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【5th anniversary!】アデリーン・ジ・アブソリュートゼロ  作者: SAI-X
【第5話】魔鳥コンドルの断末魔
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FILE031:トリ野郎がニクい!


 次の日の朝、ミヅキが突針駅前にたむろしていたところを見かけたアデリーンはこう持ち掛けた――。


「この街に潜んでる鳥の怪人を追うのを手伝って欲しい? えー、やめときなよ。ワタシもアデレードも殺されちゃうよ。それにまだ怪人がいるって決まったわけじゃ……。例のあの赤い羽根だってもしかしたらさ……」


「大丈夫です。私、死なないので」


「い、いや、命あっての物種じゃない?」


「そこを何とか! ジャーナリストやってるミヅキなら私より情報通かなって思ったから、それにミヅキも真実を知りたいでしょう?」


「わ、わかった! しょうがないな。手伝うよ! その代わり、ちゃんと警察にお願いするんだぞ」


「――ありがとうございます!」


 祥吾がひとまず無事であることがわかってからというもの、アデリーンは禍津らの証言をもとにミヅキの協力も得て、コンドルガイストの正体を探るべく「赤い羽根」と「血痕」を手がかりとして痕跡を探り始める。民衆と警官が大勢集まっていた第1の事件現場、殺人を未然に防いだ第2の事件現場となった埠頭、アデリーンも気づかぬうちに第3の事件が起こっていた駅前の倉庫裏――。しかし、いずれも謎を解くまでには至らなかった。


「何が街のイメージアップのためよ。逃がしはしない……」


「あ、アデレード? 顔めっちゃ怖い!?」


 コンドルガイストの非道にわなわなと手を振るわせ、アデリーンは怒りを示す。ミヅキは彼女のあまりの剣幕におびえた。そして、翌々日。アデリーンは優里香を連れて、突針学院大学病院にある祥吾の病室へ足を運んだ。


「わざわざお越しくださり、ありがとうございます。祥吾さんのほうから、お母様とアデリーン様にお話ししたいことがあるそうです」


 女医の各務彩姫(かがみ さき)が笑顔であいさつする。艶のある黒髪が今日も美しい――。地方勤務ながらこの病院が誇るスーパードクターだ。彼女やほかの医師・看護士たちが最善を尽くした結果、祥吾はたちまち回復しつつあり、今はまだ松葉杖が必要ではあるが歩けるようにはなっていた。


「僕、見ちゃったんだ。誰かが変な鳥みたいなモンスターに変身してるのを。そいつが、僕の名前を勝手に使ってヤンキーを殺したのを……!」


 なんと、祥吾の名を騙った上で殺人を!? 既にコンドルガイストを見たことがあるアデリーンにも、まだ見たことのない優里香や沙樹にも衝撃が走る――。


「怖くなって、大声出しちゃって、そしたら、鳥のモンスターに見つかって、前が見えなくなるまで殴られて……気がついたらここにいたんだ」


 彼自身がそう証明したことにより、あのコンドルガイストが祥吾ではないことは確定。それは良かった――……。だが、()()()()()()()。ヤンキーはおろか、目撃した祥吾に対してもそこまでやったというのか。結局、「殺せれば、破壊衝動を満たせれば誰でもよかった」と言っているようなものだ。


「……カガミ先生、ショーゴくん以外で最近入院した患者さんの中に、鳥のモンスターに襲われたと言っていた人はいませんでしたか?」


「はい、突針港のほうで青と白のヒーローに助けてもらえたとおっしゃっていた方でしたら担当しました。比較的軽傷でしたので今はリハビリ中です」


「ありがとうございます……!」


 恐らくは、あの時港湾地帯で助けた男性だろう。何にしてもアデリーンはホッとした。そして、考え出す――。ここまでに得た情報をすべて処理して整理、真実を導き出すために。


(コンドルガイストに変身していたのはショーゴくんの名を利用したい何者か。動機はイメージアップの邪魔になるヤンキーや街のゴロツキ、ヤクザの排除……。ショーゴくんはかつてそのヤクザ同士の抗争でお父さんを失った……)


 人造人間――アンドロイドまたはサイボーグとして生を受けたゆえか、アデリーンは考え事をする際に一度深く集中すれば周りを気にせず思考に耽れるようになっていた。が、もちろん周囲のやり取りは目にしているし耳も聞こえいている。


(とすれば犯人はショーゴくんを知っている人だろうけど、ユリカさんやカガミ先生がこんなことするとは思えない。担任の先生の仕業とも思えない。となると、ほかには友達や知り合いの誰か。……友達? ハッ!?)


