FILE131:今夜はここで決まりだ
福岡空港に到着! 虎姫のプライベートジェットから降りた一同は、それぞれスーツケースを持って、検査もクリアして通らせてもらう。なお、人造人間であるアデリーンは骨格が特殊チタニウム合金で構成されており、一部の臓器も機械化されていたのだが、とくに引っかかることは無かったようだ。
「いやぁ~~~~快適な空の旅だったねえ! それでおトラさん、今夜はどこで……」
やけにゴキゲンな蜜月が伸びをして、質問をしようとしたところで虎姫から止められる。「しおりがあるでしょ、それを見て!」と、注意するようだった。
「その前に。ここからはバスの旅になります……。なので、先におトイレなどを済ませておいてください」
彼女が、秘書の環も含む参加者全員に呼びかけた時ばかりは、皆も姿勢を正してしっかりと話を聞いていた。一見不まじめそうに見える蜜月もだ。
「お土産も一応見て行きましょ。大丈夫、開けなかったらいいだけなんだし! クーラーボックスだって持ってきてるし?」
虎姫が参加者へのお願いを言い終わった時に、アデリーンが「にぱーッ」と笑い、提案する。空港ならではの土産物はもちろん、今後必要になるガイドブックや間食または非常食を、お小遣いが許す限りで仕入れておこうというわけである。もちろん、使いすぎないようには心がけるつもりでいた。
――そんなわけで、少し経ってからアデリーンは竜平や綾女に葵、彩姫も連れて店をほんのちょっとだけ見て回る。もちろんトイレなども済ませて、抜かりは一切なかった。
「蜂須賀さんは行かれないんですか?」
「わ、ワタシは小百合さんやおトラさんたちを護衛しなくてはいけませんので……。それにまだ、お楽しみはこれからですし? お金も無駄遣いせぬよう励みたいですし、さびしくなんかありませんし……?」
痛いところを突かれてか、演技派の蜜月にしては珍しく目が泳いでいた。
◆◆◆◆
「しゅっぱーつ、しんこーッ」
かくして、テイラー社長お抱えの旅行バスに乗った一同。アデリーンは引き続き彩姫の隣に座り、葵は母・春子とともに反対方向の列に座る。蜜月は補助席を出して、彼女たちの間に陣取る。浦和家はと言うとその前の列に座っていたし、虎姫と磯村環は最前列で仲良く座り、運転席と後ろのほうを見守ることに決めていた。
「確かこの後は」
改めてしおりを開き、スケジュール表に目を通しておくアデリーン。出発前の自宅や機内で読んでいなかったわけではなく、あくまで確認のためだ。
「ねえヒメちゃん、まさかとは思うけど。現地での観光よりも、帰りのサービスエリアに寄ってく時間のほうが長い――……なんてことにはならないでしょうね?」
「行きと帰りは飛行機だからその心配はない……と、思うよ」
「ホントかなー……?」
虎姫との仲は言うまでもなく良好ではあるのだが、その顔も口調も、半信半疑であった。社長とその良き友人のやり取りを見ていた磯村環は、「信じてほしい」という意志を表情に出し、それを見てアデリーンも環に免じて、少しはその気になった。
「じーッ」
「おや、福岡の景色に見とれちまったかい? 葵たんはもう知ってるかもしれんけどさ、工場やコンビナートの辺りはね、夜に見たほうがキレイなんよ」
窓から高速道路とその向こうに見える港湾地帯を眺めていた梶原親子を見て、蜜月が珍しく目じりを下げて語りかける。ナンパでもするようなノリで、普通の女子ならばコロッと落とされてしまいそうだ。
「うん、知ってます」
「おほ~……イイね……」
葵とこれから盛り上がろうとした瞬間、春子が咳払いをしたので、蜜月は気まずさから肩が引きつった。
「あらやだ。葵をたぶらかさないでくださいな」
「そそそ、そんなつもりじゃ!?」
そうしてバスは道路を走り抜けていく。途中、高速道路の下の用水路で魚が跳ねていたらしく、その様子を偶然目撃した葵が母の春子や蜜月らと盛り上がっていた、とのこと。
◆◆◆
参加者一同を乗せたバスが停まったのは、博多市内のグランドホテル『スリーファイブスターズ』の敷地内にある駐車場。そしてそのホテルは、グランドが頭につくだけあり、それはもう大きくて立派な外観をしていた。ロビーに入れば、床も壁も大理石で作られていたし、装飾も豪華絢爛を極めている。こうした場に行き慣れているアデリーンや蜜月も、虎姫さえも、みんな目を輝かせていたが、出入りする人々はアデリーンの絶世の美貌に目を惹かれている。当の彼女は「やだ、すっごい見られてる……」と、ちょっとだけ恥ずかしがった。
「いいホテルでしょう。旅行中は基本ここで連泊をさせていただくこととなっております」
「言うなれば、皆様の活動拠点になるということですね。遠慮はなさらず気ままにお過ごしください」
虎姫も環も、自身に満ちた顔で説明し、参加者たちもしおりに目を通しながら聞いている。環が髪を梳かして、それからいろいろあった後、全員宿泊する部屋に向かった。
部屋割りはこうだ。浦和家が551号室、梶原家とアデリーンと彩姫が552号室、虎姫と環と蜜月が553号室、である。
「余裕が出来たらあとでそっちに遊びに行くよーッ。アデリンさんも葵ちゃんも、春子おばさまもお楽しみに」
「うふふ。はーい♪」
そうやっていったん綾女たちと別れてから、アデリーンは梶原家とともに552号室へと入る。部屋の中は白やセピア色を基調とした内装となっており、ふかふかして気持ちのいいベッドにテレビ、座敷はもちろんベランダも用意されていた。シャワールームとピカピカの洗面所にトイレもだ。
「いいホテルですねっ。アデリーンさんはここ泊まったことありますか?」
「今回がはじめてよ。前に福岡に来た時はいずれも、ここじゃないホテルだったからね」
「それじゃー、改めまして、今回の旅行中は何卒よろしくお願いします」
荷物を下ろし、位置取りも決まってすぐのこと。靴を脱いでベッドの上でくつろぎながら葵が話をしていた途中、まだ座っていなかった春子がアデリーンに向けて一礼する。
「はいっ!」
春子に合わせ、アデリーンももう一度靴を履き直して礼をした。すると春子が急にアデリーンの両手を握り、驚かせる。
「あの。今更なことではありますが――、どうかうちの葵と仲良くしてやってくださいな」
「も……、もちろんですとも!」




