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【5th anniversary!】アデリーン・ジ・アブソリュートゼロ  作者: SAI-X
【第28話】颯爽登場!白銀のニューフェイス
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FILE225:ハラハラ交換会!?


「あなた、兜円次ね……?」


『No.0からでも教えてもらったのかい? よくご存知じゃないか。……2人を返してほしければ、ヒルトップの外れにあるエイドロン社の実験場跡まで来い。そこでビッグガイスターの設計図と交換だ』


「なんですって!?」


『親父に続いて弟と妹分を失いたくないだろ? 素直に言うことを聞くんだ』


 まだ、そんなものを欲しているというのだ。世界征服のために。彼らはあきらめが悪い――。綾女は真に受けず視線を小百合へと移すが、相談を始める間もなく敵側は話を続けようとする。


『ね、姉さん! ダメだ!』


『小僧、大人同士のやりとりに口を挟むな!!』


 ノイズとともに、スマートフォン越しに竜平が暴力を振るわれる音が綾女の耳に入った。


『もし要求が飲めないと言うのなら、2人の命はないものと思え。お前たちの回答を待っている! ウワーッハハハハハ!』


 そこで電話は切れた。どうすることもできない、だが、設計図を隠し場所から持ち出して取引の場に持って行くこと、それだけは絶対にやりたくない。竜平たちの身の安全は気がかりだが、ヘリックスが約束を守るとは思えないからだ。気になる設計図の保管場所だが、父・紅一郎の部屋の引き出しの奥……ではなく、床下、でもない。クローゼットの奥でも、ましてやベッドの下でもない。完全にシークレットなのだ。


「アヤメ姉さん! 『密偵家族』、とても面白かったわ。素敵な漫画とラノベを紹介してくれてありがとう! って……」


 そこで突然、借りたコミック本を返しにやってきた笑顔のアデリーンが渦中にある浦和家を訪問したが、綾女も小百合も浮かない顔をしているのを見て少し曇った。


「それどころじゃなかったみたい」


「ご、ごめんよアデリーンちゃん。ウチの竜平と葵ちゃんがね、ヘリックスにさらわれちゃったみたいなのよ……」


「あいつら、性懲りもなく例の設計図を要求したのよ。これから父の部屋を探して現物を」


 やむを得ず行動を起こそうとした綾女と小百合から話を聞くと、「それには及びません」と、アデリーンは2人を引き止める。


「焦っちゃダメ。あんなド外道どもには渡さなくてけっこう!」


 『聖魔の戦士サーヤ』という女の友情の素晴らしさが書かれたライトノベルを貸すつもりだったのだ。誘拐事件さえ起きなければ――。それはそれとして、アデリーンは該当するラノベの1巻から4巻までを置いていく。


「サーヤじゃない、これ読みたかったの! ありがとうねぇ……」


「ヘリックスには、設計図のニセモノをくれてやるわ。アヤメ姉さんとサユリ母さんが苦しむ必要はない」


「弟と葵ちゃんのためにそこまでしてくれるなんて、嬉しいわ。……お願いね」


「困った時は助け合わなきゃ。そうでしょう」


 快く引き受けたアデリーンは、2人の耳元でたった今立案した作戦の内容をささやく。



 ◆



 その頃、テイラーグループの日本支社お抱えの研究所にて。アンダースーツに着替えた虎姫が銀色の髪を1本にまとめて、ウォーターサーバーで仕入れた天然水で水分を摂りながら何かを待っている。傍らには、パワードスーツのデータを打ち込んでいる研究員たちや、家族と連絡を取り合っている秘書の環の姿もあった。


「いい子にしてたかな? 今度帰る時は社長さんも一緒だから、あんたと私でまた遊びに行こうね」


「最終調整完了しました。ロールアウトはいつでもいけます」


 環が大切な家族との通話を終えたその時、片桐ら研究員による作業工程はすべて終了した。ガラス越しに、コードなどで繋ぎ止められたシルバーホワイトとブラックの装甲がまばゆい輝きを放っている。


「ありがとうございます。社長、どうなされますか?」


 これから装甲をまとうことになる主役は、慌てて水を飲み終えて咳払いをし、気を取り直そうとする。そうした微笑ましいところも見せてから、虎姫は自身のもとに集まった頼もしき部下たちの前で息を吸い込み、精神を落ち着かせる。


「両親はわたしに『ブレイキング・タイガー計画』を完遂させてくれ――――と、そう言っていた。いよいよ実行に移すときだ」


 笑顔で語った虎姫は、環たちも同じように笑顔にするとホワイトタイガーを模したメタル・コンバットスーツをその身にまとう。後はヘッドパーツを装着するのみだ。


「アデリーン、みんな、わたしは……本格的に君たちの役に立ちたい」


 思いの丈を口にした虎姫は勇ましい虎の顔を模したヘッドパーツを被って、最新技術で製作されたサイドカー付きの大型バイクへと乗り込む。


「わたしを導いてくれ、『グランドスライダー』よ……」


 その大型バイクが停められたリフトから秘密の通路へと移動し、虎姫はそこから出撃しようというのだ。



 ◆



 ロザリアや蜜月にも話をつけて合流したアデリーンは、敵から指定されたヒルトップ、つまり丘の上の地域まで専用バイクで並走。ロザリアは炎の翼をはためかせて、遅れを取らぬようにぴったりとくっついて行ったようだ。


