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【5th anniversary!】アデリーン・ジ・アブソリュートゼロ  作者: SAI-X
【第22話】オクトパス!女性なら誰でも狙う
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FILE172:悪の化身に変化が起きて……



 モーテルの廃墟から市井へと移動した蜜月は警察関係者を探し回っている。ヘリックスに利用され操られた被害者だったとはいえ、殺人を犯してしまったユタカの身柄を彼らに引き渡し、安全を確保したかったからだ。


「いたいた……刑事さん!」


「ご、ゴールドハネムーンか? 本物だ――」


 幸いにも港沿いの公園付近に、以前遭遇した刑事とその部下たちを発見する。ひどく驚いていたようだが、蜜月としてはそれどころではなくとにかく話を進める。


「サインなら今はあげられないよ! それより……、このホストさんが世間を騒がせてた怪人の正体です」


「なんだと……!?」


「でも彼の意志で殺しをしてたのではない、ヘリックスに洗脳されてやらされていたんです」


 ――彼女が刑事らの反応を見るに、一応納得はしてもらえたようだ。


「わかった。ひとまず逮捕するが、まずは病院に――。ご協力感謝する」


「こちらこそ……あとは頼みます」


 お互い、深入りして探り合うのは無しにして蜜月はアデリーンの元へとUターンする。その前に、個人的にファンだったという婦人警官に、「仕方ないですね~ッ」と気前よくサインをプレゼントした。



 ◆



 単なる弓では不死身のヒーローであるアデリーンには通じない。そう――炎の弓矢だ。邪悪なる炎のエネルギーを矢じりへと変えて撃ち出す。氷を解かすどころではなく、彼女の骨や再生力の根源たる細胞をも焼き尽くすのだ。叶ったならば勝利はたやすいだろう。ダークロザリアのその目論見が叶えば……の話だが。


「負けるはずがない。あたしはあのオリジナルとは違って、無駄なものは持ち合わせてはいないんだから!」


「あなたが無駄と切り捨てたものこそ――あの子らしさであり、この世界で生きて行くのに欠かせないものなのよ」


「うるさい! 姉様には焼け焦げになってもらう!!」


 赤黒い炎の矢も、この廃墟ごと焼き尽くさん勢いで放たれた炎の壁も、アデリーンには通用しない。すべてが激しく熱して燃やし尽くす前に出方を潰され、鎮圧されたのだ。焦燥から火力を強めようとするダークロザリアだが、それも瞬間的に冷却され台無しになった。


「燃え尽きてしまえばいいんだ!」


「そんなこと言うような子は……お姉ちゃんが修正してやる!!」


「きゃああああっ」


 渾身の右ストレートが、ダークロザリアがまとっていた黒いスーツの仮面を破壊する! 伸びた背丈にふさわしく、綺麗な素顔が露わとなった。オリジナルのロザリアも今後成長を遂げたのなら、同じようになるだろうと期待と希望を抱かせるくらいには。アデリーンにとって惜しむらくは、それが敵たるダークロザリアであることと、両目に涙を連想させる黒いタトゥーが浮かび上がっていることだ。


「こんな……。こんなはずはない。あたしにはまったく無縁のものなのに!」


 変身が解除され、ダークロザリアは身長が元の小柄なものへと戻る。アデリーンとしては相手のペースに押し切られる前に倒したということになり、圧勝したとは言いがたい。妹そっくりな顔で上目遣いでにらまれては心が痛まないわけではないが、情けをかけたくはないし、何よりエリスには絶対に見せたくない。悪に染まったもう1人の末っ子というべき彼女を目撃してしまえばふさぎ込んでしまうのは、目に見えているからだ。


「お、おい! 俺を置いて行く気か……」


「そこでしょッ!!」


「ウァァァアアアあああああああああああああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!?」


 ダークロザリアは、スコーピオンよりも先にワープでその場から離脱してしまった。雑に扱われ動揺している彼からも目を離さなかったアデリーンは、無慈悲にも必殺技であるアークティックブレードを繰り出す! 大量に含んだ有毒物質で紫色に染まった血のしぶきを上げ、爆発炎上したスコーピオンガイストは元の禍津へと戻り、その場にみじめな姿をさらした。


「……チッ、ちくしょう……! 今日のところは見逃してやるッ!」


 変身を解いたアデリーンは、眉を吊り上げ青いビームソードを携えてなおも禍津を追い詰めようとするが、敵がとっさに張った煙幕によって見失う。蜜月が再びそこへ戻った頃には煙が晴れるも、禍津はとっくにワープして逃げてしまっていた。



 ◆



 ヘリックスが撤退し、ユタカも怪人から戻ったことで事件が無事に終わった後、アデリーンたちは湾岸地区の公園で先ほど助け出したチエと再会。ユタカが病院に搬送されて行くのを共に見届けた。


「あの時は思いもしなかったな。まさかあいつがあの後怪物にされて、そのまま暴走して何人も殺してしまうことになるなんて――」


「チエさんが気に病むことはありません。悪いのは彼を手駒に仕立て上げ、都合の良いようにもてあそんだヘリックスです」


 沈む夕陽が金髪とそれに見合う透き通るような肌を照らす。ただそこに立っているだけでこんなにも――? メイクも装いも派手なチエは、改めてアデリーンの美貌に見とれ、彼女が持つふくよかで暖かい『何か』も感じ取った。


「奴らの好きにはさせません。ワタシたちが絶対に食い止めます」


「クラリティアナさん、蜂須賀さん……ありがとうございます!」


 辛い目に遭ったチエを不安にさせないよう、自信満々に蜜月は誓いを立てる。微笑みを向けてくれるアデリーンらの前でチエは頭を下げて感謝を告げ、アデリーンはチエに顔を上げさせた。


「病院までご一緒にどうですか。いろいろあって会えなくなっちゃうんでしょう――」


「……お願いします!」


 アデリーンと合流した流れで知り合ったばかりにもかかわらず、綾女はチエを乗せて送ろうとする。放っておけなくなったのだ、自分と繁野大毅のように上手くいかなくなる前に。チエもその優しさに応えるように、「みんなで行けば怖くない」と気を利かせた竜平や葵らと一緒に綾女の車に乗せてもらいユタカが入院することになった病院へ向かう。アデリーンと蜜月は、そのあとを護衛するべくともにバイクで並走することに決めた。





「バッフォー……」


 夕陽を背に、猛牛あるいは水牛の角を生やした大柄な青黒いロボットのような怪人が、走り去るアデリーンたちをビルの屋上のヘリポートから見下ろしている――! 彼女たちはその新たな脅威に気付くことは出来なかった。

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