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FILE233:コーディーの戦い


 その頃のヘリックスシティ、ギルモアの玉座にて――。


「ガーオー……情けない山ザルだ。ネズミどもに混じった()()()1匹殺せんとは」


 片目にアイパッチをつけたライオンの怪人は、画面に映った申太彦の戦いぶりをこき下ろす。全身が金色のボディは、やはりメカニカルだ。


「そう言ってやりなさるな。申太彦はああ見えてやれる男ですよ。()()()()()……」


 その隣に立っていたのは、青黒いバッファローのようなサイボーグ怪人だ。顔はバッファローそのものではなく、悪魔を連想させる無機質なもの。


「支部長さまともあろう方が無様にやられるさまを見るのも、それはそれで面白いか?」


 そう言ったのは、集められたうちの1体であるディノポネラ怪人だ。ドリルドライバーを片腕に備え、顔の両横についた鋭いアゴ型のパーツがより凶悪さを引き立てている。『悪のディクテイター』を自称しているとか、いないとか。



 そのときだ。玉座の間の大扉が破壊され、誰かが乱入してきたのは。


「何奴!!」


 ギルモアが驚くあまり立ち上がったのを合図に、その場にいた誰もがその侵入者に振り向き注目する。紫色の光る刀身を伸ばしたその剣をたずさえていたのは、アデリーンたちと別行動をとったばかりの彼だ。彼は強い怒りを秘めながらも、表面上は笑ってみせて複雑な顔をしていた。


「……幹部の皆さんも、ディスガイストどももお揃いで。オレの顔を忘れたとは言わせないぞ、ギルモアッ!」


「まだ敵討ちにこだわっているのか? コーデュロイのせがれめ、あきらめの悪い……」


「あいにくさまだね! 貴様を討ち取るまでは死ねない!!」


 排除しようと寄ってくる警備のシリコニアンたちを剣捌きや体技で返り討ちにすると、まっすぐギルモアの首をとろうと走り出すがその前にケネスが立ちはだかった。皮肉な笑いを浮かべて――。カイルはそれが腹立たしいが、それとは対照的にヘリックスの構成員たちは盛り上がった。


「アンチヘリックス同盟のネズミの頭目を狩るのは、『イングランドの告死天使』と謳われたこのケネスに任せていただこう」


 《レイブン!》


 ミッドナイトブルーに光る、ワタリガラスの紋章入りのジーンスフィアをねじって電子音声を鳴らしたその時、彼の秘書であろう緑髪のジェニファーがニコニコと微笑みながら止めに入る。実際、カラスの紋章が刻まれた黒紫のジーンスフィアを持つ男が代わりに躍り出たのだ。


「まーまー、ここはもっと血の気のあるコに任せてみましょうよ。ケネス?」


「やれやれ! 君に言われたんじゃ仕方あるまい」


「ケネス支部長のお手をわずらわせるまでもありませんよ」


 どこか紳士的な振る舞いを見せたケネスから快く譲られて、その男、髪型はダックテールの――ジャックドーがジーンスフィアをねじる。


《クロウッ!》


「カアアアァーアアァーッ」


 彼はたちまち黒いカラスのような怪人に変身した。半分機械仕掛けの体にストールを巻き、その手に持った大鎌でヘリックスに仇なす者を葬り去るのだ。


「お前はー、どのみちここでぇー、総裁の御前で公開処刑ェーい、されるのだァー」


「極東の司令官に過ぎないお前を殺したら、同盟全体のトップはどう動くかなぁ?」


「あなたを失ったネズミさんたちの動向が楽しみですこと」


 カイルは強いがクロウガイストへと変身したジャックドーには到底及ばないと踏んだ幹部たちは、彼を嘲笑う。イタリア支部のコニーリオ夫妻も、大西洋の魔女ことジェルヴェゼルもだ。


「やられるかよ! クサレ外道ども! オレは貴様らのために、両親を、親代わりになってくれた前司令官までも奪われた! 見過ごしておけると思うか!?」


 そう何度とネズミ呼ばわりされ続けて耐えられるほど、彼も大人ではなかった。最後まで抵抗する覚悟を持って、専用のビームソード・【エスカトン・エルピス】で果敢に斬りかかってジャックドーを相手に食らいついている。


