FILE149:旅行再開、そして……
戦いを終えたアデリーンたちは、街中で戦闘以外にも騒ぎがあったことを知る。ダンダラ埠頭から逃げた裏社会のギャングやマフィアの者たちが福岡県警に一斉に逮捕されたらしいのだ。しかし、牛米だけは姿を見かけなかったという――。それだけが引っかかるが、そればかり気にしているわけにもいかない。
「みんな!」
「聞きましたよ。綾女さんが勇気を振り絞って……」
「ちょ、各務先生。やめてくださいよぉー」
ひとまず博多・九州センターに戻ると、そこには蜜月が保護した浦和家の3人もおり、綾女のケガも既に彩姫が気を利かせて手当てを行なった後であった。徳山もすっかり回復し、彼らは旅行を再開――する前に、1つだけやらなければならないことをやろうとする。
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連泊中のグランドホテルでゆっくりと疲れを癒してから――翌日。徳山から聞いた情報をもとに、福岡・博多ツアー御一行は福岡市内のとある住宅地に向かう。そこの一角に点在する徳山の妻子の家の近くでバスから徳山を下ろすと、他のメンバーは彼を見守ることとする。意を決した彼がインターホンを鳴らすと、戸惑いながらも妻子がドアを開けて顔を見せた。ごく普通だが善良で優しそうな妻と、平凡ではあるが元気はつらつで純真そうな息子。
「ひっく……よかった、元気でやってそうでさ……」
「父さん!」
「あなた……」
「急になんだけど、おれたち……やり直さないか」
「もちろんよ。ねぇ?」
「僕たちも待ってたんだからね」
「ありがとう」
離れ離れになっていた間も無事に暮らしていたかけがえのない家族の姿を見て、徳山駿が震えながら一筋の涙を流す。そんな夫あるいは父の姿を、2人は受け入れ、久々に家族一丸となって抱き合った。
「……よーし!」
そんな徳山一家の様子を草陰から見守っていたアデリーンは、実に良い笑顔をしてサムズアップを送る。彼らにはこれからずっと幸せに生きてほしいし、ぜひとも復縁してほしいという願いがこもっていた。
「これからは駿さんたち次第。干渉しすぎてはいけない」
「アデリンさん、私たちも行こ。幸せが逃げちゃうわよ」
「我々は我々がやるべきことをやりましょう」
同じく暖かい目で見ていた蜜月と綾女、そして彩姫からの言葉を受け、頷いたアデリーンは皆でバスに戻り、「頑張ってね――」と、車窓から手を振って別れを告げた。それから、ようやく、彼女たちの旅行は本当の意味で再開されたのである。
「昨日は落ち着いて見られなかったけど。ここでいろんな試合が行われたり、アイドルたちが歌って踊ったりしたのよねえ」
まずは福岡ドームだ。今はまた違う名前になっているが、やはりこの呼び方が最も馴染み深いだろう。もちろん、許可をもらった上で周辺を探索し、中にも入れてもらった。残念ながらゲームもライブも開催されてはいないが、入らせてもらったこと自体に意味があるのだ。
「おお――ッ。大仏様、ホントに寝そべってるぜ!」
「福岡は何回も来てるけど、ワタシも実際に見るのははじめてだわ。おトラさん、ありがとうございまーすッ」
「ご利益もらえそう。いっぱい撮っとこ……」
続いては大仏。そう、福岡にも大仏はあったのだ。ただし、横になって寝ているポーズだが――。旅行の参加者からも大絶賛で、とくに竜平と葵のカップルは高校生らしく大はしゃぎしていた。
「神の恵みを与えたもぉ~」
「もぉー、やだぁ、私じゃなくて、ちゃんとお牛様をなでなさいよ。えっち……」
その次は太宰府天満宮を訪れた。見所もパワースポットもそこにはたくさんあったが、中でも撫で牛こと御神牛の前にたくさんの人々が集っていた。皆がご利益にあずかる中、蜜月はほんのスキンシップ――のつもりでアデリーンにセクハラを行ない、恥ずかしがった彼女からしばかれてしまうこととなった。
「あ、あのー、さっきは悪かったよ……」
「……ぷいっ。頼まれたって牛ビキニ着てあげないんだから」
「どうしよ~~~~っ」
「わたしに泣きつかれても困ります!」
「葵たんまで……」
もちろん牛の像は撫でさせてはもらえたし、大宰府に祀られた動物にちなんだお土産も買わせてもらえたものの、アデリーンの事を胸が大きいからと言って牛扱いしたために、蜜月は彼女からしばらく口をきいてもらえなかったという。
◆◆◆
「ただいまー」
そして、連休最終日。福岡から東京に帰ってきたアデリーンは、もちろんクラリティアナ邸へと帰宅。言うまでもなくお土産はどっさり、中には宅配で届けてもらう予定のものもあったらしい。
「おおっ、お帰り。皆さんとの旅行は楽しかったかい?」
「うん。でも、話せば長くなりますよ」
父・アロンソからの問いに快く頷いてから、アデリーンは手洗いなどを済ませてリビングで座り込む。背もたれして、一息ついた姿からはエンジョイしすぎて疲れたことを感じさせる。その周りには、父だけでなく母・マーサも、妹のエリスとロザリアも集まっている。誰もが彼女の帰りを楽しみに待ち、会いたがっていたのだ。
「本当に話しちゃってもいいのね?」
「大歓迎よー! 遠慮せず聞かせてちょうだいな」
マーサからの言葉を受けて、アデリーンは満面の笑みで旅行の思い出を語り出す。思わず熱が入って長引いてしまい、彼女の話は少なくとも2時間以上は続いた。




