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【5th anniversary!】アデリーン・ジ・アブソリュートゼロ  作者: SAI-X
【第19話】鉄人グルマンの大一番
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FILE144:闇オークション中止のお知らせ


 その頃――、ヘリックス本拠地の玉座の間では、福岡にて浦和家を捕らえたばかりのジャン・ピエール・グルマンとの通信が行われていた。王の椅子に座する長身痩躯の怪老人・首領ギルモアの膝元に、駐在する幹部メンバーたちが並列している。


「でかしたな。さすがじゃグルマン、わしが九州支部を任せただけのことはある」


『お褒めいただき光栄にございます。ガヴァナー(総裁)


 電子スクリーンに映っている黒いコックコートの金髪男性の背後には、彼の部下たちと彼に拿捕(だほ)された浦和家の母、長女、長男が拘束されている。そこがどこかはわからない。


「それではそのままそやつらを問い詰め、設計図のありかを聞き出せ」


『可能であれば、裏切り者たちのパニッシュメントも検討します。闇オークションの件に関してもご心配はいりません』


「期待しておるぞ」


 立派なヒゲをさすってから、グルマンは珍しく上機嫌なギルモアに対しお辞儀をする。玉座へ上がるための階段の下から見ていた者たちは、どういうわけか歓喜の渦に包まれていた。


「素晴らしいッ! 俺たちでさえ成し遂げられなかったことを簡単にやってのける!」


「そこにシビれる。あこがれる……」


『お世辞はいらんよ』


 その手を握りしめてハイになっている茶髪で赤黒いレザーコートの男は禍津で、少し気取った言動を見せていた長髪で白ジャケットの伊達男は兜円次(えんじ)である。スクリーンに映るグルマンは謙遜したが、1人だけ納得がいっていないものがいた。


「フン! いい気になるなよ。世の中はな、そういうやつに限って、しくじるようになっているのだ」


『君もそうならないようにね。ワタクシも気を付ける』


「チッ! 蜂須賀と同じだ、あんたも気に入らない」


『ウィ?』


 グルマンに嫉妬してか言動にトゲのあるその黒スーツの男は、幹部の1人・雲脚昌之。


「はははは、雲脚くん。ジャン・ピエールに口ゲンカを売るのはやめておけ。彼に勝るものなし」


「敵地を武力で蹂躙・制圧することを良しとしなかった度胸なしがなんだ」


『言われてしまったな……』


 その特徴的な枝分かれした眉毛を吊り上げ、顔を歪ませてから食ってかかるも、ジャン・ピエール・グルマンは大して動揺してはおらず、兜や禍津からも指を差され笑われる始末。拘束中の浦和家の者たちは、本部にいる敵の大ボスや同僚たちと話し合っているグルマンや、その大ボスたるギルモアの姿が怖くて仕方なかった。


「……ともかく、兜。僕としてはあんたのほうがまだ嫌いだ。今すぐあんたを切り捨てて、グルマンと代わってもらいたいくらいさ。さて、アジア支部やオーストラリア支部にもオファーをかけなくちゃあな」


「あいつらを呼んで何をする気だ?」


 兜円次が無神経で辛辣なことを口走った雲脚へと詰め寄り、ギルモアは部下たちが粗相を起こしたと呆れ、禍津は首を傾げて訝しがる。


「僕がトップの派閥を作り、究極の指揮権を得るための下ごしらえだぁ~~――――……ハハハハハハハッ!!」


 かつては甘いマスクと謳われ、世間からチヤホヤされ妬まれていたはずの雲脚の顔はひどく歪みきっていた。


「静まれ!」


 苛立つギルモアは騒ぎだした幹部たちに怒号を飛ばし、黙らせる。画面越しの浦和家も含む全員が、身の毛もよだつほどの恐怖を感じた。


「お前たち、戯れるのもそこまでにしておけ。それより……。まっこと愚かなヤツらよ。1つの国が強力な武器を手に入れたら、他の国が対等かそれ以上の武器を欲するのは、当然のこと」


「そうやって我らヘリックスは……莫大な利益を確実に手に入れる」


 絡んで来た雲脚を雑に払い除け、円次は首領の言葉に便乗する。


「我がヘリックスがこの人間社会を裏側から支配するのは、もはや時間の問題である」



 ◆



 ――そして、ところ変わって博多港近辺にある『ダンダラ埠頭』。そのターミナル内にある倉庫の内部でのこと。そこは立ち入り禁止とされていたが、人が入れないのをいいことにヘリックスの構成員をはじめ、裏社会に属するいわゆる闇の住人たちが集っていた。会場(・・)内のほぼ全員が黒っぽい服装に身を包んでいる異様な風景は、圧巻の一言である。


「えー……皆様、ヘリックス主催の公開闇オークションにようこそいらっしゃいました。本当に、大変長らくお待たせいたしました。本日の司会進行は、このわたくし、ドリュー・デリンジャーが務めさせていただきます」


