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【5th anniversary!】アデリーン・ジ・アブソリュートゼロ  作者: SAI-X
【第18話】博多へ!逃げて来たドラゴンフライ
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FILE133:ラーメン大好きクラリティアナさん


 大きな複合型の商業施設というものは、見た目が違うだけで内部に差異はない――わけはなく、参加者一行は散策する過程でショッピングやアミューズメントを楽しむ。そうして、ラーメンスタジアムに着いた一同は、本来ならば全員がバラバラな飲食を取るつもりだったが、はぐれると大変なので――あらかじめ、全員ここで食べることに決めていたのだ。


「これから博多に集った、厳選されしラーメンを心行くまで味わってくわよー。お姉ちゃん、グルメも大好きだからねっ」


 今度は持参したノートパソコンを開いてビデオ通話をしているアデリーンは、蜜月や彩姫と相席している。彼女が注文したのは表面がチャーシューで埋め尽くされたチャーシュー麺であり、脂が乗ったダシも潤っていて見るからにボリューム満点。


「んめェ――――いッ」


 蜜月が絶賛していたのは選りすぐりの塩ラーメンだ。ほどよい塩加減がたまらなかったようで、恍惚と快感が混じった笑顔をして嬉しい悲鳴じみた叫びを上げたほど。


「あら。ベートーベンの運命がどうかしたの?」


 家族とのビデオ通話を終え、しっかりとフーフー(・・・・)してから食べ始めていたアデリーンがボケる。もちろん、これはわざとだ。


「そっちじゃねぇ~よ。ラーメンがうんめェ~~~~……って言ってんの」


「なーんだ。つまらないの」


 大げさな動作を見せる蜜月への受け答えももちろん、食べている合間にしっかりと行なう。健啖家を自称している彼女としても、お行儀は良くしておきたいのだという。


「アデレードはさぁ!」


「ふふふ。本当に仲良しなんですね」


 そんな2人を彩姫と葵が茶化す。向こうの席で母や弟とピリ辛なラーメンを味わっていた綾女から、バッチリ目撃されていた。


「そりゃあ、各務先生にキューピッド……というより、橋渡しをしていただいたようなものですし。葵たんにもね!」


 2人そろってハトが豆鉄砲でも食らったようなマヌケな顔をして照れた。唐突に話題を振られた葵もだ。


「か、買いかぶらないでくださいよ!? わたし大したことはしてないんだから……」


「それと先生禁止です。めっ」


 葵が謙遜している横で、幼い子どもをあやすノリの彩姫が蜜月へと注意する。動揺をごまかしたい葵は、そのさまを見ながら味噌ラーメンを静かにすすっていた。アデリーンは一転、クスクス笑ってチャーシュー麺をじっくり堪能している。


「さッ、彩姫さん(・・・・)……」


「サキ先生もお人が悪い」


「ふふっ」


 互いにいたずらな微笑みを浮かべたアデリーンと彩姫を見た蜜月が、コップに入った水を飲んで少し落ち着いてから頬を膨らませる。


「アデレードには注意しないなんて、不公平ですよ!?」


「蜜月さん! 食べないと冷めちゃう……」


「食ってらあ!」


「この後、トマトラーメンとかいかがですか?」


「さすがにそれは。食べすぎになっちゃいます……」


 口では気が立ってははいたものの、『色気より食い気』では主義に反するとしている蜜月の食べ方は意外にも落ち着いていた。ユーモラスで愛嬌のある姿は、とても裏社会で名をとどろかせた女暗殺者だった女とは思えぬもので、「こんなに愉快で思いやりのある人に知り合えて嬉しい」――と、こだわりの豚骨ラーメンを食している虎姫や、スタッフおすすめの一品である味玉入りラーメンをおいしそうに食べている磯村も誇らしげだ。



 ◆◆



「やっちゃった。昔は書店あったんだけどねえ」


「『スパイダーリリー』のコミックス最新刊が欲しいんだったわね? どうする?」


「電子書籍という手もありますよ」


「やっぱり紙の本がいいな……それより、ここにいる間は毎食ラーメンでもいいくらいだよ!」


「じゃあ蜜月ちゃんはバイキングなしで。いいかしら?」


「いいよね……よくないよ綾さん!!」


「だよねーっ! ゴメンね」


「も~~~~ッ! 冗談はよしこさん!」


 かくして、一同がラーメンを食べ終わり一服してから、とくに中身のない雑談をしつつ施設内を歩いていたその時――!


「きゃああああああああああああああああああああ」


「も、モンスターだ!? ディスガイストだあ!?」


 逃げ惑い、戦慄する人々の叫び声。それは怪人が発生したという報せだ。


「ロビーのほうからだわ。私が行く、ミヅキはみんなを連れて安全なところへ!」


「お安いご用でい!」


 この緊急事態に表情を凛々しく、険しくしたアデリーンは蜜月に虎姫たちのことを託し、パルクールめいた動きで柵を飛び越えてでも悲鳴が聞こえた方角へと急行する。


「ヤンマァァァァアアアアア!」


 彼女が目撃した、騒ぎを起こした張本人は、藤色のトンボを模したアーマーを着込んだ、そんなサイボーグめいた姿をしている怪人だ。複眼を連想させるゴーグルからは鋭い双眸がのぞいているし、背中からも半透明の翅を生やしている。トンボならではの特徴的な尻尾はオミットされていたようだ。


「い、痛いッ! 痛いッ!? は、放してください!」


「なんだその目は! そんなにおれが珍しいのか……? 姿かたちがお前らとは違うから、なんだってんだ! そうやっておれのことを見下してるんだろ! ええッ!?」


 トンボの怪人は脇目もふらず、逃げ遅れた男性スタッフの首をつかんで、一方的に脅しをかけている。ゴーグル越しに光っている異形の目は、彼を恐怖させるにはこれ以上ないほどだったが、そこに青い閃光がほとばしってトンボ怪人をぶっ飛ばす。転倒させた怪人の前に、スタッフをかばう形でアデリーンが立ちはだかった。


「早く逃げてください!!」


「ヤン……ムアアアアアアア~~~~~~ッ!!」


 アデリーンの言葉に頷き、スタッフはその場から逃げて危機を脱する。見た目が比較的端正といえども、怪人と化した自分を見てまったく動じない彼女を見るや否や、トンボのディスガイスト怪人は唸り声を上げて首を激しく振り回す。


「ジロジロ見るなぁ! おれは見世物じゃないッ!! 人生もずっといいことなしで、これ以上生きて行くのが本気で嫌になったんだ、ほっといてくれ……。ヤンマーッ! ウワァァァァァ!!」


 錯乱した様子を見せる彼は、左腕を光らせて持ち手が紫色のノコギリを出現させてアデリーンに接近、斬りかかる。彼女は片腕で受け止め、大きな金属音を立てて弾いただけでなく、傷1つつけられてはいない。トンボ怪人が振るったノコギリも一部が凍り付いており、彼は著しく動揺する。


「だから公共の場で暴れるのを見過ごしてほしいって? ダメよ、そんなの」


「お前は誰なんだ!?」


 ディスガイスト怪人を前にしても一切物怖じしない彼女は、少しだけ笑ってからこう答える。


「ヒーローよ。巷でウワサのね」


 自信たっぷりにそう言い終えた時には既に、右腕につけた腕時計型の変身デバイス・『ウォッチングトランサー』をかざしていた。

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