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【5th anniversary!】アデリーン・ジ・アブソリュートゼロ  作者: SAI-X
【第18話】博多へ!逃げて来たドラゴンフライ
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FILE132:虎姫社長のヒミツは赤裸々に


 プライベートジェットやバスの中で一緒だったからと言って、部屋もその人たちと同じとは限らない。アデリーンは梶原親子と部屋で自撮りしてその写真を両親や妹たちに送ったし、浦和家は各務彩姫とともに羽目を外すとトランプゲームを遊んで楽しんだし、蜜月は肩身が狭いとは思いながらも虎姫や磯村環とガールズトークに花を咲かせて――?

 それからというもの、ツアー参加者一行はスケジュール通りまた観光バスに乗って、博多市内でも最大級の複合型商業施設であるキャナルシティへと移動している最中。席順はつい先ほどと同様であり、皆が期待に胸を躍らせている中で、蜜月だけは妙にそわそわしていた。


「蜜月さん? もしかして乗り物酔いしちゃったとか、ご気分が悪いとか……」


「ん? あぁ~~~~……うん、そのね」


 心配して声をかけてくれた葵に対し、慌てて取り繕うが動揺を隠しきれず、結局笑ってごまかす。


「さっきおトラさん、つまり虎姫社長さんたちとお(はな)ししてたことを、思い出しちゃって。でもデリケートなことなんで、あんまり大っぴらにするのも……ね?」


「隠し事をしすぎるのもどうかと思いますけどぉ……」


「いーんだッ。世の中ね、知らないほうがいいこともあんのよ」


 彼女は開き直ったが、葵の言うことも一理ある。実際蜜月はどこか気まずそうだ。それを見抜いてか、知らずか、アデリーンは彩姫と触れ合いながらも、時折彼女たちのほうを見て、ひそかに気にかけていた。


「それよりワタシ、向こうに着いたらラーメンスタジアム行きたい! とにかく食べろっ!」


「いいわね。お昼は自由だったもんね」


 意外にも、この一行の昼食はまだであったようだ。アデリーンに蜜月、綾女に彩姫といった年上の者たちほど、ワクワクが止まらない様子を見せている。



 ◆◆



「いえーい。エリス、ロザリア、見てるー? 私たち、キャナルシティ博多まで来てまーす!」


「あんたたちの分もいろんなお店、い~~~~~~~っぱい見て回ってくるからよ……。楽しみに待っときなはれ」


 目的地に到着して全員がちゃんと降りたところで、アデリーンはスマホを使って少しだけ動画を撮影。蜜月にも手伝ってもらい、参加者のうち「自分も映してほしい」と名乗り出た者からも協力を得る。もちろん、ほかの人々に迷惑はかけないように心がけていた。


「……さっきアオイちゃんと話してたじゃない。ヒメちゃんやタマキさんと何かあった、そうね?」


「ちょっとだけ昔のことって言ってたけれども――って、ご本人様には聞こえてないだろーね?」


 駐車場から施設の中へと移動している途中のことだ。頷くアデリーンと葵を見て、少しほっとした蜜月の額を伝って汗が落ちる。彼女らのそのさまを先頭を歩く彩姫が見ていた。


「あっ! か、各務先生、お気になさらず、どうかお先に!?」


「構いませんよ、お時間もまだ余裕がありますから。……聞こえないふりー♪」


 オフの日だからか真面目な彩姫も普段に比べて少し羽目を外していたが、そのギャップに彼女を慕うアデリーンはときめいた。――クールに見えて、惚れっぽい女なのかもしれない。


「多分、私ももう知っていることだとは思うけど。話してみ?」


 刹那、気を取り直して蜜月へと問う。「うんうん、わたしも知りたいです。遠慮しないで!」と、葵も言葉を続ける。友人の情報屋との違いを見せたかったこともあり、この件(・・・)だけは、口を固く閉ざしたかった蜜月だが、親切な2人の後押しに根負けしたのかついに観念したそぶりを見せる。もちろんウォーキングは続行したまま。


