FILE236:帰還したけど、これからどないしよ!
ホワイトオルカへの帰還を無事に果たした3人は、手厚い歓迎と賛辞を受けながら応接室へと向かう。そこで入れてもらった水やお茶でも飲んで休憩しつつ、今後について話し合うのだ。
「ビッグガイスターはまだ健在だが、アデリーンのおかげで敵は修復作業に追われてんてこ舞いさ」
「『彼』は人々の精神を邪悪に変えて殺し合わせる機能まで搭載していたけれど、当分使うことなんてできやしないわ。となれば、残ったヘリックスの各人で世界を都合の良いように作り変えることも叶わない。問題なのは、それを受けて敵がなりふり構わなくなるってこと……」
笑顔で取り繕っては見せたものの、やはりというか、彼女らは心から喜べずにいた。居住区に囚われた人々は助けられなかったし、件の土偶のような機械仕掛けの巨人とて完全には破壊しきれなかったのだから。ひとまず水やコーヒーを飲んで、自分を落ち着かせた。
「その辺は我々でなんとかしましょう。敵の本拠地も攻撃できて、少しは、溜飲も下がりましたから」
そんな彼女たちのために助け舟を出したかったのがこの男、コーディーことカイル・コーデュロイである。適切な治療を受けてすぐだったためか、頭に包帯を巻き松葉杖まで突いている。衣服の下にも実は念入りに、らしい。本人にそのつもりはなくとも両脇に女性オペレーターがついてくれていたため、至れり尽くせりだ。
『アデレード! トラさん! うまく行ったっぽいね?』
「ミヅキじゃない! あなたたちこそ何も起きなかったのね?」
そこでWeb会議システムを応用した通話機能により、病院にいる蜂須賀蜜月らがモニターに映し出された。少しの間会わなかっただけなのに、アデリーンたちにとっては数ヶ月から数年ぶりに会ったような懐かしさだ。
『剣持さんは無事よ~ん。ヘリックスのヤツらね、なぜか全然攻めてこなかったんだわ。あんたたちが頑張ってくれたおかげかな?』
『体調も良くなりつつあって。確実にいい方向に向かっています』
蜜月と彩姫がモニター越しにその件を知らせたのち、ロザリアにベッドまで駆け寄られ「え、えへへ……」と、少し微笑んでピースしてみせる剣持。その彼を見てアデリーンと虎姫は安堵し、笑みをこぼす。
「よかった……」
カイルもまた、そうつぶやいた彼女らを見て「いい仕事ができたよ」と言いたそうに誇らしげにして笑う。オペレーターを務めるシモーヌとミュシアも、嬉しそうだった。
「ご協力感謝します。我々が更に敵の戦力を奪って、行動を起こしにくいようにしておきますので。何も心配はいりませんよ」
紅茶を飲んで一息ついてから、カイルはその旨を全員に告げる。もちろんモニターの向こうで見てくれている蜜月たちにもだ。剣持にとっては何が何やら……かもしれないが、彼も決して無関係ではないし、そもそも部外者ではなくなった。
「『裁きの雷作戦』、だったかしら?」
「そうです。準備が整い次第、一気に敵を叩き壊滅に追い込む……という内容だ」
穏やかになれていたカイルが、また目の色を変える。ミュシアとシモーヌとしては頼もしい反面、複雑だ。
『また、今日みたいにヘリックスシティまで乗り込むってことですか? あたしも、あんまり危ないことばかりしてほしくないかな……』
「今度は、アデリーンさんたちの手は借りないよ。オレたちだけの戦い、オレたちの責任」
ロザリアが心配してくれたのをよそに、カイルは右拳を見つめ握りしめる。周囲の優しさを無下にしたくない気持ちもあったのだが、彼も司令官として止まるわけにはいかない。断腸の思いだったのであろう。
「別に止めやしないわよ。でもね、どこかで思いとどまることは視野に入れたほうがいいかもよ。コーディー……」
「……わかっている……」
アデリーンから心配して言ったことが図星だったか、カイルは苦虫を噛み潰したような表情をして顔をそらした。
◆
それからしばし経ち、空と海がオレンジ色に染まった頃。リモートで報告し合うのを終えたアデリーンたちはカイルにある誘いを持ちかけていた。
「の、飲み会? オレたちからの施しは受けたくないって……」
困ったカイルにアデリーンが「ぐいぐい」、と迫る。緊張と気まずさから、彼は普段からは想像もつかぬような引きつった顔をした。
「違うの! そう肩肘張らずにさ、あなたもお呼ばれされる側になってみない」
「知り合いの結婚式に出るんじゃないんだぞ……」
後ろでミュシアとシモーヌが談笑する。アデリーンが彼をほぐして楽にさせてやろうと気遣って誘ってくれたのを、ふたりともわかっていたのだ。
「たまには、陸に上がってのんびりしてみませんか」
虎姫も色目を使ってこう言ったが、カイルは苦い顔をしながら少し戸惑った末……。
「オレはアンチヘリックス同盟極東司令部の長だ! 遊びすぎでは本部に示しがつかないよ。だからお断りさせてもらいます」
本当は行きたかった気持ちを押さえ、真面目な顔をして首を横に振った。周りは至極残念そうだ。
「そっか……そうやって交友関係を狭めたいのね。ガックリだわコーディー」
いち早く執務室の出入り口に向かったアデリーンを見て、カイルは焦る。虎姫は彼女を止められず、ミュシアとシモーヌは見守ることしかできない。
「それじゃあね、モチキリくんに顔を見せておきたいから」
「そ、そうだね? そのほうがいい。オレたちのことは気にせず彼に会いに行ってあげてください」
潔くひとまずの別れを告げ、アデリーンと虎姫は専用のマシンを召喚。前者はメタリックブルーと白に染まった大型バイク・マシンブリザーディアで、後者はサイドカー付きのこれまた大きなバイク・グランドスライダーだ。ワープ走行システムを使って、このホワイトオルカ号のメインデッキから陸へとワープした。
「オレにはそんなに遊び心も、愛嬌もないってわけか……」
ふたりが帰った後、カイルは窓から空と水平線を見つめてため息をつく。かなりショックを受けていたのは、想像にかたくない。
「まーまー、元気出してくださいって?」
「しゅん……」としていた司令官兼恋人のカイルを、シモーヌは慰め、その友人であるミュシアもカイルをなだめた。




