FILE117:スクランブル!
「クアアア!」
葵と竜平を捕らえたまま移動したパロットガイストはただ暴れるだけでなく、既に自身の能力を用い、人々に次々と本音を言わせて恋人同士や信頼や友情、あらゆるつながりを破壊していった。その中で浦和ファミリーだけは操らずにそのままにさせていたが、これは……最終兵器ビッグガイスターの設計図のありかを聞き出すためである。彼らはその前に浦和ファミリーがありかを話したくなるまで苦しめようと、商店街を襲って瓦礫を散乱させた上で、この騒ぎを引き起こしていた。
「バクオーン……さあ吐け! 吐くんだ! 設計図はどこに隠した!」
「知らないよ!」
「またそうやって知らんぷりを続けるのだな? だったら我々にも考えがあるぞ」
上半身にたくさんの『抗議する顔』と『なじりたい相手を指差す腕』を持つノイジーガイストは、ヘッドホンをつけた本体の顔を、パロットガイストによって鎖で縛られた竜平と葵に向ける。竜平はもう何度も暴行を受けて、著しく傷ついていた後だ。
「まさか、ウチの竜平と葵ちゃんに手を出そうってじゃないわよね!?」
「お前が話さんからだぞババア! それになぁ……話さないなら話さないならで、街を破壊し続けるまでよ」
「マスター・ギルモアは、市民どもが醜く傷つけあい、苦しむ姿も見てみたいと望んでおられたからなあ。スクウォークッ!」
ここで怪人2体が自身の目的をベラベラとしゃべったのは、わざとである。どうせ、設計図の保管場所を吐かせたら殺してしまうのだからと、そんな風にタカをくくっていたのだ。
「あんたたち……! 竜平どころか、葵ちゃんや母さんにまで! この人でなし!」
「なんだと小娘!」
怒りをむき出しにした綾女は、鎖を巻かれた状態で立ち上がって抗議するが、ノイジーからすごまれる。しかし1歩も引かない。
「お、お姉ダメだ! 元はと言えば俺がお姉たちのことを心配したのが――」
「私たちがなんだって?」
父に続いで姉を喪うかもしれないという焦燥に駆られた竜平がそこまで言いかけた時、綾女は縛られた状態でノイジーガイストのボディを小突き続け、最後に勢いよくぶつかった時、ノイジーは張りの無い声を上げて転倒。代わりに、綾女の細腕には傷が入り血も流れたが、当の彼女は目をつむって笑っている。
「あいててて……。けどリュウや葵ちゃんが傷つけられたのに、私と母さんはピンピンしてるなんて、そんなの不公平じゃない?」
やはり少し痛かったが、誰かが動かなくてはこの状況を打破できないと、彼女はそう判断して行動を起こしたのだ。そして呆気にとられたパロットとノイジーの2体を尻目に、綾女は近くに落ちていた鉄パイプを拾って、竜平に葵や、母の小百合を傷つけない程度に彼らを縛っていた鎖を叩いてちぎり、介抱してみせた。
「お、おい、何やってんだ! このままでは逃げられるぞ! これから例のビルで開催中の平和サミットに出席しているジジイどもをお前の能力で操って、本音を言わせて仲違いさせなきゃならんのに! わかってんのか!」
「う、うるせー! この俺に指図するんじゃねえ、わかってらあ! ……シリコニアーン!!」
露骨に焦り出し、本当の狙いまでゲロってしまったノイジーガイストに叩かれたパロットガイストが、ケイ素で出来たボディを持つ戦闘員たちを呼び寄せる。彼らは人型で簡素な見た目をしており、中には下半身がクモなどの節足動物のように4本足となっている個体も混じっていた。綾女によって救出されてそれぞれその辺に転がっていたガラクタを持って身構えていた浦和ファミリーと葵だったが、そんな中で綾女が葵の肩をトンと叩く。
「葵ちゃん、ここは私たちに任せて、あなたはアデリンさんたちを呼んできて」
「でも!」
「だいじょーぶッ。助けられっぱなしじゃ嫌ってだけだからさ……ほら! 早く!」
最後にアイコンタクトを交わして、葵は綾女たちと別れて走り出す。幸いにもスマートフォンは没収されておらず、必死でその場から逃げた。
「えーい、どけっ! 俺が梶原の小娘を追う!」
「えぇ~!?」
いきり立つパロットがノイジーを足で蹴ってどかし、空を飛んで葵を追撃する。しかし彼女の脚力は彼の予想をはるかに上回り、あまりのんきには飛んでいられず全速力を出した。順調に助けを呼ばれでもしたらパロットガイストたちはおしまいなのだ、いろいろと。