「ここみたいね。例のガソリンスタンド跡地を指定してこなかったということは」


「アジトがあるのはそっちってことですね」


「ちょっと違うかな……」


 そこで、スマートフォンからではなく、腕時計と一体化したアデリーンの変身ブレスレットに通信が入った。虎姫からだ。


『こちらテイラー。……何が起こっても、君たちは何も心配することはないよ。わたしがなんとかしてみるからね』


「その口ぶり、もう例のものが完成したってわけね? 無茶はしないでよ」


 少し憎たらしい口調で返事を終えて、アデリーンは蜜月とロザリアとともに不気味なほど静まり返った施設の入り口に立つ。外観は機能的かつ近未来的であり、悪の組織の隠れ蓑にさえ使われていなければ……そう思わせる場所だ。


「ジャキィィ~~~~~~~~~ン! ……待っていたぜェ、お前らを切り裂くこの時をな」


 物々しく開いたハッチの先で彼女たちを待ち受けていたのは、全身刃物のサイボーグ怪人へと変わり果てた剣持桐郎と、椅子に縛り付けられた竜平と葵。そして、施設内の吹き抜けから文字通り高みの見物を決め込むヘリックスの幹部メンバーらだ。全員と戦う可能性も危惧してか、アデリーンたちにますます緊張が走る。


「また、モチキリくんをこんなことに……。彼とリュウヘイたちを解放しなさい。痛い目を見てもいいの?」


「そうだ。ワタシたちはそれほど待てないぞ」


「待てないのはこっちだ。ごたくを並べてないで、設計図を我々に渡すんだ」


 不敵に笑っている幹部のうち、アデリーンたちと対等の位置に現れたのは赤いライン入りの白ジャケットを着た兜円次と、赤黒いレザーファッションで服装を統一した禍津蠍典だ。


「2人を自由にするのが先です」


「こいつらをォ~、自由にィ~~? ククク……じゃあ、このガキどもが死んじまってもいいんだなぁーッ!?」


 レッドアラクランと名付けたサソリの尾のようなムチを、下卑た笑いを浮かべた禍津が竜平と葵にあてがって挑発。ロザリアと人質にした2人を煽ったが、蜜月がジェスチャーで呼びかけ落ち着かせる。


「品のない。禍津、貴様らしくないぞ」


「何を言う。こうやって焚きつけないと、このヒーロー気取りの偽善者どもは応じようともしないだろう」


「ふふふふ……♪ 下手な返答は、お控えなさったほうが賢明よ」


 吹き抜けの上のほうから、上品だが静かな狂気を孕んだ女の声が響く。その持ち主は、青と白を基調とするドレス姿の青髪の長身女性だ。アデリーンたちは彼女のことをよく知っている――! だから、眉を動かして精神的動揺をしてしまったのは無理もないこと。


「ジェルヴェゼルッ」


「私とキュイジーネ君もいるんだ」


「ほぼほぼ勢ぞろいよぉ」


 久慈川やキュイジーネまでもがその場にいる。得意げに薄ら笑いしていただけだが、雲脚昌之も漁夫の利狙いで同席していた。


「ジャキン…………」


 エッジガイストとなった哀れな剣持は、2人を助けんと接近するアデリーンたちに警告するように人質の喉元に大剣の切先を突きつけた。


「彼らの身柄は設計図と引き換えよ。もちろん持ってきたんでしょうね」


「それって前フリかしら?」


「ハァ? まさか貴様……」


 アデリーンから煽られて、禍津以外は聞き流したものの彼だけはいきり立ってムチで地面を叩いてしまう。囚われの竜平と葵はおびえた。


「禍津さん! 抑えてちょうだい」


「ほら。ビッグガイスターのブループリントならね、データ化してこのUSBに記録されてるわ」


「たかだかこの程度のメモリにおさまるものかよ。偽造なぞしてたらタダじゃおかない」


 「ヘリックスの言うことなどハナっから信用していない」――という疑念をあえて表情に出していたアデリーンは、設計図入りのUSBメモリを兜へと手渡す。


「フン! 取引成立だ、用済みだからどうとでもしろ」


 禍津によって雑に拘束を解かれた竜平と葵は、彼に蹴飛ばされる形で前に突き出された。それを許せなかった蜜月は、2人をかばって怒りをあらわにする。


「まだこの子たちに乱暴するのか!」


「あ、アデリーンさん! 蜜月さん! ロザリアちゃん!!」


「怖かったよォォォ――ッ」


 悪党たちのために辛い思いをさせられた2人に、アデリーンたちは優しさを注いでなだめる。泣き出した葵も竜平も、どちらも痛めつけられた痕跡が目立ち、解放されるまでに何をされたかは想像がついてしまう。3人としては、思い浮かべたくもないものだ。


「アオイちゃんはともかく。リュウヘイったら、思ってもないくせにわざとらしいこと言っちゃって」


「もう用は済んだんだろ? それ持ってヘリックスシティに帰んな。ビッグガイスターなんか、完成したところで真正面からスクラップにしてやんよ」


 「シッシッ」と、ヘリックスの幹部たちを追い払う仕草を見せた蜜月の顔は心底嫌そうなものだった。義憤にも駆られていたが、軽蔑の念がこれでもかと込められている――。可能とあらば、アデリーンとロザリアとともに全員仕留めるつもりでさえいた。


「クーックックック~~~~~~ッ!! そうはいかないねえ」


「は?」


 ……案の定だ。狂った笑い声をあげた禍津を見て彼女たちはあらためてこう確信する、やはり信用ならない者たちであると。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」


 もはや狂気と悪意を隠すまでもなく、兜が目をむいて叫んだ。

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