 事前に組んでおいた壇上で、マイクのテストをしてから司会の彼が来場者すべてに語りかける。「今日くらいはしっかりする」と、意気込んではいたものの、表情が既に頼りない。その場にいたギャングやマフィア、ブローカーの類はいずれも苛立っている。


「能書きはいい。さっさとはじめろ、こっちも急いでいるんだ」


 その中の1人、やや時代錯誤でギャンブラー的な雰囲気を漂わせている黒い帽子に黒いストライプスーツの壮年男性がデリンジャーをせっつく。


「んぐ、がっ……では……」


 ……圧が半端ではない。やられそうになりながらも、何度か咳払いをしてから続行を決める。


「目玉商品はディスガイスト怪人に変身するためのジーンスフィアやマテリアルスフィアですが、もちろんそれだけではありません。重火器や武装ロボットも各種、あらかたお出しできる状態です」


 『デストラクターG57型』と書かれている札を吊り下げた、両腕が機銃で下半身がキャタピラとなっているシンプルな見た目の戦闘ロボットや、ロケットランチャー本体とその弾薬などが闇の住人たちの目を引く。


「今回も実演販売とさせていただきます。そのために我が組織自慢のテスターの方々にも来ていただきました。ほら、あいさつしろい!」


 なめられたくないので、自分を強く見せようとして急に粋がり出したドリューの指示のもと、その手に目玉商品(・・・・)を握ったスーツ姿の男たちが姿を見せる。いっせいにその目玉商品をねじって、それぞれが邪悪なエネルギーに包まれるとともに異形の姿へと変身した。


「彼らが今変身しているのはテストモデルとなります。実物はより性能が向上しておりまして――」


 黄土色のカンガルー、赤紫色のヌートリア、カッパー色のラグビーボールのような頭部で首から下はプレイコートとユニフォームを掛け合わせた胴体の持ち主、暗い青と苔むした緑色の体をしたアメフラシ、殻の形のヘッドギアを被ったヒヨコ――といったサイボーグまたは戦闘ロボットめいた容姿を持つ怪人たちが、値札を下げて整列している。なんとも奇怪な光景だ。



 ◆



「まるで極道モノ見てるみたい」


 しかし、その場にいた誰もが会場の天井裏から覗く部外者の存在に気付きもしていない。言わずと知れた、悪の組織から世界を守るために日夜戦い続けているコンビだ。匍匐の姿勢のまま、わずかな隙間から様子を見ている。


「確かにな。裏の世界の大物ぞろいだ」


「ウシゴメにナシ・パチーノ、……確かにね……」


 前者は先ほどのストライプスーツの男で、後者はサングラスをかけた海外のマフィアのドンである。コンビのうち、金髪碧眼の女性のほうは若干窮屈そう(・・・・)に艶めかしい声を上げながらも、あくまでもクールに物事を見ていた。


「へぇ。牛米(うしごめ)のオッサンをご存知で?」


 もう1人のほうは裏社会で長い間活動して来た前歴があったため、その辺には当然詳しかった。


「ヘリックスのお得意先の1つ……、となればね?」


 どちらも焦りや緊張は感じさせず、まだまだ余裕だ。下のほうからクレーン車の先端に着いた鉄球がぶつけられた音が聞こえてきたの機に、彼女らもついに行動を開始しようとする。まずは自分たちがいた位置をあえてド派手に破壊して、わざわざ高めの天井から降り立つ。当然、ドリューやオークションの参加者たちは動揺しており、とくに前者はオーバー気味に腰を抜かした。


「く、クラリティアナに蜂須賀!? ……ちッ、面倒ごとばかり持ち込んで!」


 ストライプスーツの男が苦々しい顔でそう言った直後、ディスガイスト怪人に変身したテスターたちはビーム銃による一斉射撃を受け次々に撃破される。彼らが使用したジーンスフィアのみ砕け散った状態で、本体は気絶と相成った。そのついでのようにデストラクターなどの兵器類も破壊され、あわや爆発炎上! しかしすぐにアデリーンが操る冷気で消火された。


「かわいそうにね? どれも落札してもらえなくて」


「ヒッ!?」


 周りが騒然となっている中で、アデリーンと蜜月は挑発するような笑みを浮かべてドリュー・デリンジャーに近付く。マフィアにギャング、闇のブローカーたちにも銃を向けて威嚇した。


「な、何の用だ! 今競りをやってる途中だったのに……!」


「闇オークションはこれにて閉店ガラガラだ。そんなことより1つ聞きたい」


「あげ……!? ちょ、ちょっと、牛米さん! お待ちを! まだまだこれからあぁ~~~~!?」


 怯えるあまり、とっくに精神的な余裕をいずこへと捨て去ったドリューが蜜月に銃を突きつけられたのを見て、興味を失くした顧客たちが「冗談じゃない!」と逃げ去って行く。ヘリックスという組織のお得意先(・・・・)である牛米でさえ――!