「じゃあ……」



 ◆



 ≪社長さんと磯村さんにお伺いしたいことがあります。『アンチヘリックス同盟』をご存知ですか≫


 ≪……アデリーンから聞きましたね? 微力ですが、我々はあの同盟にご協力しています。ヘリックス打倒の信念を抱く同志として≫


 ≪こちらからもつかぬことをお聞きしますが、まさか……今お話ししたことを外部にリークされるおつもりで?≫


 ≪そそそ、そんなわけないでしょう! ワタシ、お口は堅いつもりですから!?≫


 ≪それより、よろしければ、わたしとアデリーンがなぜ知り合ったのか……興味はありますか?≫


 ≪一応。彼女の相棒として≫


 ≪話せば長くなります。よろしいですか?≫


 ≪磯村さん、お願いします≫


 ≪あれは私が前社長、つまりお嬢様のお父様に秘書としてお仕えしていた頃のことです。当時まだ年端も行かないかわいらしい女の子だったお嬢様は……交通事故に遭われてしまいました≫


 ≪――そんな!?≫


 ≪気にしないでください、蜂須賀さん。あくまで昔のことです。わたしも、今はこんなにピンピンしてますので≫


 ≪入院して、生死の境をさまよっておられたお嬢様に救いの手を差し伸べてくださったのがアデリーンさんだったのです。クラリティアナさんたちもご同席されていて……、その縁で我々も知り合いました≫


 ≪彼女はわたしにごくわずかな量のZR細胞を移植してくれました。当時は手を尽くしていて、もはや他に方法はなくて、失敗すればわたしが本当に死んでしまうという状況で、両親はアデリーンからの提案にすべてを賭けました≫


 ≪ワタシと同じだ……。そうか、そういうことが過去にあったから……?≫


 ≪以来、すっかり元気になられたお嬢様はアデリーンさんとの間に深い信頼関係を築き合って、良きご友人同士となられたのです。当時は虎姫お嬢様、いえ、社長も幼くて、本当にかわいらしくって。対してアデリーンさんは背も高く、その時から母性にあふれていたようにも見えて、……姉妹どころか、まるで親子のようで……≫


 ≪た、環、よしてくれ。照れるじゃないか≫



 ◆



「んで、おトラさんのためにもあんまり言いたくなかったってワケ……」


 別に暗くて救いのない話だったわけではないのだが、洗いざらい語り終えた蜜月は、どこか元気がなかった。それをごまかそうと頭の後ろで両腕を組んで気だるそうにしてみたが、真摯に話を聞いていた2人にはとうにバレている。


「そのようなことが……」


「気にしすぎなんじゃない?」


 流れを変えようと、アデリーンがウインクしてから蜜月の肩を持つ。前方に虎姫たちがいるのを確認してから、またゆっくりと着実に歩を進める。


「それに私、本当にあの子が小さい頃から知ってたんだから。タマキさんからもよく、そうねー……アレが嫌いだとか、ブロッコリーとカリフラワーの見分けが長い間ついてなかったとか……そういったお話を聞かせていただいていたの」


 虎姫との間にある交友に関して、あれこれと語るアデリーンの表情や姿は、まるで無垢な子どものようだった。葵も蜜月も聞き入っている。


「お2人の間の絆は決して切れることは無い、ってことですね!」


「エモいじゃない…………はっ!」


 この3名が大急ぎで、先に待っててくれていた虎姫たちに追いついたのは、言葉にできぬ尊さを感じてからすぐのことだ。 


「ごめん、ヒメちゃん! 昔話に夢中になっちゃってね……」


「大丈夫だ、君たちが思っているほど遅れてはいない。では!」


 合流したところで、ツアーの参加者一同はついにキャナルシティの中へと足を踏み入れる。はじめての者も、既に訪れたことがある者も、どのような驚きと興奮、感動が待っているのか? 誰もがそれを楽しみにしていた。

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