FILE175:朱色のムカデ怪獣
数日後の昼下がり。廃墟のように古く薄暗いアジトの内部にある牢屋の中に、たくさんの子どもたちが閉じ込められている。さらってきたのは、街で暴れたばかりのセンティピードガイストと、その補佐をするヘリックスの幹部や戦闘員たちである。
「ぐへっ、ぐへへへ。結構な人数が集まったぜ。ビースカ泣きわめくんじゃあねえ! 金にもならねえガキは、おっ死ぬんだよ!」
そう言ったそばから、センティピードは自分に楯突いた男の子に対し有刺鉄線のように刺々しいムチを振るう。その子どもはバラバラにされて命を落としてしまった。
「今ぶっ殺したそいつみてーになあ、親が貧乏だったり、そもそも親がいなかったりしたら……ぐへっ、ぐへへへへ。お前らは死ぬんだ」
――こうやって自身に対し、逆らえなくするのである。既に何人もの罪のない子どもたちが、ここへ至るまでに犠牲になっていた。
「いいぞぉセンティピード、素晴らしい凶悪ぶりだ。だが利益は出せ! 出せないなら貴様が死ぬ番だ!」
補佐をしていた面々のうちに、ヘリックスの幹部メンバーの1人である雲脚もいた。彼は顔を歪ませながら、人を殺したい欲求を優先しがちなセンティピードをなじる。
「幹部だからって偉そうにしてんじゃねえ! 聞きましたよ、あんた……芸術家崩れの……みっともねえ野郎だってなああああああああ」
「この虫ケラぁぁッ!!」
罵倒に罵倒で返されて、沸点の低い雲脚が憤慨したのをきっかけに醜い言い争いが始まった。子どもたちがおびえながら見ている前で、いい歳をした大人同士がどうでもいいことや、知りたくなかったことを聞かされる形で――である。
「お前ら! 仲良くしないか」
見かねた兜円次が前に出て争いをやめさせた。後ろにはダークロザリアもおり、ひどく呆れた様子だ。せめて、身内同士くらいは揉め事を起こさないでいてほしいものだと、彼女は心の中で独り言ちた。
「悪いおっさんたち、仲もわるーいの。ぷぷぷっ」
「……が、ガキィ!! うるさくしてっと殺すぞ!!」
こんなどうしようもない状況下で、強気な姿勢で笑ってみせた少女が1人だけいた。いわゆるバンギャ風のファッションをした女子高生・仙崎那留のすぐ近くで一部始終を見ていた、青髪のツインテールと発育の良い体型をした――宝木聖花である。
「落ち落ち落ち着けタランチュラ! 子どもの! 子どもの言うことだぞ……」
「離せよ! ちったあ怖がらんかい!」
荒れ狂う雲脚を取り押さえる兜だが、彼は暴れて振りほどこうと抵抗する。「さっきから何を見せられているんだ……」、と、子どもたちが不安を煽られたのは想像にかたくないだろう。
「そうだ、宝木の娘ぇッ。お前以外にも、もう何人か殺したんだぞ……」
「泣け! 泣けッ! みじめに泣いてションベン垂れるんだよ!!」
生意気な態度を取る聖花を、悪しざまに罵る時だけはなぜか意見が合致している現実を前に、兜は「先が思いやられるな……」と言いたげな顔をして嘆く。さすがのダークロザリアも面白がる気にはなれず、頭を抱える始末。
「だったら、その子たちの分も生きてやる! おじさんたちなんか怖くないもん。だって、アブソリュートゼロが助けに来てくれるから――――ッ!」
「イキってんじゃねーや! どうせオメーらバカガキどものことなんか、誰も助けに来ねーよ! ボゲッ!」
「べーっ」
聖花は、那留が隣で心配してくれているのをわかった上であえて強がりを続ける。どこかの嵐を呼ぶ幼稚園児が臆せず、強くて怖い敵を相手にしても立ち向かっていたようにだ。1ミリも怖がらない、肝のすわった彼女を前にセンティピードガイストは顔を真っ赤にして怒り狂う。元々朱色のボディをしてはいたが――。
「ガキィャアアアああああああああああああ!!!!!!!」
「あたし帰ります。キュイジーネのおばさまたちとお茶したいんだけど」
もはやため息しか出ないダークロザリアは、心底付き合いきれないという念のこもった表情をして踵を返そうとする。
「ひ、卑怯だぞ! 逃げるなァ!?」
「はいはい」
焦りを感じた兜に呼び止められ、あとが面倒だと判断したダークロザリアは仕方なく付き合ってやることにした。
「お嬢ちゃん、相手は大人の集団だよ。あたしもお嬢ちゃんも何されるか……」
「でも! 怖いのってみんな同じでしょ。だったら――」