 その時、アデリーンの脳内でエンジンがかかり、ここに来てから今日までの記憶がよみがえった。一気に振り返ると必要かつ有力そうな情報のみを抜き出し、そして――結論に至った。


「……つながった。脳細胞がトップギアだわ」


「車好きで頭脳派気取りの火の玉小僧な刑事さんみたいなことをおっしゃるんですね」


 彩姫に茶化してもらい場の空気を一度明るくしてもらった中、大事な話をしたいアデリーンは咳払いする。別に恥ずかしかったからではない。


「……皆さん。ユリカさんには一度お話ししましたけど……。その鳥のモンスターはディスガイストという怪人のうちの一種です。また祥吾くんを狙ってくるかもしれません、ユリカさんも、サキ・カガミ先生も、気をつけてください」


 一斉に注目を集める中、アデリーンは真剣な表情を見せながら語る。正体は伏せているがアブソリュートゼロとしての言葉であり、同時にアデリーン・クラリティアナとしての言葉でもあった。


「ですけど、アデリーンさん。あなたは……」


「アブソリュートゼロに助けを求めてみます」


 彼女がその名を出したとき、祥吾や彩姫はピンときた。いや、優里香もだ。


「アブソリュートゼロって、今ネットで話題になってるあのヒーローさんのことですよね?」


「きっと助けてくれます。私たちのことを……!」


 そのアブソリュートゼロは今まさに祥吾らの目の前にいる、彼女のことなのだが、彼女はそれを伏せたまま、他人のことのように振る舞う。これ以上祥吾たちのことを不安にさせないためだ。


「お願いします。祥吾さんや、ディスガイストに襲われた皆さんのためにも……!」


「わたしからもお願いします!」


 けれども。この中の3人とも、もしかしたら薄々感づいていたのかもしれない。彼女――アデリーン・クラリティアナこそがアブソリュートゼロその人だということに。


「承りました……!」


 ――『ヒーローに伝える』、という名分であったが、実質怪人を倒すことを引き受けたようなものだった。しっかりと聞き届けたアデリーンは祥吾たちに笑顔を贈って励まし、病院を発つと道路を走りながらコンドルガイストを追う。街中を通っていると、なんと頭にハチマキを巻いて特攻服も着た集団が表れて道を横断した!


「どけどけ~! 邪魔だ邪魔だ! どけどけ~!」


「珍走団!? 今のご時勢に珍しい……」


「おわッ! すんません! どうぞどうぞ! サーセンしたッ!」


「え? ありがとう……ございます……?」


 年号もとっくに変わっているというのに。いや、そもそも今は新年号なのか? まだ年号は変わっていないのかもしれない。今はそんなことを気にしている場合ではないのはわかっているのだが――。なぜか通りすがりの珍走団に道を譲られたので、ちょっとあいさつしてから通過するアデリーンなのであった。


「はっ!?」


 その時、アデリーンの人造人間ならではの超感覚が何か察知した――。ディスガイスト反応だ。その反応が出ている先で何か起こっている証拠である。


「こっちね」


 そうして彼女が向かった先は――鬼怒越組の本部だ。



 ◆◆◆◆



 戦前からの伝統あるヤクザ組織。それが鬼怒越組であり、彼らは街外れに携えた大きな日本屋敷を本部として活動していた。喪綿組とはライバル関係にあり、幾度となく抗争を続けてきたが、3年前に起きた争乱に赤楚祥吾の父が巻き込まれ死亡。それが今この突針(つっぱり)で起きている事件の発端となった。そして今、他ならぬこの事件の元凶が襲撃をかけて次から次へと構成員や幹部らをなぎ倒し、あるいは――なぶり殺しにしていた!


「この街を荒らし、ウチの者たちどころか、カタギの皆さんを大勢殺めて、あまつさえ喪綿(もめん)組まで滅ぼして……お前は何者だ!?」


鬼怒越(きぬごし)組組長の鬼怒越克太郎(きぬごし かつたろう)だな?」


 組長の部屋にて、赤い羽根に機械化された体を持つ怪人・コンドルガイストが黄色い目を光らせながら高齢ながら貫禄のある白いヒゲで顔面にいくつもの傷跡がある和服の男性――鬼怒越組長を追い詰めていた。


「おれは赤楚祥吾。あの日、貴様に殺された赤楚という男の息子だ!」


「なに! お前が赤楚の……? でたらめを言うな。()()()()()()()()が、お前のような心無いバケモノに()()()()()()()


「いいや、おれこそが赤楚祥吾だ! そしてすべては貴様に復讐する前のデモンストレーションに過ぎなかった。そうさ、喪綿(もめん)組を病弱な組長と組長の一人娘を残して全滅させたのだって、貴様への見せしめ……ギギギギッ!?」


 その時、屋敷内に唐突にフラメンコギターの音が響く。コンドルガイストは頭を抱えて苦しみ出すが、鬼怒越組長はその逆――ギターから奏でられた繊細で優しい旋律に感動していたのだ。


「友達の名前を勝手に使うなんて、良くないんじゃない?」


「っ!?」


 クールで落ち着いた雰囲気の女性の声だ。驚いてキョロキョロと周りを見渡すコンドルガイスト。一方の鬼怒越組長は冷静に前だけを見つめていた。フラメンコギターを弾き終わった赤と青のジャケット姿のアデリーンが涼しい顔をして、コンドルガイストの背後に立っていた姿もその目で見ていたのだ。


「お嬢さん、ここは危険だ! 下がってなさい……」


「いいえ、下がりません。このモンスターを止めるために来たのです」


 ギターをしまい込んだ彼女は一転して剣呑な顔に変わり、苦しむコンドルガイストに無駄のない洗練された動きでパンチとキック、果てはチョップで追い討ちをかけてひるませた。修羅と化したかと見せかけて、彼女は不敵に笑うと次にこう言い放つ。


「コンドルガイスト……いえ、()()()()()()()くん。あなたなんでしょう?」

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