舌打ちする。目を丸くして顔面に青筋を立て、心底悔しそうに歯ぎしりしてから帰還した。