「カアアアァーアアァーッ」


 だがジャックドーはそんなカイルに華を持たせてやるほど甘くはない。何度か切り結んだ末に、カイルを張り倒してマウントをとるとその首に、大鎌の切先を向けたのである。苦悶の表情をする彼とは違い、ジャックドーはほくそ笑む。周りは当然、大興奮だ。直属の上司である久慈川や、彼とも仲の良い幹部メンバーたちも自分のことのように喜んでいる。


「カラス野郎……! ガァガァ騒ぎながらゴミを漁っていればいいものを!」


「我々の船舶を借りパクした貴様に言えたことか。おれひとり満足に倒せん貴様が、我々ヘリックスを潰せるとでも?」


 アンチヘリックス同盟の極東方面を背負って立つカイルを追い詰めたクロウガイストこと、ジャックドーへ便乗したくなったのか、ギャラリーに徹していた他の構成員も続々と名乗り出た。敵の指導者を殺し手柄を立てるまたとないチャンスであれば、逃す手はないのだ、彼らにとっては。


「ジャックドー、あんたばかりずるいよ。ネズミ狩りならお任せを」


 《クレイフィッシュ!》


「こいつは面白い。総裁の御前で、総裁ご公認の公開処刑ときた」


 《コブラ!》


「乗らない手はないですなあ」


 《ソードフィッシュ!》


 ジャケット姿で精悍な顔つきの男、革ジャンをはじめとするカジュアルな格好をしている茶髪で青ざめた肌の男、キザな振る舞いを見せる服装も見た目もゴージャスな男が、それぞれジーンスフィアをひねって一斉に電子音声を鳴らすと――。赤と青のツートンカラーに染まった堅牢なボディを誇るザリガニ怪人、スリット状の仮面から緑色の目をのぞかせる青緑色のコブラの怪人、シンクレアで武装し鋭利な紫紺色の体をしたカジキの怪人へと変わり、ジャックドーと徒党を組んでカイルに襲いかかった。


「マッカチ――ン!」


「ヒューッ!」


「エンガァー!」


(耐えろ、耐えるんだ。アデリーンさんや、テイラーさんのため、同じアンチヘリックスのみんなのためだ……)


 マイクロミサイルが飛ぶ! 腕と一体化したマシンガンによる一斉射撃! 2本のシンクレアから繰り出されるは激しい剣技! それらすべてがカイルを容赦なく襲う。


「おいおい、みんなはやるなよな。おれだけで十分なのに。まあいい……賊の首をギルモア総裁に捧げてやるか」


 あきれた口調で独りごちながらも、ジャックドーはカイルへの攻撃を再開。4人がかりでもはや戦いとすら言えない、殴る蹴るの暴行を行なって彼をますます追い詰める。だが、カイルとてやられてやるつもりはない。すべては時間稼ぎをして、アデリーンたちが動きやすくするため。あとは彼の忍耐力がどこまで続くかが問題だ。



  ◆



 その頃アデリーンは、ふたりの仲間に託された願いを無駄にしないため妨害電波塔へと辿り着き、それを破壊するべく威力に秀でた超低温の電磁ナパームを放つビームランチャーを選択。こういうランチャーやバズーカ系の武器は、敵地の破壊工作には効果覿面(てきめん)なのだ。


「目標捕捉。内部に人質は……いないみたいね? 労働用のシリコニアンだけ」


 あらかじめ変身したアデリーンはスキャンを済ませ、確認してから目標を狙い撃つ。その時だ、異なる虫同士をかけ合わせたような風体のキメラじみた怪物の群れが現れ、彼女の邪魔をしたのは。


「ズモ! No.0め、こんなところにまで!」


「寄ったら撃つわよ。寄らなくたって撃つ! どいたどいた!」


 相手は特殊上級戦闘員のエンブリオンだ。だからといってアデリーンは引き下がらない。現に、忠告すると同時に1体を砲撃し塵芥にして敵を驚愕させた。


「い、粋がりやがって。ズモモー!」


「こんな妨害電波塔はぁ、粉微塵にする~~ッ!!」


 撃った。超低温のエネルギーを限界まで溜め、フルパワーで――! 蒼い極太のレーザービームがそびえ立つ邪悪なタワーを貫いたのだ。それだけではなく、アデリーンはそのビームで周囲の敵を薙ぎ払ってもいた。


「し、しまったア」


「ズモオオオオ!?」


 アデリーンたちの目論見通り、ヘリックスシティが誇る妨害電波塔は大爆発。木っ端微塵に吹き飛んで崩壊し、その余波でエンブリオンたちも全滅、巨大な穴だけがポッカリ開いて残った。


「まずはひとつ!!」

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