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【5th anniversary!】アデリーン・ジ・アブソリュートゼロ  作者: SAI-X
【第25話】激ヤバ!?捨て身のドリュー・デリンジャー
202/249

FILE194:ごめんねドリュー


「No.0と蜂須賀さえ始末できれば、それでよいのだ。撃てぇい!」


「し、しかし……」


「ではお前から先に死ぬかね」


「……一斉射撃よーい! グルーッ」


 一瞬ためらったシリコニアンたちであったが、命令に逆らえば自分たちもスティーヴン・ジョーンズの手にかかって処刑される。それだけは避けたかったのだ。かつての上司の1人だった男を、ここで見殺しにしてでも。彼らは恐怖に駆られるまま、生き残りたいがために声も手も震わせてドリュー・デリンジャーを撃つ。


「かわいそうになぁ、愚かなドリュー・デリンジャー。お前は最初からその役目だったのだよ」


「ふ、伏せて……!」


 恐怖から過呼吸に陥っていたが、ドリューは己を奮い立たせると残った力を振り絞って蜜月を締め上げていたスティングレイガイストに体当たりをかまし、更に張り倒して気絶させる。その姿は、苦境に立たされあきらめかけていたアデリーンと蜜月に衝撃と感動を与えた。


「へへへ、ネズミや虫くらいちっぽけな勇気は、あったみたいだ……」


「何やってるの、逃げて!」


「ぼくにも意地ってもんがある!」


 アデリーンからの忠告には首を横に振って答えたドリュー・デリンジャーは、2人を守るべく前に立つ。両腕を大の字に広げられるだけの体力も気力も、もう残ってはいない。わかっていても引き下がれない理由が彼にはあった。彼のその姿を目の当たりにして、「これ以上はもうあの3人を撃てない」と感じたシリコニアンたちは考えを変えるも、スティーヴンはそれを許さずにらみつける。ケイ素で作られた人工生命体にして戦闘員に過ぎないシリコニアンにも、自我と思考はあるゆえにそうしたためらいが生じたのだ。狂気に駆られたスティーヴンは脅しをかけて、戦慄している部下たちに無理矢理機関銃やバズーカ砲の引鉄を引かせた――。


「す、スティーヴン・ジョーンズ……おのれェェエエエエエ――――ッ」


 もう目もかすんでほとんど見えなくなってきたにもかかわらず、ドリューがアデリーンと蜜月に笑顔で振り向いた次の瞬間。恐怖によりやむを得ずシリコニアンが撃ったのではあったが、犠牲を一切厭わぬバズーカ砲やマシンガンによる集中砲火、噴き上がる火柱と吹き飛ぶ砂煙。その時をもってドリュー・デリンジャーは、髪の毛1本残らず粉みじんにされて――死んだ。彼の最後のメッセージ通りにしゃがんで身を守っていた蜜月や、無力化されてバリアーを張ることさえ許されなかったアデリーンに対する()()()()のように、彼は殺されたのだ。


「ハッハハハハハハハハ! 文字通りチリになりおったわ! いいざまだなぁ!!」


 両目をむいて高笑いするスティーヴンは、「殺されずに済んだ」と安堵しながらもドリューを殺してしまったことを後悔しているシリコニアンたちに「()()()()……」と、ねぎらいの声をかけるも、その直後にマシンガンを奪い取って、()()()()()()()()彼らを射殺した。


「おや? やはり生きていたか――。まあ、良かろう。私の手を汚さずに役立たずを始末できてッ! 実に良い気分なのだからなぁ」


 やがて煙が晴れると、そこには怒りと悲しみが複雑に絡み合った顔をしたアデリーンと蜜月の姿が浮かび上がった。予想の範疇であったらしいスティーヴンは、意にも介さず鼻で笑う。


「……スティーヴンッ!!」


 その時、――切れた。飛行メカに力を吸い取られるも闘争心を燃やし続けていた彼女の中で、決定的な何かが。その何かは彼女の顔に表出し、それだけでなく全身を震わせて今一度力をみなぎらせたのだ。


「な、なにいぃいいい~~~~ッ!? お前にまだそのような力が残っていたのかッ!?」


 その刹那、アデリーンの体から解き放たれた莫大なエネルギーはいともたやすく拘束から抜け出し、飛行メカを巻き込んで完全に破壊してしまった。すぐ近くにいた蜜月も、まだ倒れていたスティングレイもその力の前に圧倒される。スティーヴンに至っては、アデリーンが氷の結晶でできた装身具をまとい、同様にステンドグラスのような質感と紋様を描いた翼を生やした姿の幻覚を見る――。


(なんだ!? あの姿はなんだというんだ……!?)


 激しく動揺したさまを見られ、スティーヴンは落ち着いて何事も無かったように取り繕うも2人には見抜かれていた。


「そ……そういきり立つな。彼は我が組織のお荷物だったのだ。私は、しかるべき罰を与えたまで」


「はは……はははは……へへへ、はははははははっ……!」


「お前もとうとう狂ったかぁ? 蜂須賀……」


 笑い出した蜜月だったが顔を伏せたまま、近くにあった岩を殴って破壊する。――激しい憤りを覚えていたのだ。そんな相棒のさまを見て、怒っていたアデリーンは我にかえった。


「狂ってるのはそっちだろう!? 人造人間として生まれた子がこんなに優しいのにさ……! 生まれながらの人間なのに、あんたたちは何なの? 人間でありながら、人間らしさをかなぐり捨てるなんて、バカなんじゃないの!?」


 胸に手を当てながら、一時期絡んでいた相手を殺された蜜月は元凶のスティーヴンに叫ぶ。彼女の放つ一言一句が気に入らない彼は、唇を噛みしめだした。


「デリンジャー君はさ、確かにろくでもないヤツだったよ! でもな、()()()()()()()()()()()()って気持ちはあったんだ! これから償って行きたいって考えてたんだよ!」


「けど……あなたは、そんな彼の想いを踏みにじった。こんな最悪な形でね!」


 人には良い面も悪い面もあり、彼にも前者が少なからず存在していた。それまでの所業は忘れなかった上で、彼女たちはドリュー・デリンジャーにやり直しをさせたかったのである。その機会さえ奪ったのが、眼前に立つ巨悪の権化だ。


「フンッ!! ……ヒーロー気取りめ、口を開けば月並みなことばかりか。ヘドが出るね!!」


 《グレートホワイトシャーク!》


 そんな彼女たちを嘲り、彼女たちの想いを唾棄したスティーヴンはホオジロザメの紋章が記された白いスフィアを取り出す。それをねじると電子音声を鳴らすとともに彼の体は怪しげに光る白いエネルギーに覆われ、異形の姿へと変わった。


「ガブガブ、ガァブルルルルルルルルッ。お前たちは私に蹂躙され、あの役立たずの後を追うのがお似合いさ」


 眼光鋭い、ホオジロザメのような白いボディのサイボーグという姿はスティーヴンの邪知暴虐さや凶悪性をよく表しているといえよう。


「罪を償おうとした人を踏みにじって笑うことなど許されない。私たちが裁く……【氷晶】!」


「右に同じだ! 【新生減殺】……!!」


 残虐非道な海の大悪党を迎え撃つのは、かけ声とともに変身ブレスレットを起動して青や金色のメタル・コンバットスーツをまとった2人のヒーローだ。彼が唸り声とともに両手から放った白い電撃をダッシュで切り抜けて、2人は彼にジャンプしながらの正拳を叩きつけた。

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