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【5th anniversary!】アデリーン・ジ・アブソリュートゼロ  作者: SAI-X
【第18話】博多へ!逃げて来たドラゴンフライ
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FILE130:浦和家&梶原家 博多・福岡ツアー御一行様


 それは、アデリーンと蜜月が家出少女の聖花と出会い、彼女を守りきってから数週間後のある昼下がりのことだった。


「姉さん、リュウヘイくんやアオイたちと博多旅行に行くってホント?」


 クラリティアナ邸のリビングにて。いろいろと複雑な事情が関係して、学校には当分通えそうにない妹たちのためにアデリーンが献身的に勉強を教えていたところ、1つ下の妹であるエリスからそう問われたのだ。


「まあね。しかもヒメちゃんことトラヒメ社長が、私やリュウヘイにアオイちゃんたちのために企画してくれたの!」


「いいなあ。姉様は……」


「……うふふ、ロザリアも行きたかった?」


「ううん、違うの。あたし姉様がうらやましいって思っただけだから……気にしないで!」


「大丈夫、旅行ならいつかは行けるよ。そのいつか(・・・)来る日のために、姉さんは戦ってくれてるんだから。ね?」


「エリス」


 1つ下の妹が、一番下の妹を諭しながらその頭を洗う要領でなでる。心配ではないと言えばウソになるが、この調子ならば末っ子のことは任せてしまっても大丈夫そうだ。テーブルから少し離れた位置で見守っている両親のアロンソとマーサは既にその気(・・・)でいるし、これで不安の種はなくなった。


「わかったわ。それじゃあ……父さん、母さん、エリスたちの面倒を見てやって」


「もちろんさ。お前たちのためならお安いご用だ」


 アロンソが、娘からの願いを聞き届けてサムズアップをする。――とても良い笑顔だった。


「たまにはパーッと楽しんでおいで。それでいつ頃なの?」


 妹たちに振り向いてから、アデリーンは母のもとに移動して、目線の高さも合わせ抱き着いてから、屈託のない笑顔でこう告げる。


「今度の連休まるまる使って! ……だそうなの」



 ★☆★



 連休初日。荷物を用意して来たアデリーンたちはテイラー家の自家用ジェットに乗せてもらい、気ままに空の旅を楽しんでいた。内部は静かでとても広くて装飾も豪華絢爛、リクライニングシートの座り心地も抜群だ。実際、竜平は「すっげー! まさかテイラーさんのジャンボジェット機に乗せてもらえるなんて!」と、生きているうちに二度と経験しないであろう幸運を前に大喜びしたのもつかの間、気が付いたらあまりの気持ちよさにぐっすり眠ってしまった。


「えへへ、サキ先生♪」


「クラリティアナさんのお隣に座れて、私も嬉しいです……!」


 アデリーンはというと、休暇を取って同行して来ていた、艶のある黒いウェーブヘアーの女性にしてスーパードクター・各務彩姫と一緒になっている。いつもは白衣の彩姫は動きやすそうな薄手のワンピースをはじめとする服装で、アデリーンのほうはユニオンジャック柄の上着とハーフパンツというコーデで決めていた。下手な成人男性よりも背の高い彼女から懐かれて、彩姫も満更ではなさそうだ。


「各務先生、この前はウチの弟がお世話になりました!」


 彼女たちが座っている列の後ろの席から身を乗り出して、そう感謝を告げたのは、青と黒のパーカーに黒いジーンズというファッションを着て来た浦和綾女だ。以前、蜂須賀蜜月が入院した際に弟の竜平がお見舞いに行った件で礼を言いたかったのだ。


「葵たん、お隣いいかな……」


「い、いつもと違う組み合わせ……? でもないか。ドキドキしちゃう……」


 ミントグリーンのベストにグレーの七分袖とジーパン姿の葵は、ハニーカラーのワンピースと紺のジーンズという服装をしている蜜月とペアで窓際に座っていた。でも声は届くし、アデリーンや竜平たちの顔も見える。なお、すぐ後ろの席に母親の春子も座っているので、いざという時も安心だ。


「では、空の旅をごゆっくり――」


「……そっち(テイラーグループ)が経営してる商業施設の視察も兼ねて、だったかしら? お邪魔しちゃってゴメンね」


 このプライベートジェット内にCAがついていなかったわけではないが、その役割を代行したわけでもない虎姫が全員に呼びかけた直後、アデリーンが今回の旅行においてのテイラー側のもう1つの目的を確認する。ただし、メインはあくまでも青春(アオハルとも言う)を楽しみ、親睦を深めることにある。なお、秘書である磯村はパイロットを務めて……いたわけではなく、虎姫のすぐ隣の席を貸し切っており、当機のパイロットは信頼のおける有能な人物だし、機長は通称・グレートキャプテンと呼ばれるベテラン中のベテランであった。


「何を突然? いいんだ。むしろ、アデリーンたちには、わたしらに構わず楽しんでいただきたい」


「うへへへへへ、旅にグルメに温泉、アミューズメント……! うひひあひひ!」


「九州ならではのこだわりのファッション……! 福岡ドームにマリンワールドも行ってみたい……!」


 虎姫がすました笑顔をして言ったそばから、蜜月とアデリーンはこんな浮かれている学生じみたノリである。


「いいねえ。水族館って……いくつになってもワクワクしちまうんだ!」


「キャナルシティもね。元々博多には何度か遊びに行ってるけど、夜のあそこはもう異世界だわ。って、水族館怖くないの?」


「ワタシに怖いもんなんかねえ~! また名古屋までコウテイペンギンちゃんとシャチを見に行きたいッッッ! ぶわーっはっはっはっはっ!!」


 大笑いしたところで葵と肩を組んで急にゆらゆらと小躍りし始め、葵はもちろん、直で見ていたアデリーンや綾女も、後ろから聞いてのぞいていた春子もこれには苦笑い。でも、仲がいいのですぐに許した。


「……いいですねっ。お2人とも、すっかり仲良しになられて」


「ミヅキとああして絆を深めることができたのも、すべてサキ先生のおかげです。感謝してもしきれないぐらい」


 彼女は目をキラキラと輝かせ、腰砕けな笑みを浮かべたと同時に、すぐ隣に座っていた彩姫の手を取る。少し戸惑ったが、純真さを見せてくれた彼女に微笑みを返して更に喜ばせた。


「各務先生のもたらしたものって、それだけ大きかったんですよ。竜平も葵ちゃんも、蜜月ちゃんと危うくこじれそうだったのに、結果的に関係を修復してくださって――」


 いったん場が静まり返り、慈愛を感じさせる笑みを浮かべてからそう語る。――綾女にとっては、そんな各務彩姫に対してはどれだけ感謝してもしきれない。彩姫がアデリーンの協力のもとに、生と死の間をさまよっていた蜜月の手術を執り行い、彼女を助けなければ、今こうして盛り上がることもなかったからだ。


「そんな、買いかぶりすぎですよ。でもなんだか……、照れてしまいますね」


 ――そうやって機内での楽しい時間は、福岡空港に着陸するまでずっと続いたのである。

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