「待て待てーい! あいつらだけは、あいつらだけは呼ばせんぞ! 俺の出世がかかっているのだあ~~ッ!」
「わっ!!」
口から吐かれたタマゴ爆弾が地上に撒かれて次から次に爆発。しかし葵は、ちゃっちゃと物陰に隠れて電話する。
「もしもし、アデリーンさん?」
『アオイちゃんね? 今どこにいるの?』
「綾女さんに逃がしてもらって、あなた方を呼ぶようにって……。わたしなら、綾女さんと小百合おばさまが買い物してた商店街の路地裏です。とにかく来てください!」
『だいぶアバウトね……。オッケー、もう少しだけ待ってて』
通話を終えて葵が身を隠そうとしたその時、空からパロットガイストが降りてきた。
「スクウォ――クッ」
2メートル近い身長で、両腕を広げて威嚇するパロットガイストを目の前にして恐怖に負けそうになった葵だったが、振り払って敵をにらむ。
「ッ……。このオウムのオバケッ! 操った人たちを元に戻して!」
「そうはいかん! 阿鼻叫喚の地獄が見たいという偉大なるマスター・ギルモアのお望みを叶え、最終兵器も完成させ、我々の情報を洩らし続ける蜂須賀を始末してやるのだあ!!」
「欲張りすぎだよ! もう、知らないっ! じゃあねッ」
葵は全力でまた逃げ出す。その途中でノイジーガイストから逃げてきた浦和ファミリーとも合流して、一緒に必死で走るが、そのノイジーガイストに回り込まれてしまった。なお、シリコニアンたちは綾女たちがなんとか倒したようだ。
「お前たちはここまでだ」
「そんな……」
「食らえ、超音波ァー!」
破壊目的ではなく、竜平たちへの嫌がらせのためにノイジーが全身から騒音を発する。彼らが耳を塞ぐ程度にはうるさく、周囲に残っていた人々も苦しみ出した。
「さァー、設計図はどこだ! 早く言わんか……うッ」
「どうしたパロットガイスト!」
「イッデエエエエエエエエエエ! ギャオ~~~~ッ!?」
その刹那だ――。どこからか激しくギターをかき鳴らす音が聞こえてきたのだ。それもまた心正しき者に活力を与え、悪しき者にはダメージを与える音色だった。よって、竜平たちが突然元気が沸いてテンションも上がり、大して悪意を持って動いていたパロットガイストは頭が割れそうになって両腕で頭を押さえ苦しんでいるのだ。しかし、ノイジーにはそれがすぐ把握できなかった。無数に顔がついた上半身のうち、本体の頭にヘッドホンを付けて、必要な音以外は拾わず遮断していたためだ。
「イエェェェェェェイ! Wow,Wow,Wooooooow! ノッてるかーい!」
「だだだだ、誰だ!? 近所迷惑ゥ~~~~!?」
「は~~!? オメーらなんかに言われたかねーよッ!」
「そうよそうよ!」
激しくも清らかな音を奏でていたのは――近くのビルの屋上に立っていた、アデリーンと蜜月だ。アデリーンは今回はエレキギターを携え、蜜月のほうは懐かしのラジカセをかついでいた。
「卑怯なヤツめ、降りて来んかい!」
「ノイジーくんブーメラン刺さってるよお~~~~?」
そこに楽器を持ったまま、2人のヒーローが飛び降りる。まず竜平と葵、綾女に小百合へと顔を向けて微笑みかけてから、彼女たちは怪人たちのほうに振り向く。
「へっ! おれはパロットと違い風流な耳なぞ持っちゃおらんからな、お前らのヘッタクソな演奏など――」
「えいっ! こんなもの、こんなものぉ~~~~~~!!」
その時、葵がとっさに飛び出してノイジーの本体の頭がつけていたヘッドホンを外して近くに放り投げる。それはあっさりと爆散して、ノイジーにショックを与えるには十分すぎた。
「ふ、ふふ……ふへぇへへへへへへ……。よくも葵たんたちをイジメたなあ……。あとはわかってるよねぇ~~~~っ」
「今です! やっちゃって!」
「もちろんよアオイちゃん! もう1回セッション行くわよ、ミヅキ! ミュージック……」
「スッタァァァァァァ!!」
また、魂をも揺さぶるほどの演奏がはじまった。心正しき者を熱くして、心悪しき者を罰するための今日限りのセッションだ。怪人たちは、イントロから既に耳を押さえて苦痛にあえぐ。
「クアアアアアアアアアア!?」
「やべろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――――ッ」




