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【5th anniversary!】アデリーン・ジ・アブソリュートゼロ  作者: SAI-X
【第23話】センティピードの誘拐殺人計画!
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FILE173:今度の被験体は


 ある刑務所から、更に厳重な刑務所へ向かって護送車が道路を走り、その途中で大きな橋を抜け、山間(やまあい)の雑木林に築かれた道へと差し掛かった。パトカーも並走している点から、よほど厳重に警護をしなくてはならない理由がありそうだ。


「前科百犯と言われたお前も、いよいよこれでおしまいというワーケ。死ぬまで罪を償え!」


 護送車の内部では、いかつくガラの悪い刑務官たち数名が1人の凶悪犯を監視するべく相席していた。護送対象のほうは更に輪をかけて人相も性格も悪そうで、自分を見張る刑務官をにらみ返している。


「フンッ! そうかい……また脱走してやるよお」


「言ってろ。もう逃げらんねーぞ」


 どうせさすがのお前でも無理だ、と、笑い飛ばす刑務官たち。運転手も同様だったが、その時、前方に突然、全身をワインレッドの装甲に包んだような怪人が姿を現す。どことなくカブトガニも彷彿させた――。


「カッシース……」


 額の巨大な目が不気味な閃光を放ち、刑務所からの護送車とパトカーの一団を止めてしまう。――否、周囲の時間(・・・・・)そのものを止めたのだ(・・・・・)! カブトガニの怪人・タキプレウスガイストは護送車のドアを破壊し、囚人だけを乱雑に追い出すと自身も脱出。ダメ押しと言わんばかりに、3つの目から緑と赤のビームを射出、それが車体に命中すると同時に時は動き出しあっさりと爆発炎上させた。車内にいた者たちは全員――息絶えた。


「あ!? お、おい! 何が起こってんだ!?」


 状況の整理が追いつかない! パニックを起こしたところ、怪人に首をつかまれ持ち上げられた。無機質な顔とは対照的に、3つの有機的な目が囚人の男に圧をかけ、握力も強めて行く。


「死刑囚の溝口(みぞぐち)だな?」


 うめき声を上げている溝口に対し確認を取る。事務的、というよりは嗜虐的な態度で悦に浸ってさえいる。気が済むまで苦しめてから、雑に手放して今度は胸倉をつかみ怯えさせた。


「な、なんでオレの名前知ってんだ! オレをサツから逃がしてくれるってのかあ!?」


「そうとも。……今のところは(・・・・・)、な……」


 不敵に笑うタキプレウスは、目をむいて叫ぶ溝口の質問に答える。手のひらの上でもてあそぶような含みを持たせた言い回しであり、溝口はどこか引っかかっていた。


「あんがとよ、ぐへへへ……! ってよく見りゃあんたバケモンじゃねえか!?」


お前も(・・・)その仲間に入れてやると言うんだよッ!!」


 自分と同じかそれ以上の悪人であることを察したか、先ほどまで怯えていたのがウソのように調子のいいところを見せた溝口だが、本物のスゴみ(・・・)を利かされた途端に縮こまって失神。心底見下した視線を向けた後、指を「パチン」と鳴らして速やかに配下であるケイ素生命体・シリコニアンたちを呼び出す。性格に違いはあるし、待遇に不平不満を抱く個体も少なからずいるものの、全員が主君の命令に忠実だ。


「社会のゴミめ――。連れて行け!」



 ◆◆◆



「こ、ここは……オレぁいったい」


 汚らしいヒゲ面で非常に人相の悪い、凶悪犯・溝口は気付くと薄暗い実験台の上に寝かされ、冷たく硬い鉄の輪で拘束されていた。周囲にいるのは、手術着や白衣を身につけた怪しい男女や、目を持たず口しかないような簡素な見た目をした訳の分からない怪物たち。そして、赤いライン入りの白いコートを着た赤毛のロングヘアーの伊達男。その長さは肩にかかるか、かからないか程度までだ。


