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【5th anniversary!】アデリーン・ジ・アブソリュートゼロ  作者: SAI-X
【第26話】怪談・スティングレイの不可能殺人
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FILE206:そう都合よくはいかない

 

 蜂須賀蜜月や江村家によって機密情報をリークされ、活動の幅を狭められてもなお暗躍を続けるヘリックスは、表向きは様々なものを装ってジーンスフィアの製造と研究を行なっている。社名の頭文字である『E』のエンブレムを掲げ堂々と都内に立つコングロマリット企業・『エイドロン・コープ』も、そのうちの1つだ。そのエイドロンコープが誇る高層ビルの社長室に、件の男――ピンクジャケットをハードに着こなす東雲泰斗が訪れていた。


「やりましたよジョーンズさん! 任意の相手を()()()()させる特殊異能力の実験は、大成功」


 賞状などが飾られ、スマートながらも荘厳な雰囲気が漂っている中にもかかわらず、デスクに座す長髪でヒゲを生やした壮年の男、社長のスティーヴン・ジョーンズに対しても東雲は堂々と、あるいはふてぶてしくそう告げる。自身に満ちた笑みを浮かべている彼を見るジョーンズは、どこか冷たい目つきをしていた。


「お前にしてはやるではないか……。さすがは我が腹心の部下だと、ほめてやりたいところだ」


「惜しむらくは、それで透過させても()()()()()()()()()という点ですが……。発動者であるわたし自身は影響を受けないゆえ平気でございます」


 やや芝居がかった様子で、発現させた能力には欠点も見つかったことを欠かさず伝えた東雲だが、その刹那ジョーンズは急に皮肉な笑みで東雲を萎縮させた。


「だから何だというんだ? 東雲(しののめ)……、実験の報告だけなら、能無しでもできるぞ。お前は()()()()()()()()()んだろう? それこそデリンジャーのようなマヌケとはな」


「は……! はい……」


「お前もあのマヌケのようにみじめに死にたくなければ、新たに開花させたその異能で不死身の化け物(ナンバー・ゼロ)暗殺者崩れ(蜂須賀)を始末してみせろ!!」


 ジョーンズは机を叩いてから東雲を指差し、威圧する。身内だろうと容赦はしないのが彼だ。それだけならば利点にも美点にもなりうるが、彼は非情な男である。その冷酷な考えがかえって同志たちからの反感を買ってしまっているのだ。


「わかったら下がれ。我が権威の象徴たるこのプレジデンツ・オフィスを、土足で穢すな」


「うう……」


 恐れをなした東雲は、尊敬している上司の邪魔にならぬよう社長室を発つ。苛立ちがおさまらない様子のジョーンズはため息を吐き、機嫌が直るまでしばし休憩を挟もうとしたが――その時、電話が鳴った。


「私だ。……なにい? 軍施設に偽装した、ネバダ州の工場と輸送列車をやられただと!? アンチヘリックス同盟がやったのか!? えぇい、そこはもう破棄するッ! あのネズミどもに殺されんうちにさっさと引き上げろ!」


 連絡先へと一通り怒鳴ってから、なおも苛立ちを募らせてスティーヴン・ジョーンズはつい最近起きたことを振り返る。邪魔で仕方なかったドリュー・デリンジャーをついに始末したはいいが、ほかの幹部メンバーたちからはそれを咎められた上に村八分にされたし、ダーク・ロザリアとして利用してやるつもりだったNo.13は最後まで反抗的だっただけでなく、浄化されてオリジナルと1つになってしまった。おまけに、擬似メタル・コンバットスーツまでもがそっくりそのまま持っていかれ、あの娘が持っていた力までNo.13が自分のものとしてしまった。結果として、No.0たちがますます強く厄介な存在となったわけだ。ものの見事に、彼にとって不愉快で不可解で納得のいかないことばかりであった。


(幸福の絶頂にいられると思ったのに、ろくなことがないッ。あの時、私は()()()()()()()()()()()……?)


 そして……ポイントDD640での戦いで自身が見たビジョンはいったい何だったのであろうか。断じて認めたくはない、()()()()見えた彼女のあの荘厳で華麗なる姿は、兵器としての完成形だとでも言うのか。彼は頭まで抱え、未だかつてない焦燥と一抹の不安を感じずにはいられなかった。




 ◇




 その頃のヘリックスシティ、ドリュー・デリンジャーの私室だった部屋にて……。組織のメンバーが数名ほど、そこそこ広かったその部屋に立ち入っていた。


「全部ではないとはいえ、やはり仕事の引き継ぎというのも楽ではないな……」


 この赤毛の伊達男は空き巣をしているのではない、部下とともに使われなくなったこの部屋の整理をしているのだ。「少しきつく当たりすぎたかもしれない」だとか、「彼との付き合い方はあれでよかったのか」だとか、そんなことを振り返りながら。


「ありました、デリンジャーさんの仕事道具一式とメモ帳です!」


「ご苦労、『海老名(えびな)』君! ドリューの遺品は俺のほうで預かろう。勝手に捨てないようにな」


「はい。気を付けます」


 海老名と呼ばれた緑のメッシュ入りの金髪でスーツを着た女性は報告後、収納用に持ち込んだ段ボールやカゴに仕分けする。あまり表立って絡んだことはないものの、ドリュー・デリンジャーのことはからかいつつも尊敬はしていたと思われる。


「む……業務日報という名の日記帳か? あいつも、マメな男だったんだなぁ。伊達にかつて営業成績トップに躍り出たというだけのことは……」


  ところが、兜はドリューが付けていた日記に目を通すと、その内容に手を震わせて唇を噛みしめる。心配になったらしい女性秘書の海老名が、彼のそばに寄り添った。気を遣ってもらえたのが嬉しかった兜だが、素直になれない彼は「いいヤツだと思われたくない」という考えからごまかす。


「あのバカ野郎……!」


 ――この時、兜とその秘書・海老名らのほかに幹部メンバーで茶髪でレザーファッションの男・『禍津蠍典』や、色香漂う豊満なスタイルの女幹部・『キュイジーネ・キャメロン』、アウターを肩掛けしているまとめ役の『久慈川東郎』の姿もあったという。

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