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【5th anniversary!】アデリーン・ジ・アブソリュートゼロ  作者: SAI-X
【第21話】アデリーンの妹!?凶敵ダーク・ロザリア
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FILE159:何をしてあげられるか


 しばらく経った後、クラリティアナ家は彩姫を呼び込んでロザリアのために何ができるかを話し合う――いわば家族会議を行なっていた。広いリビングに置かれたテーブルに座って、大黒柱たるアロンソを中心に進められており、その最中にマーサが意見を述べ始める。


「ロザリア、もう少し落ち着いたらでいいんだけどね」


「お母様、急に何を――?」


「私なりに考えて、対抗する策を思いついたのよ。楽しいことを考えて、楽しい時間を過ごす」


「でもそれじゃあ。お姉様だって直接もう1人のあたしを叩きのめしたほうが」


「それだわ母さん!」


 ロザリアが戸惑っている中、母の提案にアデリーンが乗った。弱々しくなっていたロザリアは、そのまま姉と母のほうを見つめる。


「マーサさん、私も賛成です! 嫌なことはいつまでも覚えておくのではなく、楽しいひと時を過ごして忘れてしまいましょう。たとえばお出かけして遊びに行くとか……」


 波に乗った勢いで彩姫も、医者としての観点から「健全で健康な精神で過ごそう」という旨を伝える。断じて自分が遊園地などに行きたくなったからではない。


「僕は反対です。だいたいヘリックスが組織を挙げて狙ってきているというのに、ウチの娘たちの身に何かあったら……」


「父さん! 私たちは死なないってば。ロザリアだって、エリスだって、みんな守ってみせる。私たちがついていればきっと大丈夫。そうじゃない?」


 過保護になってしまうのは父としての(サガ)か。しかし、娘たちは常に彼が心配しているよりも心強くて、へこたれたりなどしない。


「頼もしいな、ほんと……よしわかった。お前にそう言われたんじゃな。マーサ! 各務先生!」


「よかったぁ」


「そうこないと、父さん。ロザリアはどこ行きたい? 遊園地?」


 頑固な父が腹を据えて下した決断に手を合わせて喜ぶロザリア――の横で、姉のエリスは明るい表情とともに妹へ問う。要望があれば何でも聞き届け、可能な限り助け合って叶えてやるつもりだ。大人しいゆえにいつも姉と妹の間に挟まれている彼女だが、たまには姉らしいところを見せたいのだ。


「気分はランドよりシーだなあ。エリス姉様は?」


「んー……思い切って大阪の……あ、やめときます」


「遠慮はしなさるな」


 アデリーンは意地の悪い笑みを浮かべ、そんな妹たちをからかう。こうしている間にも、ダークロザリアは何を企んでいるのか、あるいは、本体が楽しい時間を過ごしている事実に負けて苦しんでいるのか――。


「私からもね。ちょっと待ってよー……」


 もちろん彼女もエリスやロザリアにリクエストを言おうと思っていたが、その前に連絡したい相手がいる。以前、ある約束を取り付けさせてもらった綾女だ。


「もしもし、アヤメ姉さん?」


『アデリンさん大丈夫? ケガ無かった? こないだすっごい燃えたけど……』


「こっちは大丈夫でしたよ。それより、今度の食事会にエリスとロザリアも連れて行きたいんだけど、どう?」


 開口一番に身を案じてくれた綾女に快く返答し、そのまま話を続ける。義理の姉妹分に当たる2人のやり取りは、血のつながりはなくとも、それこそ本当の家族のようで、見守っている周囲からすれば微笑ましいことこの上ない。


『1つ下の子と一番下の子だったよね。平気平気、ウチの車でかいし』


「痛み入ります。サキ先生に代わるわね」


 通じるかギリギリきわどい言い回しをしたが、綾女はその意図をわかってくれたようで電話越しに「うん……」と、ほがらかに返した。そして、宣言通りアデリーンはスマートフォンを手渡し交代する。


「綾女さん、もしもの時に備えて私も車で……。スペースが足りないと大変ですからね」


『わかりました。じゃあお互い、気を付けてね』


 そこでひとまずの別れを告げて、通話は終了。その後、彩姫を加えての団らんと会合は続き、皆が様々な意見を出し合っては採用されたり、却下されたり、保留されたり――終わるまで繰り返された。



 ◆◆◆



 話し合いを終えたアデリーンは彩姫を連れて、地下の秘密基地へと移動する。医務室には彩姫が無理を言って病院から持ち込んだ設備や薬剤が新たに追加されており、後者に関しては「ZR細胞のおかげでご病気に強いということは、効かないかもしれませんがそのうち効くようになるはず、念のためです」と、本人がそう述懐していたようである。


「そうだ、『ナンシー』やエリスさんと共同して、ロザリアさんのカルテを作りました。一度、目を通してみてください」


 彩姫がそう言ってアデリーンに手渡したクリップボードにまとめられたカルテには、診察の結果やレントゲン写真などが載せられていた。「今後のために熟考の必要がある」と判断したアデリーンだったが、資料の中には見過ごすわけにはいかないものまであり、両目の瞳孔を思わず閉じてしまった。


「これは……? 悪の心が欠けた部分を、正しき心が補っていると言うべきなの?」


「理論上は――」


 それは、『ナンシー』が弾き出したデータを印刷したものだ。ロザリアの精神状態を丁寧に分析し、ハートの形に映し出していたが――変遷図のうち、ハートの黒い部分、つまり悪の心が欠けて半分だけになっていたところを、残された善の心が埋め合わせのために自ら徐々に増幅してみせたというのだ。相変わらず信じがたい光景だが、確かに現実に起きたことだった。


「これも発作の原因だったのね。道理であんな苦しそうにしてたわけだわ」


 カルテを大きな胸に抱きかかえ、アデリーンは一瞬表情を曇らせる――が、すぐ何かを決意した凛々しい顔へと変わった。


「あの子に起きた異変がダークロザリアだけでなく、『心の聖杯』からももたらされていたとしたら、どうにかして敵の手から奪取しないと……私の身に代えても」


「……アデリーンさん。自己犠牲って尊い行いかもしれませんが、必ずしも正しいとは思えないのです。ご自身をもっと大切にしてほしい」


 その時の彩姫から投げかけられた言葉を聞いて、思いがけぬところで気付かされた。どうせ死なないのだから関係ない話だ――などと、彼女からの優しさを切って捨てるようなことはしたくない。激しい痛みも、失う辛さも、別れる寂しさも、ずっと感じて生きて来た。


「ありがとうございます。先生、私どうかしてましたね。目が覚めました」


「不老不死であれ、あなたもこの世界に生きる命なんです。それだけは忘れないでください」


「サキ先生――…………。そう言ってもらえて、私とっても嬉しいわ」


 彼女から「人造人間であり、造られた命。悪く言えば人形である」ことを告げられたその時から、彩姫はずっと思い続けてきたのだ。「違う、あなたは生まれてきた命であり、熱い血を通わせ、暖かい肌と心を持った人間だ」――と。どのような生まれであろうと問わず、人間として親身になって接してくれた彩姫に、アデリーンはあらためて感謝を告げた。

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