「こっちを見ろおおお! そう言ってるのよ、ドリュー。……あなたに指示を出していたのは誰? ジャン・ピエール・グルマンで合ってたかしら?」


「ぼくそんな人知らないよ! 他のヤツ当たれよ他を!!」


「ウソね。ホントのことを言ったら…… ど う な の ?」


 蜜月に影響されてかそれとも素なのか、揺さぶるために恫喝したかと思えば、サドっ気を出してもみるアデリーン。相手は根っからの悪党なので躊躇も遠慮も必要ない。


「だ、だから、し、知ってるわけないだろおおおお!? ジャン・ピエール・グルマンとなんて、一度きりとも会ったことがない! 無関係なんだよおおおおぉぉぉぉおおおお――――――――ッ!!」


 顔をぐしゃぐしゃに歪ませるだけでなく、なぜか両手を広げてまで自身の潔白を示す。しかしこの証明は真っ赤なウソだ!


「へぇええ~~? じゃあ~~~~~~~、今の今まで、福岡で誰に手取り足取り教えてもらいながらコソコソやってきたんですか!? 言え――――ッ!」


 疑わしく思った蜜月は狂気をはらんだ声と顔をしてダメ押しする。今にも命を獲りそうなムードを醸し出していたため、ドリューはおよそ大人の男とは思えないほどの情けない表情とともに絶叫する。


「昔のよしみだ。あんたを気持ちよーくしてやってもいいんだよ。素直にしゃべるのと~、お顔をお胸で圧迫されながら死ぬのと~、どっちがいい? さあ……」


「さあ」


「サァサァ」


「さあさあサァ」


「さあさあさあさあ!」


「サアサアサアサアサアサアー!! どうしたいんだぁ~~~~!?」


 トドメと言わんばかりに蜜月のほうが天井に向けて発砲する。限界ギリギリまで悩んで揺れ動いた末に、ドリュー・デリンジャーが選んだのは――。


「あ、圧迫……」


 その返答は、「実は今の生活環境には不満を抱いている……」と、遠回しに打ち明けたようなものだ。男しての正直な欲求に勝てなかった瞬間である。


「よ~~し、そうと決まれば私も一肌脱がなくっちゃね?」


 嫌がりそうで嫌がらなかった。意外にもアデリーンは、こういう女スパイがやりそうなことをやってみたかったのだ。なのでこうして腰をくねらせ、セクシーな表情をする。


「圧迫よーん! お顔をつよーく圧迫して……!」



 

 ◆◆ここから先は、とても見られたものではないので割愛する……◆◆



          ◆◆そして……◆◆



「じゃ……ジャン・ピエール……」


「ハッキリ言えええええええええええええ!!」


「ジャン……ピエール……さん……です!」


 やることをやっている最中だったアデリーンと蜜月に骨抜きにされたドリュー・デリンジャーが、ようやく口を割る。訝しんだアデリーンが手を出そうとしたその前に、蜜月が彼の胸倉をつかんだ!


「ってことは、お前らのアジトはパルフェットの地下かなんかか!?」


「ち、ち、ち、違う! あ、やっぱ言えない……クビが飛んじゃう……」


「残念だわ。本当はキライなあなたを相手にここまでしてあげたのに……」


 アデリーンが肩をすくめてから、すぐさま彼の頚椎に銃をあてがう。言わないと殺される! そう恐怖したドリューは鼻水まで出してから、次にこう口を滑らせた。


「言います言います! て、鉄鍋山(てつなべやま)だ……です! ま、街外れにある……!」


「やっぱりねッ。これで確証が得られたわ」


「ちゃっちゃと引き上げて、足洗って出直してきな。ヘリックスでやってくのに限界を感じてるんじゃないの?」


「な、なめんじゃねーッ! ぼかぁ再就職なんかしない! 世の中、世知辛いことくらいわかってんだぞ! エッ!?」


 蜜月からの説教が気に入らなかったか、逆ギレした。だからといってこの圧倒的に不利な状況がどうにかできるはずもなく、アデリーンが彼の襟首をつかんで、にらみつける。


「はいそうですか。あなたがそのつもりなら、あなたが心を入れ替えるまで、私たちは何度でもあなたをブチのめします。お覚悟はよろしくて?」


 啖呵を切ってから、アデリーンは「えいっ!」とドリューを突き放す。転ばされたドリューは、周りで気絶しているテスターたちを見渡して底知れない恐怖と不安に駆られた。


「待ってー! 待ってくれよお! 待ってくださぁい……」


「男ならシャキッとせんかい!」


「グエーッ」


 ――その後、ダンダラ埠頭の倉庫から市街地に戻ったドリュー・デリンジャーは泣き腫らしたようにやつれた顔のまま、大きなカバンを肩からぶら下げて途方に暮れたという。

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