FILE165:隙間に潜る!?
その翌々日――。
「これで57件目……!?」
「しかも女の人も同じくらいの人数が誘拐されてるみたい……」
「どうだ様子は」
「警部! それが一向に見つかりません」
「むう……。先日、大雨が降っただろう。その時にホストクラブの男も1人行方不明になっている。なんにしても早急に犯人を探し出し、捕まった女性も全員助け出さなくては――。手当たり次第探すんだ。決して捜査を怠るな」
「了解!」
「っ……! なんでこんなこと……誰がやったの……」
「想像したくもないよ、俺だって……!!」
都内のビル街にて首を執拗に絞めつけられ、それだけでなく全身をあらぬ方向に捻じ曲げられた男性の遺体が発見された。民衆が絶句し、警察関係者もまた騒然としつつも犯人逮捕に向けて躍起になっている。恐らくディスガイストにより引き起こされたであろうその惨劇の痕を前にして、葵と竜平は思わず目を背けたくなった。
「警部さん、あたしゃ見たんだよ。サフラン色のタコのおばけみてーなバケモンが、隙間にニュルリって潜り込んで消えてくところ……! きっとそいつが犯人だぁね! 気持ちわりぃったらありゃしねえわよ!」
「隙間にですか? タコの習性どころか、まるで数十年前にあちこちで目撃されたが最後にはすべて退治されたというモンスターを思わせるが……。ご協力、感謝します!」
「け、警部さん! おばさん! 今の話、ホントですか!?」
竜平が両者の間に口を挟んだのは、犯人を見つける手掛かりになるかもしれないから、詳しく伺ってその後アデリーンたちに伝えたてみよう――と、思ったからだ。当然、警部らからの反応はよろしくない。
「学生か。子どもが無闇に立ち入っちゃイカン」
「あ~! 今のはね、正真正銘この目で見たホントの話さね! ぬるっぬるしてて、怖かった~……! あたしももうイイ歳だけどああなったかもって思ったら、夜も寝られなかったよ!」
「おっほん。お友達に知らせようって言うなら別に構わんし、今聞いたことを基に注意喚起を行なってくれてもかまわない。しかしだねぇ……」
長々と、ご遺体が見つかった付近で説教をされるのは竜平と葵としては勘弁だ。何より気が滅入るし、死んだ人のそばにいるのは、言うまでもなくつらくて怖い。しかし、警部たちは心配してくれているからか真剣な眼差しをして怒っている。それがまたいたたまれない。
「ちょーっとちょっとちょっと警部さぁ~~~~~~ん!」
そんな時、場の空気を読まず――いや、正確には和らげようとしてひょうきんな声とともに伊達メガネをかけた女性ジャーナリストが姿を現す。服装は黒のベストとその下に赤いワイシャツで、背が高くてスタイルもよい。
「話は聞かせていただきました。いったいどのような事件が起きたのか、なぜ犠牲が出てしまったのか、詳細なご説明を……」
「あなたは確か……」
警部の部下がとぼけた顔をして、その女性に指を差して声をかける。警部のほうは疑う表情をしていて、竜平と葵は彼女を知っていたためかばつの悪そうな顔をした。
「蜂須賀蜜月、しがないフリージャーナリストです」
「あの噂はホントですか、たしか元暗殺……」
「ん~~~~皆目見当がつきません。同姓同名の別人かもですよ。ホラお嬢ちゃんたち、ワタシもついてくから帰んな!」
「蜂須賀さん!?」
蜜月は無理矢理話の腰を折ると竜平と葵を伴い、その場から撤収する。ガニ股で――。
「な、なんなんですかー!?」
「子どもがね、ご遺体の近くでうろうろしちゃイカン! 嫌なことは忘れて、ウチに来てゲームでもビデオでも、好きなので遊んでいきな」
したり顔を浮かべてすぐ、蜜月は高校生カップルを連れ込んで2人と一緒に遊んであげたという。