「もう目が覚めたのか。Welcome to ヘリックス!」


 煽る目的も兼ねて、伊達男は照明を浴びて仰々しく両腕を広げる。


「ヘリックスぅ!? あの犯罪結社のかぁ!?」


 大げさなリアクションをとっている男の衣服に着いた『遺伝子の二重らせんがHの字を描いている』エンブレムを見て、溝口はようやく自身が置かれた状況に気付く。喜ばしく――なかった。有無を言わさず、()()()()()()()()()()()をされるのが明白だったためだ。


「その頭の足らんリアクションは控えてもらおう……。そしてお前は用済みだ」


「なぁに言ってんだオメー!? いきなりこんなとこに連れてきといてオブッ!?」


「騒ぐなこのウジ虫があッ!!」


 威風堂々とした振る舞いを見せつけていたかと思えば、自由を奪われて尚汚らしく抗議してきた溝口に対し、この男・兜円次はすわった目でにらみつけて激しい罵声を浴びせた。その上で顔面を思い切り殴りつける! これでますます、溝口の顔は見苦しく目も合わせたくないようなものになった。


「失礼? ……どちらにせよお前には道は1つしかないのだ。そう、我々のモルモットになるしかなあ~~~~!」


「麻酔だッ! ウリイイイイ!」


「ギョエエエエエエエエエエエエエ~~~~~~~! あばばばばばばばばばばば!!」


 ヘリックスの幹部メンバーである兜円次が雄叫びを上げて非情な現実を突きつけた瞬間、研究員の1人が強烈な麻酔を注射する。同時に別の研究員がスタンガンを直撃させ、溝口を完全に気絶させた。


「気絶しやがりました!」


「よろしい。モルモットに人権などないからね。このムカデのジーンスフィアに適合できるよう、改造手術を施せ」


 組織の科学班に属している研究員やそれを補佐するシリコニアンらに指示を出した後、後ろにいたゴシックな服装の少女が手術台の前まで躍り出る。照明に照らされた、金髪に赤と紫が混じった瞳、青白い肌――その妖しい美貌の持ち主は、目の前のモルモットが既に気を失っていて、自分を目にすることなく改造されることを残念に思った。


「気持ち悪っ」


「あああうあああわああああああァう!?」


 天井からなぜか大量のムカデが降り注いで、溝口の体をウゾウゾと覆い尽くす! これには邪悪な心の化身であるダークロザリアも引かざるを得なかったが、兜円次は片手で目を覆いながらもう片方の手で振り払い素で拒絶している。さしもの彼も「目が腐る!」と判断したか。


「お、終わったんだな?」


「いえ、まだです! 機械とかムカデの毒素とか完璧に取り入れなくては……」


「気味が悪いから早くしろッ」


「な……!? あ、あのですねー。そーゆーあんただってさ、節足動物のディスガイストに変身してんじゃねーかよッ!」


「うるさいッ。貴様ら、幹部の言うことが聞けないのか?」


 ――などと、上司と部下の間で少し揉め事も起きてダークロザリアからは呆れられてしまったが、改造手術はあと少しで完了するところまで来た。


「……はーッ、ご苦労様。仕上げはあたし、素敵なディスガイストにしてあげる☆」


 妖しく笑う闇のリトル・レディことダークロザリアの右の人差し指から、どす黒いエネルギーがほとばしる! 先ほどまで溝口だった哀れな実験体の左胸に命中し、更に兜が無理矢理に朱色をしたムカデのジーンスフィアをねじらせたことで、彼はみるみるうちにおぞましい姿へと変わっていった。


「ウジャァ……。ウジャウジャウジャウジャアアアア~~~~ッッッッ!!」


 有刺鉄線の意匠が組み込まれた、朱色のムカデ(・・・・・・)のような怪人と化した凶悪犯が起き上がる。毒々しい体色で双眸を黄緑色に光らせ、巨大なアゴを開閉させて強酸の唾液を垂らす。梵字のようなヘリックスのエンブレムまで刻まれ、改造されきった全身の筋肉も膨張していて強そうだ。


「素晴らしいッ! 溝口よ、たった今からお前はセンティピードガイストへと生まれ変わった。歓迎するよ。ふふふははははははははは――――!!」


 外で雷鳴がとどろく中、悪魔の実験室でタキプレウスガイストの変身者・兜円次の邪悪な高笑いが響き渡る――。

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